太陽系外惑星(系外惑星)の大きさは、地球よりもずっと小さいものから木星よりも大きなものまで様々です。
でも、系外惑星を質量と公転距離で分類してみると、海王星の数倍程度の質量(地球の数十倍、木星の数分の1)で、なおかつ恒星に極端に近い軌道を公転する惑星はほとんど見つかっていません。
この範囲は“ホットネプチューン砂漠(Hot Neptune Desert)”と呼ばれていて、条件に当てはまる惑星が希少な理由は、今でもよく分かっていません。
今回、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”を用いた観測データの分析とフォローアップ研究の成果として、系外惑星“TOI-1853b”の発見を報告されました。
そこから判明したのは、“TOI-1853b”の質量と公転軌道がホット・ネプチューン砂漠に位置するだけでなく、平均密度が1立方センチ当たり9.7±0.8gと異常に高密度であること。
“TOI-1853b”は過去に巨大衝突を経験した可能性があり、ホットネプチューン砂漠という惑星の希少性を理解する上で、手掛かりになる可能性があるようです。
その結果、1つの系外惑星“TOI-1853b”を見つけています。
“TOI-1853b”は、うしかい座の方向約540光年彼方に位置するK型主系列星“TOI-1853”を、1.24日ごとに1周するほど小さな軌道を公転しています。
このため、“TOI-1853b”の表面温度は1200度の高温に達すると推定されています。
また、“TESS”の観測データから推定される“TOI-1853b”の直径は、地球の3.46±0.08倍(約4万4000キロ)で、海王星の約90%に相当することから、“TOI-1853b”は灼熱の海王星型惑星“ホットネプチューン”に分類されます。
“TESS”のデータ分析に加えて、ロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台(スペイン領カナリア諸島)に設置された“国立ガリレオ望遠鏡(分光器“HARPS-N”)”による観測も実施。(※2)
ドップラーシフト法(※3)で得たデータを分析し“TOI-1853b”の質量を推定しています。
これは、海王星の約4.3倍で、これまでに発見された巨大氷惑星のほぼ2倍にもなる質量がありました。
むしろ、この質量は巨大ガス惑星である土星(地球の約95.2倍)に近いスケールを持つことになり、ホットネプチューン砂漠のほぼ中央に位置しています。
このため、“TOI-1853b”は平均密度が1立方センチ当たり9.7±0.8グラムという、信じられないほどの高密度な惑星に…
この平均密度は、水素とヘリウムが主体の巨大ガス惑星はもちろん、それよりも少し重い物質が主体の巨大氷惑星でもあり得ない値なんですねー
太陽系で最も平均密度が高い惑星は地球ですが、それでも1立方センチ当たり5.51グラムです。
厳密に直径と質量が測定された既知の惑星の中で、最も高密度な惑星の1つになった“TOI-1853b”。
これほどの高密度な惑星が存在するには、重い元素が豊富に含まれているはずです。
大雑把に言ってしまえば、“TOI-1853b”は岩石を主体とする地球の拡大版なのかもしれません。
でも、通常の惑星形成論に従えば、これほど巨大な岩石の塊が形成されれば、自身の重力で周囲の軽い元素を引き寄せて保持し、木星のような軽い元素を主体とする惑星が誕生するはず…
そう、これほど高密度な天体にはならないはずです。
研究チームが考えているのは、過去に惑星同士の巨大衝突が起きた結果、“TOI-1853b”が形成されたというもの。
その場合、“TOI-1853b”はもともと巨大な岩石惑星“スーパーアース”として形成され、水のような軽い物質が豊富だったと考えられます。
そして、過去のいずれかの時点で別の岩石惑星が衝突して軽い物質を吹き飛ばした結果、これほど巨大な岩石惑星が形成されたと推定しています。
研究チームが示した巨大衝突のシナリオは、地球の月を生み出した“ジャイアント・インパクト説”に似ています。
でも、ジャイアント・インパクト説では天体衝突の速度を9.3km/s程度と推定しているのに対し、“TOI-1853b”を生み出した衝突の速度は桁違いの75km/s以上だったと推定しています。
これほどの巨大衝突が起きる確率が低い場合、このようなタイプの惑星は珍しい存在ということになるので、ホットネプチューン砂漠を説明できる可能性があります。
ただ、研究チームでは巨大衝突以外の惑星形成も考えています。
通常の惑星形成論で考えると、“TOI-1853b”は軽い物質を豊富に持つ巨大ガス惑星として誕生した可能性が高くなります。
もし、“TOI-1853b”が極端な楕円の公転軌道を持ち、中心部の恒星に極端に近づく場合、恒星からの熱で軽い物質が蒸発してしまい、さらに潮汐力によって公転軌道が真円に近付くことになります。
すると、“TOI-1853b”はますます高温で熱せられることになるので、最終的には軽い物質をほとんど失って高密度な岩石の芯だけが残され、現在の姿になる可能性があります。
このシナリオが示しているのは、“TOI-1853b”がそれほど特異な起源を持たず、通常の惑星形成論に従って誕生した場合でも、現在のような高密度天体になり得ること。
それでも、かなり巨大な岩石の芯を持つ巨大ガス惑星が形成される必要があるので、その珍しさ次第でホットネプチューン砂漠を説明できる可能性はあります。
巨大衝突のシナリオで形成された場合、“TOI-1853b”は岩石と水が質量のほぼ半分ずつを占めていると考えられるので、水蒸気の大気で覆われている可能性があります。
一方、軽い物質が蒸発して形成されるシナリオの場合。
“TOI-1853b”は、ほとんどすべてが岩石でできていて、質量の1%未満を占める水素とヘリウムの薄い大気を持つと考えられます。
いずれのシナリオでも、これまでの惑星形成論では予測しがたい興味深い過去を持つことになり、ホットネプチューン砂漠ができる原因に迫ることにもなります。
今後、研究チームでは、観測が極めて困難であることを認めつつも、“TOI-1853b”に存在する薄い大気を分析することで、この惑星の形成シナリオを絞り込んでいくようです。
こちらの記事もどうぞ
でも、系外惑星を質量と公転距離で分類してみると、海王星の数倍程度の質量(地球の数十倍、木星の数分の1)で、なおかつ恒星に極端に近い軌道を公転する惑星はほとんど見つかっていません。
この範囲は“ホットネプチューン砂漠(Hot Neptune Desert)”と呼ばれていて、条件に当てはまる惑星が希少な理由は、今でもよく分かっていません。
今回、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”を用いた観測データの分析とフォローアップ研究の成果として、系外惑星“TOI-1853b”の発見を報告されました。
そこから判明したのは、“TOI-1853b”の質量と公転軌道がホット・ネプチューン砂漠に位置するだけでなく、平均密度が1立方センチ当たり9.7±0.8gと異常に高密度であること。
“TOI-1853b”は過去に巨大衝突を経験した可能性があり、ホットネプチューン砂漠という惑星の希少性を理解する上で、手掛かりになる可能性があるようです。
この研究を進めているのは、ローマ・トル・ヴェルガータ大学のLuca Naponielloさんたちの研究チームです。
図1.“TOI-1853b”のイメージ図。(Credit: Luca Naponiello) |
直径と質量が測定された惑星の中で最も高密度な天体
2018年4月18日に打ち上げらえた“TESS”は、トランジット法(※1)を用いて多数の太陽系外惑星候補を発見してきました。※1.NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)”は、地球から見て系外惑星が恒星(主星)の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る“トランジット法”という手法により惑星を発見し、その性質を明らかにする。“TESS”が狙うのは、地球からおよそ300光年以内にあり、恒星の明るさによって大気が照らされている惑星。調査する恒星の多くは赤色矮星という銀河系に最も多いタイプで、私たちの太陽よりも小さくて暗い恒星。
今回の研究では“TESS”のデータ分析と追加の観測を実施。その結果、1つの系外惑星“TOI-1853b”を見つけています。
“TOI-1853b”は、うしかい座の方向約540光年彼方に位置するK型主系列星“TOI-1853”を、1.24日ごとに1周するほど小さな軌道を公転しています。
このため、“TOI-1853b”の表面温度は1200度の高温に達すると推定されています。
また、“TESS”の観測データから推定される“TOI-1853b”の直径は、地球の3.46±0.08倍(約4万4000キロ)で、海王星の約90%に相当することから、“TOI-1853b”は灼熱の海王星型惑星“ホットネプチューン”に分類されます。
“TESS”のデータ分析に加えて、ロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台(スペイン領カナリア諸島)に設置された“国立ガリレオ望遠鏡(分光器“HARPS-N”)”による観測も実施。(※2)
ドップラーシフト法(※3)で得たデータを分析し“TOI-1853b”の質量を推定しています。
※2.分光器“HARPS-N”は、惑星の運動によって生じるドップラー効果に対応したスペクトル分析に特化していて、大気組成を調べる上で優れた性能を持っている。
※3.ドップラーシフト法は、恒星(主星)の周りを公転している惑星の重力で、主星が引っ張られることによる“ゆらぎ”を光の波長の変化から読み取ることで惑星の存在を検出する手法。波長変化の度合いは主星の運動速度によって、そして主星を引っ張る惑星の質量によるので惑星の質量を推定できる。ドップラーシフト法だけでは原理的に惑星質量の下限値が求められる。仮にトランジット法による観測ができる惑星系であった場合、その結果と組み合わせて正確に惑星質量が求められる。
その結果分かったのは、“TOI-1853b”の質量が地球の73.2±2.7倍だということ。これは、海王星の約4.3倍で、これまでに発見された巨大氷惑星のほぼ2倍にもなる質量がありました。
むしろ、この質量は巨大ガス惑星である土星(地球の約95.2倍)に近いスケールを持つことになり、ホットネプチューン砂漠のほぼ中央に位置しています。
このため、“TOI-1853b”は平均密度が1立方センチ当たり9.7±0.8グラムという、信じられないほどの高密度な惑星に…
この平均密度は、水素とヘリウムが主体の巨大ガス惑星はもちろん、それよりも少し重い物質が主体の巨大氷惑星でもあり得ない値なんですねー
太陽系で最も平均密度が高い惑星は地球ですが、それでも1立方センチ当たり5.51グラムです。
厳密に直径と質量が測定された既知の惑星の中で、最も高密度な惑星の1つになった“TOI-1853b”。
これほどの高密度な惑星が存在するには、重い元素が豊富に含まれているはずです。
大雑把に言ってしまえば、“TOI-1853b”は岩石を主体とする地球の拡大版なのかもしれません。
でも、通常の惑星形成論に従えば、これほど巨大な岩石の塊が形成されれば、自身の重力で周囲の軽い元素を引き寄せて保持し、木星のような軽い元素を主体とする惑星が誕生するはず…
そう、これほど高密度な天体にはならないはずです。
惑星同士の巨大衝突が起きて“TOI-1853b”が形成された
“TOI-1853b”が、これほど高密度な天体になれた理由は何でしょうか?研究チームが考えているのは、過去に惑星同士の巨大衝突が起きた結果、“TOI-1853b”が形成されたというもの。
その場合、“TOI-1853b”はもともと巨大な岩石惑星“スーパーアース”として形成され、水のような軽い物質が豊富だったと考えられます。
そして、過去のいずれかの時点で別の岩石惑星が衝突して軽い物質を吹き飛ばした結果、これほど巨大な岩石惑星が形成されたと推定しています。
研究チームが示した巨大衝突のシナリオは、地球の月を生み出した“ジャイアント・インパクト説”に似ています。
でも、ジャイアント・インパクト説では天体衝突の速度を9.3km/s程度と推定しているのに対し、“TOI-1853b”を生み出した衝突の速度は桁違いの75km/s以上だったと推定しています。
図2.巨大衝突のシミュレーション画像。(Credit: Jingyao Dou) |
ただ、研究チームでは巨大衝突以外の惑星形成も考えています。
通常の惑星形成論で考えると、“TOI-1853b”は軽い物質を豊富に持つ巨大ガス惑星として誕生した可能性が高くなります。
もし、“TOI-1853b”が極端な楕円の公転軌道を持ち、中心部の恒星に極端に近づく場合、恒星からの熱で軽い物質が蒸発してしまい、さらに潮汐力によって公転軌道が真円に近付くことになります。
すると、“TOI-1853b”はますます高温で熱せられることになるので、最終的には軽い物質をほとんど失って高密度な岩石の芯だけが残され、現在の姿になる可能性があります。
このシナリオが示しているのは、“TOI-1853b”がそれほど特異な起源を持たず、通常の惑星形成論に従って誕生した場合でも、現在のような高密度天体になり得ること。
それでも、かなり巨大な岩石の芯を持つ巨大ガス惑星が形成される必要があるので、その珍しさ次第でホットネプチューン砂漠を説明できる可能性はあります。
巨大衝突のシナリオで形成された場合、“TOI-1853b”は岩石と水が質量のほぼ半分ずつを占めていると考えられるので、水蒸気の大気で覆われている可能性があります。
一方、軽い物質が蒸発して形成されるシナリオの場合。
“TOI-1853b”は、ほとんどすべてが岩石でできていて、質量の1%未満を占める水素とヘリウムの薄い大気を持つと考えられます。
いずれのシナリオでも、これまでの惑星形成論では予測しがたい興味深い過去を持つことになり、ホットネプチューン砂漠ができる原因に迫ることにもなります。
今後、研究チームでは、観測が極めて困難であることを認めつつも、“TOI-1853b”に存在する薄い大気を分析することで、この惑星の形成シナリオを絞り込んでいくようです。
こちらの記事もどうぞ
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます