今回の研究では、アルマ望遠鏡を用いて宇宙誕生後6億年の時代に存在する若い銀河を、これまでにない高い解像度でとらえることに成功しています。
そして、アルマ望遠鏡がとらえたチリと酸素の電波画像から分かったこと。
それは、暗黒星雲と散光星雲が互いに入り混じり、また活発な星々の誕生と超新星爆発によって作られた巨大な空洞“スーパーバブル”と見られる構造でした。
宇宙初期の天体において星々の生と死にかかわる星雲の姿が、これほど精細にとらえられた例はなく、銀河の誕生にかかわる重要な手掛かりが得られると期待されています。
それを知るには遠方銀河の観測が重要になります。
例えば、130億光年彼方に位置する天体が放った光や電波は、130億年の時間をかけて地球に届いています。
なので、その光や電波を観測することは、130億年前のその天体の姿を見ていることになるんですねー
研究チームが、アルマ望遠鏡による超遠方銀河の探査に乗り出したのは2012年のことでした。
その後、2016年に当時としては史上最遠方の酸素が放つ電波を検出するという世界記録に結び付きています。
当時史上最遠方の銀河の同定に成功しています。
さらに、2019年には132億光年彼方の別の銀河“MACS0416_Y1”から、酸素の放つ電波に加え、チリが放つ電波を検出することに成功しました。
チリは星が一生を終える際に、周囲に撒き散らされる残骸に由来します。
星々の生と死がまだあまり繰り返されていない早期の宇宙にチリが存在することは、驚くべき発見でした。
星の残骸の集積体である暗黒星雲は、新たな星が生まれる母体になることが知られています。
なので、暗黒星雲内部の詳細な観測は、銀河の中で星がどのようにして生まれては死に、次の世代の星の誕生につながっていくかを知る上で重要なことになります。
暗黒星雲の中で巨大な星が生まれると、生まれたての星は高温なので周りのガスの電子を剥ぎ取ってイオン化していきます。
こうしたイオン化したガスからなる星雲を散光星雲と呼びます。
2019年に遠方銀河“MACS0416_Y1”に見つかったチリと酸素は、それぞれ暗黒星雲(チリが放つ電波)と散光星雲(酸素が放つ電波)から放射されていると考えられています。
そう、このチリと酸素の分布を詳細に観測できれば、銀河の中の暗黒星雲で星がどのように生まれ、散光星雲ができるかを知る手掛かりになるはずです。
ただ、2019年の観測で得られた画像では、解像度が十分ではなかったんですねー
チリと酸素、すなわち暗黒星雲と散光星雲を区別することができていませんでした。
そこで、今回の研究で試みられたのは“MACS_Y1”の高解像度観測でした。
研究チームは、アルマ望遠鏡のアンテナを直径3.4キロの望遠鏡に相当する解像度が得られるように配置し、28時間に及ぶ長時間観測を実施。
遠方銀河としては、これまでよりはるかに高い解像度と高い感度の観測画像を得ることに成功しています。
この画像により、チリの出す電波と酸素の出す電波の出処が、それぞれ別の場所だと見分けることができました。
これは、ちょうど山間の平地を縫って集落や畑が広がっていくように、暗黒星雲の内部で誕生した星々が周りのガスをイオン化し、散光星雲に変えていく様子を見ているものと考えられます。
これまでの研究から分かっていたのは、“MACS0416_Y1”が過去数百万年にわたって天の川銀河のおよそ100倍にも及ぶスピードで星を生み出していることでした。
これらの星々は、巨大な集団(星団)として生まれ、短命のうちに次々に超新星爆発を起こして死を迎え、その衝撃で巨大な空洞“スーパーバブル”を作っている可能性がありました。
今回見つかった巨大な空洞は、この“スーパーバブル”により作られた可能性があります。
この巨大なバブルは、やがて破裂し銀河内部の星間空間や銀河の外の広大な空間に、星々の残骸(様々な元素やチリ)を含むガスを撒き散らすと予想されています。
こうした元素やチリは、再び暗黒星雲に取り込まれて、次世代の恒星や惑星の材料になるだけでなく、銀河や銀河団の化学組成を変容させていく、いわば“宇宙の物質循環”を生み出す原動力になると考えられています。
さらに、今回の観測で知ることができたのは、星雲を構成するガスの運動でした。
ガスは、時速20万キロのもの乱気流になっていたんですねー
このような乱気流のもとでは、星々は巨大星団となって誕生する可能性が指摘されています。
巨大星団は形成期の銀河に見られる特徴で、今後ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡や、2030年代に観測が開始される口径30メートルの次世代超大型光学赤外線望遠鏡“TMT”により、形成される星団自体の高解像度観測を行うことで、より詳細な情報が得られると期待されます。
一般に、同じ観測時間で解像度を上げると、感度は犠牲になってしまいます。
今回、ターゲットにした天体は132億光年彼方の非常に暗い天体なので、高い感度が必要だったわけです。
今回の研究成果は、アルマ望遠鏡の究極の性能を引き出すことで、宇宙早期の銀河の成り立ちや星々の生死、そして宇宙の物質循環の理解につながった意義深いものといえます。
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そして、アルマ望遠鏡がとらえたチリと酸素の電波画像から分かったこと。
それは、暗黒星雲と散光星雲が互いに入り混じり、また活発な星々の誕生と超新星爆発によって作られた巨大な空洞“スーパーバブル”と見られる構造でした。
宇宙初期の天体において星々の生と死にかかわる星雲の姿が、これほど精細にとらえられた例はなく、銀河の誕生にかかわる重要な手掛かりが得られると期待されています。
この研究は、名古屋大学大学院理学研究科 田村陽一教授、筑波大学数理物質系 橋本卓也助教たちの国際研究チームが進めています。
遠方銀河の観測
138億年前の宇宙誕生から間もない頃に、星や銀河はどのように形成されたのでしょうか?それを知るには遠方銀河の観測が重要になります。
例えば、130億光年彼方に位置する天体が放った光や電波は、130億年の時間をかけて地球に届いています。
なので、その光や電波を観測することは、130億年前のその天体の姿を見ていることになるんですねー
研究チームが、アルマ望遠鏡による超遠方銀河の探査に乗り出したのは2012年のことでした。
その後、2016年に当時としては史上最遠方の酸素が放つ電波を検出するという世界記録に結び付きています。
日本を含む22の国と地域が協力して、南米チリのアタカマ砂漠(標高5000メートル)に建設されたのが、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array = ALMA:アルマ望遠鏡)。人間の目には見えない波長数ミリメートルの“ミリ波”やそれより波長の短い“サブミリ波”の電波を観測する。高精度パラボラアンテナを合計66台設置し、それら全体をひとつの電波望遠鏡として観測することができる。
その後も記録を更新し、2018年には132.8億光年彼方の酸素が放つ電波を検出。当時史上最遠方の銀河の同定に成功しています。
さらに、2019年には132億光年彼方の別の銀河“MACS0416_Y1”から、酸素の放つ電波に加え、チリが放つ電波を検出することに成功しました。
チリは星が一生を終える際に、周囲に撒き散らされる残骸に由来します。
星々の生と死がまだあまり繰り返されていない早期の宇宙にチリが存在することは、驚くべき発見でした。
暗黒星雲と散光星雲
冷たいチリやガスからなる雲は、チリが星の光を遮るために黒く見えることから暗黒星雲と呼ばれています。星の残骸の集積体である暗黒星雲は、新たな星が生まれる母体になることが知られています。
なので、暗黒星雲内部の詳細な観測は、銀河の中で星がどのようにして生まれては死に、次の世代の星の誕生につながっていくかを知る上で重要なことになります。
暗黒星雲の中で巨大な星が生まれると、生まれたての星は高温なので周りのガスの電子を剥ぎ取ってイオン化していきます。
こうしたイオン化したガスからなる星雲を散光星雲と呼びます。
2019年に遠方銀河“MACS0416_Y1”に見つかったチリと酸素は、それぞれ暗黒星雲(チリが放つ電波)と散光星雲(酸素が放つ電波)から放射されていると考えられています。
そう、このチリと酸素の分布を詳細に観測できれば、銀河の中の暗黒星雲で星がどのように生まれ、散光星雲ができるかを知る手掛かりになるはずです。
ただ、2019年の観測で得られた画像では、解像度が十分ではなかったんですねー
チリと酸素、すなわち暗黒星雲と散光星雲を区別することができていませんでした。
そこで、今回の研究で試みられたのは“MACS_Y1”の高解像度観測でした。
研究チームは、アルマ望遠鏡のアンテナを直径3.4キロの望遠鏡に相当する解像度が得られるように配置し、28時間に及ぶ長時間観測を実施。
遠方銀河としては、これまでよりはるかに高い解像度と高い感度の観測画像を得ることに成功しています。
この画像により、チリの出す電波と酸素の出す電波の出処が、それぞれ別の場所だと見分けることができました。
宇宙の物質循環を生み出す原動力
今回得られた画像を見て分かったことは、散光星雲と暗黒星雲がお互いを避け合うように入り組んで分布していること。これは、ちょうど山間の平地を縫って集落や畑が広がっていくように、暗黒星雲の内部で誕生した星々が周りのガスをイオン化し、散光星雲に変えていく様子を見ているものと考えられます。
これまでの研究から分かっていたのは、“MACS0416_Y1”が過去数百万年にわたって天の川銀河のおよそ100倍にも及ぶスピードで星を生み出していることでした。
これらの星々は、巨大な集団(星団)として生まれ、短命のうちに次々に超新星爆発を起こして死を迎え、その衝撃で巨大な空洞“スーパーバブル”を作っている可能性がありました。
今回見つかった巨大な空洞は、この“スーパーバブル”により作られた可能性があります。
この巨大なバブルは、やがて破裂し銀河内部の星間空間や銀河の外の広大な空間に、星々の残骸(様々な元素やチリ)を含むガスを撒き散らすと予想されています。
こうした元素やチリは、再び暗黒星雲に取り込まれて、次世代の恒星や惑星の材料になるだけでなく、銀河や銀河団の化学組成を変容させていく、いわば“宇宙の物質循環”を生み出す原動力になると考えられています。
さらに、今回の観測で知ることができたのは、星雲を構成するガスの運動でした。
ガスは、時速20万キロのもの乱気流になっていたんですねー
このような乱気流のもとでは、星々は巨大星団となって誕生する可能性が指摘されています。
巨大星団は形成期の銀河に見られる特徴で、今後ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡や、2030年代に観測が開始される口径30メートルの次世代超大型光学赤外線望遠鏡“TMT”により、形成される星団自体の高解像度観測を行うことで、より詳細な情報が得られると期待されます。
超大型光学赤外線望遠鏡“TMT(Thirty Meter Telescope)”は、現在建設計画を進めている口径30メートルの望遠鏡。国立天文台の他、アメリカ、カナダ、中国、インドの5か国でハワイ島マウナケア山頂に建設予定。
また、今回の成果を初めて可能したのは、高解像度と高感度を同時に実現したアルマ望遠鏡の性能でした。一般に、同じ観測時間で解像度を上げると、感度は犠牲になってしまいます。
今回、ターゲットにした天体は132億光年彼方の非常に暗い天体なので、高い感度が必要だったわけです。
今回の研究成果は、アルマ望遠鏡の究極の性能を引き出すことで、宇宙早期の銀河の成り立ちや星々の生死、そして宇宙の物質循環の理解につながった意義深いものといえます。
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