生まれたばかりの宇宙は、電子や陽子、ニュートリノが密集して飛び交う高温のスープのような場所で、電離した状態にありました。
でも、宇宙が膨張し冷えるにしたがって、電子と陽子は結びつき電気的に中性な水素が作られます。
この時代には、光を放つ天体はまだ生まれていなかったので“宇宙の暗黒時代”と呼ばれています。
その後、宇宙で初めて生まれた星や銀河が放つ紫外線により水素が再び電離されていくんですねー
これにより、宇宙に広がっていた中性水素の“霧”が電離されて晴れていきます。
この現象を“宇宙の再電離”といいます。
今回、直接観測に成功したのは、約129億年前の太古の宇宙における若い星形成銀河が、周囲の銀河間ガスを電離し“宇宙再電離”を引き起こしている現場。
観測にはジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が用いられました。
この研究は、スイス・チューリッヒ工科大学のサイモン・リリー教授をリーダーとする国際共同研究プロジェクト“EIGER計画”によるもので、名古屋大学高等研究院の柏野大地特任助教らも参加しています。
でも、約38万年の時点で十分に冷えて電子を獲得し水素原子になります。
その後、宇宙誕生後約1億5千万年から10億年の間に再び電離化が進み、今では水素ガスの大半は電離状態になっています。
宇宙再電離の主な要因として考えられているのは、若い銀河内で生まれた星からの紫外線放射です。
ただ、それ以外にも、非常に明るいクエーサーのブラックホール降着による放射や、粒子崩壊などのさらにエキゾチックな“新しい物理”の可能性も提案されていました。
観測には、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”が広視野スリットレス分光モードで使用されました。
中性水素は、特に“ライマンα光(Lyα光)”など波長121.6nmの光を吸収します。
なので、クエーサーのスペクトルを分析すると、視線(地球とクエーサーを結ぶ直線)に沿って、異なる赤方偏移における中性水素の吸収線を調べることが可能です。
また、クエーサーのスペクトルにおける吸収線を分析すると、星の中で作られ、銀河風によって銀河間空間に排出される炭素、酸素、マグネシウムなどの重元素の存在も検出することができます。
この領域において、赤方偏移5.3<z<6.9の範囲で117個の銀河について、分光学的に同定することに成功。
この銀河サンプルとクエーサーのスペクトルから、銀河間ガスの平均透過率が銀河からの距離によってどのように変化するかを測定しています。
その結果示されたのが、宇宙が部分的にしか電離されていない宇宙年齢9.5億年頃(赤方偏移5.9付近)では、銀河の周りに半径250万光年程度の、泡状の透過率の高い電離領域を形成していること。
さらに、この時代からさらに1億年ほど経過すると(赤方偏移5.5付近)、個々の電離領域が広がり重なり合うことで宇宙全体が電離されることが示されました。
このように遠方の(古い)銀河になるほど“ライマンα光”の透過が少なくなるのは、再電離前の中性水素ガスの量が増えるため。
そして、赤方偏移5.9付近の透過領域が、およそ250万光年以内にある銀河からの電離放射の局所的な影響によって生成されていることを示していました。
さらに、宇宙再電離を引き起こしたのは、この時代の一般的な銀河であり、希少なクエーサーや、崩壊粒子などのようなエキゾチックな可能性ではないことを強く示しています。
これら銀河の性質については、“EIGER II”(今回の論文は“EIGER I”)で詳しく分析され、特に重要な性質として、重元素の濃度が低く電離光子の生成効率が高いことが明らかになっています。
これらの性質は、このような初期には一般に銀河にはまだガスが豊富で、超新星爆発で大量の重元素を生成する時間が無かったことを反映していて、電離光子の生成効率が高いので、若い銀河は宇宙で再電離するのに非常に有効な原動力になっていたようです。
なお、このような銀河の性質は、現在の宇宙では1%程度しか見られません。
でも、宇宙年齢が10億年の頃にはそれが一般的であり、銀河の性質が宇宙時間においていかに強く進化しているかを物語っています。
“EIGER計画”が目指しているのは、宇宙再電離中期から後期にかけての宇宙の姿を描くこと。
この計画から得られる知見は、2030年代以降に実現を目指している中性水素21cm線観測による宇宙再電離初期および暗黒時代の観測的研究のための土台を提供するものになるはずです。
今回の研究成果は、宇宙史を切れ目なく理解するという究極的な目標における重要な一歩と言えます。
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でも、宇宙が膨張し冷えるにしたがって、電子と陽子は結びつき電気的に中性な水素が作られます。
この時代には、光を放つ天体はまだ生まれていなかったので“宇宙の暗黒時代”と呼ばれています。
その後、宇宙で初めて生まれた星や銀河が放つ紫外線により水素が再び電離されていくんですねー
これにより、宇宙に広がっていた中性水素の“霧”が電離されて晴れていきます。
この現象を“宇宙の再電離”といいます。
今回、直接観測に成功したのは、約129億年前の太古の宇宙における若い星形成銀河が、周囲の銀河間ガスを電離し“宇宙再電離”を引き起こしている現場。
観測にはジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が用いられました。
この研究は、スイス・チューリッヒ工科大学のサイモン・リリー教授をリーダーとする国際共同研究プロジェクト“EIGER計画”によるもので、名古屋大学高等研究院の柏野大地特任助教らも参加しています。
宇宙再電離の最終段階に存在する銀河を検出する
宇宙が誕生して間もない頃は、高温のため陽子は単独で存在していました(電離状態)。でも、約38万年の時点で十分に冷えて電子を獲得し水素原子になります。
その後、宇宙誕生後約1億5千万年から10億年の間に再び電離化が進み、今では水素ガスの大半は電離状態になっています。
宇宙再電離の主な要因として考えられているのは、若い銀河内で生まれた星からの紫外線放射です。
ただ、それ以外にも、非常に明るいクエーサーのブラックホール降着による放射や、粒子崩壊などのさらにエキゾチックな“新しい物理”の可能性も提案されていました。
クエーサーは、銀河中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込む過程で生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体。遠方にあるにもかかわらず明るく見えている。
“EIGER計画”の目的は、宇宙再電離の最終段階に相当する赤方偏移範囲の5.3<z<6.9(宇宙誕生後約7億5千万年から11億年の時代)の銀河を検出し、その赤方偏移を測ること。観測には、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”が広視野スリットレス分光モードで使用されました。
膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。
中性水素の分布を空間的・時間的にマッピング
さらに、宇宙再電離後における銀河と銀河間ガスの相互作用を研究するため、赤方偏移6.0<z<7.1の範囲に存在するクエーサー6つのそれぞれの天域を観測対象にしています。中性水素は、特に“ライマンα光(Lyα光)”など波長121.6nmの光を吸収します。
なので、クエーサーのスペクトルを分析すると、視線(地球とクエーサーを結ぶ直線)に沿って、異なる赤方偏移における中性水素の吸収線を調べることが可能です。
スペクトルは、光の波長ごとの強度分布。スペクトルに現れる吸収線や輝線を合わせた呼称がスペクトル線。
個々の元素は決まった波長の光を吸収したり放出したりする性質がある。その波長での光を吸収し強度が弱まると吸収線、光を放出し強まると輝線としてスペクトルに現れる。光の波長ごとの強度分布スペクトルに現れる吸収線や輝線を調べることで、元素の種類を直接特定することができる。
これにより、銀河間物質における中性水素の分布を、これらの特定の視線に沿って空間的・時間的にマッピングできるわけです。また、クエーサーのスペクトルにおける吸収線を分析すると、星の中で作られ、銀河風によって銀河間空間に排出される炭素、酸素、マグネシウムなどの重元素の存在も検出することができます。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測の様式図。クエーサー(星印)の光は、再電離のエポックにある様々なガスのパッチを通過して望遠鏡に向かう。オレンジ色はまだ電離が起こっていない中性領域、紺色は電離した領域。クエーサーのスペクトルを解析することで、この視線方向のどこでガスが中性あるいは電離しているかをマッピングすることが可能になる。(Credit: 名古屋大学) |
銀河からの電離放射が宇宙再電離を引き起こした
“EIGER計画”で最初に観測された領域は、非常に高輝度なことで有名なクエーサー“J0100+2802”の方向でした。この領域において、赤方偏移5.3<z<6.9の範囲で117個の銀河について、分光学的に同定することに成功。
この銀河サンプルとクエーサーのスペクトルから、銀河間ガスの平均透過率が銀河からの距離によってどのように変化するかを測定しています。
その結果示されたのが、宇宙が部分的にしか電離されていない宇宙年齢9.5億年頃(赤方偏移5.9付近)では、銀河の周りに半径250万光年程度の、泡状の透過率の高い電離領域を形成していること。
さらに、この時代からさらに1億年ほど経過すると(赤方偏移5.5付近)、個々の電離領域が広がり重なり合うことで宇宙全体が電離されることが示されました。
論文より抜粋された図12をもとに作成された図で、横軸は各銀河からの距離を、縦軸は“ライマンα光”の平均透過率を表す。縦軸の値が大きいほど中性の水素ガスが少ない。赤、青、紫の折れ線はそれぞれ129億年前、128億年前、127億年前を表す。(Credit: 名古屋大学) |
そして、赤方偏移5.9付近の透過領域が、およそ250万光年以内にある銀河からの電離放射の局所的な影響によって生成されていることを示していました。
さらに、宇宙再電離を引き起こしたのは、この時代の一般的な銀河であり、希少なクエーサーや、崩壊粒子などのようなエキゾチックな可能性ではないことを強く示しています。
これら銀河の性質については、“EIGER II”(今回の論文は“EIGER I”)で詳しく分析され、特に重要な性質として、重元素の濃度が低く電離光子の生成効率が高いことが明らかになっています。
これらの性質は、このような初期には一般に銀河にはまだガスが豊富で、超新星爆発で大量の重元素を生成する時間が無かったことを反映していて、電離光子の生成効率が高いので、若い銀河は宇宙で再電離するのに非常に有効な原動力になっていたようです。
なお、このような銀河の性質は、現在の宇宙では1%程度しか見られません。
でも、宇宙年齢が10億年の頃にはそれが一般的であり、銀河の性質が宇宙時間においていかに強く進化しているかを物語っています。
“EIGER計画”が目指しているのは、宇宙再電離中期から後期にかけての宇宙の姿を描くこと。
この計画から得られる知見は、2030年代以降に実現を目指している中性水素21cm線観測による宇宙再電離初期および暗黒時代の観測的研究のための土台を提供するものになるはずです。
今回の研究成果は、宇宙史を切れ目なく理解するという究極的な目標における重要な一歩と言えます。
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