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銀河中心ブラックホールを隠すダストの分布は赤外線放射の時間変動現象で明らかにできる

2022年10月29日 | 銀河と中心ブラックホールの進化
今回の研究を進めているのは、東京大学大学院理学系研究科と同付属天文学教育研究センター、プリンストン大学、大阪大学大学院理学研究科の研究者の皆さん。

活動銀河核の赤外線放射強度の時間変動現象を解析することで、 銀河中心ブラックホールを取り巻くダスト層“ダストトーラス”による活動銀河核中心部からの光の減衰量“ダスト減光量”を測定する新しい手法を開発しています。
活動銀河核とは、銀河の中心部の非常に狭い領域から、銀河全体の明るさに匹敵するかそれを超えるほど莫大な電磁波を放射している天体現象。銀河中心に存在する巨大ブラックホールに物質が落下することによって解放される重力エネルギーが、巨大な放射のエネルギー源とされている。巨大ブラックホール近傍の高温ガスからはX線が、その周囲に形成されるガス円盤(降着円盤)からは紫外線や可視光線が、さらにそれらを取り巻くように分布する“ダストトーラス”からは赤外線が放射される。
巨大ブラックホールと降着円盤をドーナツ状に取り巻くようにガスが分布していると考えられていて、そのガスにはダスト(数nmから数μm程度の大きさの個体の微粒子)が含まれていると考えられている。このドーナツ状の構造をダストトーラスと呼ぶ。
この新手法の長所は2つ。
“ダストトーラス”を透過しやすい赤外線を使うことで、“ダストトーラス”に深く隠された活動銀河核でも測定が可能なこと、そして公開観測データベースをもとに簡便かつ大量に解析できることになります。

活動銀河核463個についてダスト減光量の測定を行ってみると、可視光なら中心放射が約1杼分の1(1兆分の1の1兆分の1)と暗くなるほどに、“ダストトーラス”に深く隠された活動銀河核も存在していました。

研究で測定した“ダスト減光量”に対して、先行研究で測定されたブラックホールから私たちまでの間に存在するガスの量は、銀河系の星間空間における標準的な両者の比から想定される量よりも多く、さらに活動銀河核ごとにまちまちの値を示していました。

このことが示唆していること、それは“ダストトーラス”の内側にダストを含まないガス雲が多数存在していること。
今後、約10万個の活動銀河核について新手法を適用できる見込みで、活動銀河核現象と銀河中心ブラックホールの成長を理解するための有力な手掛かりになると期待されているようです。

“ダスト減光量”を測定することで“ダストトーラス”の構造を調べる

銀河中心ブラックホールを取り巻く“ダストトーラス”は、いわば“ダム”のように活動銀河核の莫大な放射エネルギーの燃料源となる大量のガスをためています。

そして、“ダストトーラス”中のガスの一部は重力によりブラックホールに引き込まれ、莫大な放射の“燃料”となりつつブラックホールの質量を増やしていきます。

一方でガスに混じっているダストは活動銀河核中心からの強力な放射による圧力を受け、このダストと共にかなりのガスが外へ吹き飛ばされてしまうと考えられています。

このように“ダストトーラス”の構造や状態を明らかにすることは、活動銀河核の研究においてとても重要なことになります。

ダストは光を吸収・散乱する性質があります。
なので、活動銀河核中心部から私たちまでの間に存在するダストの量は、中心部からの放射の減衰量“ダスト減光量”で評価することができます。

そう、たくさんの活動銀河核について“ダスト減光量”を測定すると、“ダストトーラス”の構造を調べることができるんですねー

近赤外線放射強度の時間変動現象を解析

これまで可視光による観測は数多く行われてきました。

でも、可視光は少量のダストでも効率的に減光してしまうので、“ダストトーラス”に深く隠された活動銀河核については“ダスト減光量”が測定できませんでした。

そのような活動銀河核を対象に、よりダストに減光されにくい近赤外線(波長約2μm)での観測も進みつつありますが、“ダスト減光量”が測定された活動銀河核の数はいまだ多くはありません。

そこで今回の研究では、活動銀河核の近赤外線放射強度の時間変動(変光)現象の解析により、“ダストトーラス”による減光量を測定する新しい手法を開発しています。

“ダストトーラス”内縁部では、活動銀河核中心からの強力な紫外線・可視光によってダストは昇華寸前にまで温められ、近赤外線(波長1~5μm)を放射。
この近赤外線は、活動銀河核中心からの放射と同様に私たちまでの間に存在するダストにより減光していきます。

可視光・赤外線に対するダストによる吸収・散乱の影響は波長が長いほど小さいので、そのスペクトルはより“赤く(相対的に短波長側がより暗く)”なります。
なので、この赤くなる量を測定することで“ダスト減光量”を見積もることができるんですねー

今回の研究では、近赤外線の異なる2つの波長における放射強度の変化量の比を使うことで、赤くなる量を測定しています。
“ダストトーラス”による減光量の異なる活動銀河核における、活動銀河核中心部からの放射の見え方の違いを示したイメージ図。活動銀河核の一般的な性質として、中心部からの放射の明るさは時間変化(変光)する。可視光・赤外線に対するダストによる吸収・散乱の影響は波長が長いほど小さいので、“ダストトーラス”による減光が大きい場合には中心部からの放射は暗くなりつつ、そのスペクトルは“赤く”(相対的に短波長で暗く長波長で明るい)なる。そこで中心放射の変光する成分のスペクトルがどれだけ“赤く”なっているかを測定することで、“ダストトーラス”の減光量を測定する。
ダストトーラス”による減光量の異なる活動銀河核における、活動銀河核中心部からの放射の見え方の違いを示したイメージ図。活動銀河核の一般的な性質として、中心部からの放射の明るさは時間変化(変光)する。可視光・赤外線に対するダストによる吸収・散乱の影響は波長が長いほど小さいので、“ダストトーラス”による減光が大きい場合には中心部からの放射は暗くなりつつ、そのスペクトルは“赤く”(相対的に短波長で暗く長波長で明るい)なる。そこで中心放射の変光する成分のスペクトルがどれだけ“赤く”なっているかを測定することで、“ダストトーラス”の減光量を測定する。

活動銀河核の近赤外線放射強度の時間変動(変光)から“ダストトーラス”による減光量を評価する方法の概要。一般的に活動銀河核からの近赤外線放射は10数年の観測期間の間で明るさが変化する(図中左側グラフ)。近赤外線の異なる2つの波長(ここでは波長3.4μm、4.6μm)での放射強度を縦軸横軸として各観測日のデータをプロットし、直線フィットする(図中右側のグラフ)。このフィッテング直線の傾きは両波長における変光量の比を示し、変光している近赤外線放射のスペクトルの色の指標になる。“ダスト減光”が大きい場合、長波長の放射よりも短波長の放射の方がより暗くなるためその変光幅もより小さくなり、フィッティング直線の傾きが変化する。そこで、中心部の可視光放射がダストに隠されていない活動銀河核におけるフィッティング直線の傾きの平均的な値を求め、ある活動銀河核についてのフィッティング直線の傾きがそれからどれくらい異なるか測定することで、その活動銀河核における“ダストトーラス”による減光量を評価する。この波長の近赤外線はダストによる吸収・散乱の影響が可視光に比べてはるかに小さいので、“ダストトーラス”に深く隠された活動銀河核でも幾分なりとも透過してきた放射を測定して、ダスト減光量を評価することができる。
活動銀河核の近赤外線放射強度の時間変動(変光)から“ダストトーラス”による減光量を評価する方法の概要。一般的に活動銀河核からの近赤外線放射は10数年の観測期間の間で明るさが変化する(図中左側グラフ)。近赤外線の異なる2つの波長(ここでは波長3.4μm、4.6μm)での放射強度を縦軸横軸として各観測日のデータをプロットし、直線フィットする(図中右側のグラフ)。このフィッテング直線の傾きは両波長における変光量の比を示し、変光している近赤外線放射のスペクトルの色の指標になる。“ダスト減光”が大きい場合、長波長の放射よりも短波長の放射の方がより暗くなるためその変光幅もより小さくなり、フィッティング直線の傾きが変化する。そこで、中心部の可視光放射がダストに隠されていない活動銀河核におけるフィッティング直線の傾きの平均的な値を求め、ある活動銀河核についてのフィッティング直線の傾きがそれからどれくらい異なるか測定することで、その活動銀河核における“ダストトーラス”による減光量を評価する。この波長の近赤外線はダストによる吸収・散乱の影響が可視光に比べてはるかに小さいので、“ダストトーラス”に深く隠された活動銀河核でも幾分なりとも透過してきた放射を測定して、ダスト減光量を評価することができる。

たくさんの活動銀河核を系統的に調べてみる

活動銀河核を中心に持つ銀河(母銀河)中の星などからの放射は、たかだか数十年の観測期間内では明るさは変化しません。
なので、新手法では母銀河の放射の影響を受けずに、活動銀河核の放射が赤くなる量を測定することができます。

近年、赤外線天文衛星“WISE”によって、波長3~5μmの近赤外線での全天長期モニター観測が行われています。
赤外線天文衛星“WISE”は、NASAによって2009年に打ち上げられた天文観測衛星(正式名称はWide-field Infrared Survey Explorer)。天球上のすべての領域について、半年に一度の間隔で赤外線での観測が行われる。初期に4つの波長(3.4μm、4.6μm、12μm、22μm)にて掃天観測が行われたのち、しばらくの休眠期を経て2014年から波長3.4μm、4.6μmにて観測を再開し、現在も継続中である。観測結果のデータは一般に公開されている。
この波長の近赤外線は、ダストによる収集・散乱の影響が可視光に比べてはるかに小さくなります。
そのおかげで、新手法を用いて一般公開されている“WISE”のデータを解析することにより、“ダストトーラス”に深く隠された活動銀河核についても、容易に“ダスト減光量”の測定を行うことが可能になりました。

研究では、“the BAT AGN Spectroscopic Survey(BASS; Koss et al. 2017)”カタログにある活動銀河核に新手法を適用。
463個の活動銀河核に対して“ダスト減光量”の測定に成功しています。

これらの活動銀河核は中心部の可視光放射がダストに隠されていないものと、ほとんど隠されたもの(それぞれ1型、2型と呼ばれる)に大別。
2型活動銀河核の“ダスト減光量”は、1型活動銀河核に比べて大きいだけでなく、それより少し大きいだけのものから、可視光ならば明るさが1杼分の1(1兆分の1の1兆分の1)になるほど非常に大きなものまで、幅広い値を持つことが分かりました。
本研究で測定された活動銀河核のダスト減光量と、それらの活動銀河核におけるブラックホールから私たちまでの間に存在するガスの量との比較。青丸は中心部の可視光放射がダストに隠されていない1型活動銀河核、赤丸はそれがほとんど隠された2型活動銀河核を表す。また、灰色の帯は、銀河系の星間物質の標準的なガスとダストの混合比の場合における図上の位置を示している。2型活動銀河核は1型活動銀河核より少しだけダスト減光量が大きい(それでも可視光放射はほぼ隠されてしまっている)ものから、可視光ならば明るさが1杼分の1(1兆分の1の1兆分の1)になるほどダスト減光量の大きいものまで広い範囲に分布している。また、2型活動銀河核の多くが灰色の帯状のものから、それよりもガス量がおよそ100倍大きいものまで、幅広く分布している。
本研究で測定された活動銀河核のダスト減光量と、それらの活動銀河核におけるブラックホールから私たちまでの間に存在するガスの量との比較。青丸は中心部の可視光放射がダストに隠されていない1型活動銀河核、赤丸はそれがほとんど隠された2型活動銀河核を表す。また、灰色の帯は、銀河系の星間物質の標準的なガスとダストの混合比の場合における図上の位置を示している。2型活動銀河核は1型活動銀河核より少しだけダスト減光量が大きい(それでも可視光放射はほぼ隠されてしまっている)ものから、可視光ならば明るさが1杼分の1(1兆分の1の1兆分の1)になるほどダスト減光量の大きいものまで広い範囲に分布している。また、2型活動銀河核の多くが灰色の帯状のものから、それよりもガス量がおよそ100倍大きいものまで、幅広く分布している。

次に、測定された“ダスト減光量”を、ブラックホールから私たちまでの間に存在するガスの量(BASSカタログに記載されている、X線放射の減光によって測定された値)と比較。
すると、多くの2型活動銀河核において、銀河系の星間物質の標準的なガスとダストの混合比を仮定したときに、“ダスト減光量”から予想されるよりもガスの量が多いことが分かりました。

しかも、このガスの量は、銀河系の星間物質からの予想値にほぼ等しいものから、その100倍近く大きいものまで活動銀河核ごとに様々な値を示していたんですねー

このような傾向は先行研究でも示唆されていたこと。
でも、これほどたくさんの活動銀河核について系統的に調べられたの初めてのことでした。

この結果は何を示しているのでしょうか?

この疑問は、“ダストトーラス”の内側にダストを含まないガス雲が多数存在し、それらがこのガスの超過をもたらしているとイメージすれば説明することができそうです。
本研究が示唆する“ダストトーラス”の構造の概念図。中心の巨大ブラックホールと降着円盤を取り囲むように“ダストトーラス”が存在し、両者の間にダストを含まないガス雲が存在する。近赤外線は“ダストトーラス”内縁部に存在する高温ダスト領域から放射され、それが“ダストトーラス”を通過するときに減光を受ける。X線は巨大ブラックホール近傍の高温ガスから放射され、それがダストを含まないガス雲や“ダストトーラス”中のガスを通過するときに減光を受ける。図中の①~③は異なる方から活動銀河核を観測したときに近赤外線とX線放射が通過する経路と受ける減光の様子の違い、およびそれぞれの図2中でのデータの位置を示している。①では近赤外線放射は“ダストトーラス”で減光を受け、X線放射は“ダストトーラス”とその内側にあるダストを含まないガス雲の両方で減光を受ける。②では近赤外線放射、X線放射はともに減光を受けない。③では近赤外線放射、X線放射は“ダストトーラス”でのみ減光を受ける。
本研究が示唆する“ダストトーラス”の構造の概念図。中心の巨大ブラックホールと降着円盤を取り囲むように“ダストトーラス”が存在し、両者の間にダストを含まないガス雲が存在する。近赤外線は“ダストトーラス”内縁部に存在する高温ダスト領域から放射され、それが“ダストトーラス”を通過するときに減光を受ける。X線は巨大ブラックホール近傍の高温ガスから放射され、それがダストを含まないガス雲や“ダストトーラス”中のガスを通過するときに減光を受ける。図中の①~③は異なる方から活動銀河核を観測したときに近赤外線とX線放射が通過する経路と受ける減光の様子の違い、およびそれぞれの図2中でのデータの位置を示している。①では近赤外線放射は“ダストトーラス”で減光を受け、X線放射は“ダストトーラス”とその内側にあるダストを含まないガス雲の両方で減光を受ける。②では近赤外線放射、X線放射はともに減光を受けない。③では近赤外線放射、X線放射は“ダストトーラス”でのみ減光を受ける。

たくさんの活動銀河核が“WISE”によって観測されていて、このうち新手法を適用できるものは約10万個にもなる見込みです。

こうして得られた大量の“ダスト減光量”データに基づき“ダストトーラス”の構造や状態を推定できれば…
活動銀河核や銀河中心ブラックホールの成長、それが母銀河に与える影響を理解するための手掛かりが得られるかもしれませんね。


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