宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

なぜデブリ円盤内にガスが存在しているのか? 若い惑星系に大量の炭素原子ガスを発見

2020年01月13日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
誕生から約4000万年の恒星の周囲を取り巻くガスとチリの円盤内。
ここに、大量の炭素原子ガスが検出されました。
これまでの理論では、惑星が形成されるとガスは散逸してなくなっているはず…
理論の再検討が必要なのかもしれません。


惑星系の形成

生まれたばかりの星(原始星)の周りには大量のガスやチリが存在し、それらは原始星の重力にひかれて落下していきます。

同時に、原始星の周りではガスとチリからなる円盤“原始惑星系円盤”が成長。
その円盤内でチリが合体を繰り返して惑星が作られていきます。
  原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がるガスやチリからなる円盤状の構造。
  恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。


そして、最終的には円盤のガス成分が消失して、惑星系の形成が完了すると考えられています。

形成されたばかりの惑星系では、惑星形成過程で残ったチリや岩石同士の衝突でまり散らされたチリが円盤状に漂うことになります。

これはデブリ円盤と呼ばれ、惑星系の形成が最終段階に達したことを意味しています。


デブリ円盤内に発見されたガス

これまで、デブリ円盤にはガス成分は存在しないと考えられていました。
でも近年、デブリ円盤にガスが発見され始めているんですねー

例えば、地球から186光年の距離に位置する“くじら座49番星”では、2017年にデブリ円盤内に炭素原子ガスが世界で初めて検出されています。

ただ、“くじら座49番星”の年齢の見積もりは約4000万歳。
これは標準的な惑星形成論ではすでに惑星形成が完了してガスが散逸している段階に当たります。

この謎を解くため、アルマ望遠鏡を用いた観測を進めているのが国立天文台の研究チームです。
“くじら座49番星”のデブリ円盤内のガスの分布や量を調査して、ガスが残存している原因やその起源についての研究を行っています。

その結果明らかになったのは、デブリ円盤内で最も豊富に存在する分子である一酸化炭素よりも、炭素原子の方が広く分布していること。
さらに、炭素原子の希少同位体である13Cのサブミリ波輝線も世界で初めて検出しています。


電波強度からデブリ円盤内のガス密度を計算してみると…

13Cは通常の12Cの1%程度しかなく、13Cの輝線はこれまでどんな天体からも観測されたことがありませんでした。
なので、デブリ円盤のような、ガスが少ないと考えられている環境で検出されたことは大変な驚きだったんですねー
○○○
くじら座49番星のデブリ円盤の疑似カラー画像。
(青)炭素原子ガス、(緑)一酸化炭素分子ガス、(赤)チリの分布を表している。
左は合成画像、右は成分ごとの画像。
13Cからの電波の検出が示唆しているのは、通常の12Cがこれまでの推測よりも大量に円盤内に存在すること。
一般的な環境では、豊富にある12Cが放つ電波は、希少な13Cが放つ電波より100倍以上強いはず。

でも、今回12Cの電波強度は13Cの電波強度より12倍強い程度にとどまっていました。

このことは何を示しているのでしょうか?
それは、デブリ円盤内に12Cが大量にあり、12Cが放つ電波の一部が12C自身によって吸収されていることです。

つまり、12Cの電波強度から求められていた従来のガスの質量は、実際よりも少ない値になっていたことになります。

はじめは12Cによる吸収がないと仮定して電波強度からデブリ円盤のガス密度などを計算しようとしていました。
でも、この方法だと、どうしても観測結果と合致しないんですねー

電波を吸収するほど12Cが大量に存在しているというのは、全く予想外なことでした。


なぜデブリ円盤内にガスが存在しているのか

計算の結果、“くじら座49番星”のデブリ円盤に含まれる炭素原子ガスは、これまで考えられていた量の10倍以上存在することが明らかになります。

これは、より若い星の周りで盛んに惑星形成が進んでいる段階の“原始惑星系円盤”のガスの量に匹敵するものでした。

それでは、なぜデブリ円盤内にガスが存在しているのでしょうか?

考えられている説は2つ。
惑星系のもとになったガスが残存しているという“残存説”と、原始惑星系円盤のガスが一度消失した後にチリや微惑星の衝突によってガスが新たに供給されているという“供給説”です。

今回の観測結果を“残存説”で説明しようとすると、若い原始惑星系円盤から十分に進化したデブリ円盤でも長時間散逸せずにガスが残っていることになります。
でも、これを実現するシナリオはまだ提唱されていません。

一方、“供給説”だとしても、デブリ円盤に含まれるチリからこれほど大量のガスが供給できるメカニズムは知られていません。

いずれにせよ、今回の研究成果が示しているのは、原始惑星系円盤内で惑星が形成されるとガス成分はすぐに散逸してしまう っという従来の理論モデルを大きく覆すものになります。

ガスが長期にわたって存在できるのであれば、木星のような巨大惑星が作られやすい環境が持続する可能性も出てきます。
そうなれば、惑星形成過程全体の理論研究に大きな一石を投じることになりますね。
○○○
くじら座49番星のデブリ円盤(イメージ図)。
星を取り巻くチリ円盤があり、その周りを大量のガスが取り囲んでいる。


こちらの記事もどうぞ
  原始惑星系円盤では成長中の惑星が隙間を作り、そこに流れ込むガスが惑星の大気を形成している?
    


最新の画像もっと見る

コメントを投稿