正体不明の“ダークマター”(※)を仮定せずに宇宙の重量の謎を説明できるとされる“修正ニュートン力学”は興味深い仮説ですが、あまり多くの支持を受けていません。
今回の研究では、修正ニュートン力学の下で、太陽系外縁天体の公転軌道のシミュレーションを実施し、軌道に偏りが生じたことを明らかにしています。
そう、太陽系外縁天体の偏った軌道を未発見の第9惑星“プラネットX”なしで説明できた訳です。
このことは、短い距離における修正ニュートン力学の効果を示した初めての事例。
さらに、太陽系外縁天体に未知の惑星が存在するとする“プラネットX”説を否定するものでもありました。
ただ、前提となるデータ量の限界から、この結果が偶然生じたものである可能性は削除できず…
容易に覆るかもしれないそうです。
暗黒物質が発見されるきっかけになったのは、銀河の回転速度でした。
銀河内を公転している星々は、遠心力と重力が釣り合っているから飛び出すことなく公転できるはずです。
でも、実際の観測結果をもとに銀河の質量と回転速度を算出してみると、銀河を構成する星々やガスなどの総質量だけでは釣り合いが取れないほどの速度で回転していることが分かりました。
そこで、銀河を構成する星がバラバラにならず形をとどめている原因を、光をはじめとする電磁波と相互作用せず直接観測することができない物質の重力効果に求めたのが“ダークマター説”の始まりになっています。
でも、長年にわたって研究や観測実験が行われてきたのですが、ダークマターの正体は判明せず…
検出はおろか候補の絞り込みにも苦労しているのが実情です。
大多数の科学者は、ダークマターの正体が何であれ、現在広く認められている物理学の理論を大幅に修正しなければならないと考えています。
ただ、少数の科学者が考えているのは、「そもそもダークマターは存在しないのではないか?」ということ。
この場合だと修正すべきなのは重力理論ということになります。
提案されている修正重力理論の1つに“修正ニュートン力学”があります。
修正ニュートン力学では、物体の運動を記述するニュートンの運動方程式に修正を加えることで、“重力は距離の2乗に反比例して弱くなる”という逆2乗則は厳密には正しくなく、遠距離では1条の反比例に遷移していくと仮定しています。
修正ニュートン力学が正しい場合、ダークマターの存在を考慮する必要はなくなります。
でも、修正ニュートン力学は厳しい検証に耐えてきた一般相対性理論を否定するものなので、あまり多くの支持を集めているとは言えないんですねー
また、修正ニュートン力学は数百億キロ程度の距離…
つまり、太陽系の内部程度の範囲では逆2条則が成り立っているように見えるので、検証は困難を極めていました。
太陽系の8つの惑星のうち、最も外側を公転している海王星の公転軌道のさらに外側。
そこには“太陽系外縁天体”と呼ばれる天体が無数にあります。
これらの公転軌道を調べてみると、本来であれば全方向に等しく天体が分布しているはずなのに、実際には特定の方向に分布しているという偏りが生じていることが分かります。
この偏った軌道は、太陽系外縁部にまだ見つかっていない大きな質量を持つ天体が存在していて、太陽系外縁天体の公転軌道を重力を介して乱している っと考えれば説明できます。
指定される質量及び周囲の天体を一掃しているという性質は、2006年に決議された太陽系の惑星の定義を満たすため、この惑星は未知の第9惑星“プラネットX”と呼ばれています。
でも、今のところプラネットXは発見されておらず…
実際には存在していないと考える研究者もいます。
そこで、研究チームが考えたのは、この未発見の第9惑星“プラネットX”説が修正ニュートン力学と矛盾していることでした。
研究では、太陽系外縁天体の公転軌道の変化を、修正ニュートン力学による重力場の仮定の下でシミュレーションし、その結果を実際の観測結果と比較しています。
シミュレーションの結果示されたのは、太陽系外縁天体は天の川銀河の重力場の影響を受けて、楕円軌道の長軸(長い方の軸)が天の川銀河の中心方向に向くこと。
この結果は、90377番小惑星セドナのように、楕円形をしていることが高い精度で判明している6つの太陽系外縁天体の公転軌道とよく一致していました。
このことは、太陽系の内部という短距離でも修正ニュートン力学が働いていることを示した初めての研究結果になりました。
修正ニュートン力学に基づけば、プラネットXは存在しないという可能性を示すものになります。
ただ、この研究結果を持って修正ニュートン力学が正しい っということにはならないようです。
その理由は、今回の研究で用いられた公転軌道のデータが検証に使えるほどには精度が高くなく、単にシミュレーション結果が現実と偶然一致しただけの可能性が排除できないからです。
さらに、修正ニュートン力学自体も、他の方法での検証で厳しい立場に晒されているので、修正ニュートン力学そのものが否定される可能性も大いにあります。
このことから、今回の研究結果は容易に覆るかもしれないわけです。
また、プラネットXの存在は、修正ニュートン力学を仮定しなくても否定することができるかもしれません。
太陽系外縁天体は文字通り外縁部という遠方にあるので、観測が極めて困難です。
プラネットXの存在の根拠となっている公転軌道の偏りは、太陽系外縁天体の観測数が少ないことに起因する観測バイアスで生じていることも十分考えられます。
ダークマター、修正ニュートン力学、プラネットXといった各問題に答えを出すには、まだまだ観測や研究が必要なようですね。
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※.ダークマターは暗黒物質とも呼ばれ、光などの電磁波では観測することができず、重力を介してのみ間接的に存在を知ることができる物質。
特に、恒星や銀河程度のスケールと比べて距離が短い太陽系程度のスケールにおける修正ニュートン力学の効果は、これまでに説明されたことがありませんでした。今回の研究では、修正ニュートン力学の下で、太陽系外縁天体の公転軌道のシミュレーションを実施し、軌道に偏りが生じたことを明らかにしています。
そう、太陽系外縁天体の偏った軌道を未発見の第9惑星“プラネットX”なしで説明できた訳です。
このことは、短い距離における修正ニュートン力学の効果を示した初めての事例。
さらに、太陽系外縁天体に未知の惑星が存在するとする“プラネットX”説を否定するものでもありました。
ただ、前提となるデータ量の限界から、この結果が偶然生じたものである可能性は削除できず…
容易に覆るかもしれないそうです。
この研究は、ハミルトン大学のKatherine Brownさんとケース・ウェスタン・リザーブ大学のHarsh Mathurさんの研究チームが進めています。
図1.プラネットXのイメージ図。(Credit: Caltech, R. Hurt (IPAC)) |
ダークマターは存在していない
宇宙は正体不明の“ダークマター(26.8%)”と“ダークエネルギー(68.3%)”で満たされていて、身近な物質である“バリオン(陽子や中性子などの粒子で構成された普通の物質)”は、宇宙の中にわずか4.9%しか存在しないことが分かってきています。暗黒物質が発見されるきっかけになったのは、銀河の回転速度でした。
銀河内を公転している星々は、遠心力と重力が釣り合っているから飛び出すことなく公転できるはずです。
でも、実際の観測結果をもとに銀河の質量と回転速度を算出してみると、銀河を構成する星々やガスなどの総質量だけでは釣り合いが取れないほどの速度で回転していることが分かりました。
そこで、銀河を構成する星がバラバラにならず形をとどめている原因を、光をはじめとする電磁波と相互作用せず直接観測することができない物質の重力効果に求めたのが“ダークマター説”の始まりになっています。
図2.さんかく座銀河における理論的な回転速度(下側の曲線)と実際に観測された回転速度(上側の曲線)。主流な説では、このズレを光をはじめとする電磁波と相互作用せず直接観測することができない物質“ダークマター”の重力効果に求めているが、修正ニュートン力学で説明する試みもある。(Credit: Stefania.deluca) |
検出はおろか候補の絞り込みにも苦労しているのが実情です。
大多数の科学者は、ダークマターの正体が何であれ、現在広く認められている物理学の理論を大幅に修正しなければならないと考えています。
ただ、少数の科学者が考えているのは、「そもそもダークマターは存在しないのではないか?」ということ。
この場合だと修正すべきなのは重力理論ということになります。
提案されている修正重力理論の1つに“修正ニュートン力学”があります。
修正ニュートン力学では、物体の運動を記述するニュートンの運動方程式に修正を加えることで、“重力は距離の2乗に反比例して弱くなる”という逆2乗則は厳密には正しくなく、遠距離では1条の反比例に遷移していくと仮定しています。
修正ニュートン力学が正しい場合、ダークマターの存在を考慮する必要はなくなります。
でも、修正ニュートン力学は厳しい検証に耐えてきた一般相対性理論を否定するものなので、あまり多くの支持を集めているとは言えないんですねー
また、修正ニュートン力学は数百億キロ程度の距離…
つまり、太陽系の内部程度の範囲では逆2条則が成り立っているように見えるので、検証は困難を極めていました。
未発見の第9惑星“プラネットX”説と矛盾する修正ニュートン力学
今回の研究では、修正ニュートン力学が太陽系外縁部にまつわる別の謎である未発見の第9惑星“プラネットX”説と矛盾しているのではないかと考え、シミュレーションによる研究を行っています。太陽系の8つの惑星のうち、最も外側を公転している海王星の公転軌道のさらに外側。
そこには“太陽系外縁天体”と呼ばれる天体が無数にあります。
これらの公転軌道を調べてみると、本来であれば全方向に等しく天体が分布しているはずなのに、実際には特定の方向に分布しているという偏りが生じていることが分かります。
この偏った軌道は、太陽系外縁部にまだ見つかっていない大きな質量を持つ天体が存在していて、太陽系外縁天体の公転軌道を重力を介して乱している っと考えれば説明できます。
指定される質量及び周囲の天体を一掃しているという性質は、2006年に決議された太陽系の惑星の定義を満たすため、この惑星は未知の第9惑星“プラネットX”と呼ばれています。
でも、今のところプラネットXは発見されておらず…
実際には存在していないと考える研究者もいます。
そこで、研究チームが考えたのは、この未発見の第9惑星“プラネットX”説が修正ニュートン力学と矛盾していることでした。
研究では、太陽系外縁天体の公転軌道の変化を、修正ニュートン力学による重力場の仮定の下でシミュレーションし、その結果を実際の観測結果と比較しています。
図3.6つの太陽系外縁天体の公転軌道(紫色の楕円)の長軸は、天の川銀河の中心方向(青色矢印)に向いている。今回の研究結果は、この偏りの原因がプラネットXの重力場の影響ではなく、修正ニュートン力学における天の川銀河の影響だと結論付けている。(Credit: Brown & Mathur) |
この結果は、90377番小惑星セドナのように、楕円形をしていることが高い精度で判明している6つの太陽系外縁天体の公転軌道とよく一致していました。
このことは、太陽系の内部という短距離でも修正ニュートン力学が働いていることを示した初めての研究結果になりました。
修正ニュートン力学に基づけば、プラネットXは存在しないという可能性を示すものになります。
ただ、この研究結果を持って修正ニュートン力学が正しい っということにはならないようです。
その理由は、今回の研究で用いられた公転軌道のデータが検証に使えるほどには精度が高くなく、単にシミュレーション結果が現実と偶然一致しただけの可能性が排除できないからです。
さらに、修正ニュートン力学自体も、他の方法での検証で厳しい立場に晒されているので、修正ニュートン力学そのものが否定される可能性も大いにあります。
このことから、今回の研究結果は容易に覆るかもしれないわけです。
また、プラネットXの存在は、修正ニュートン力学を仮定しなくても否定することができるかもしれません。
太陽系外縁天体は文字通り外縁部という遠方にあるので、観測が極めて困難です。
プラネットXの存在の根拠となっている公転軌道の偏りは、太陽系外縁天体の観測数が少ないことに起因する観測バイアスで生じていることも十分考えられます。
ダークマター、修正ニュートン力学、プラネットXといった各問題に答えを出すには、まだまだ観測や研究が必要なようですね。
こちらの記事もどうぞ
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