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気になる大気の存在は? ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がスーパーアースの観測で水蒸気を検出!

2023年06月13日 | 宇宙 space
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測で、太陽系外惑星“グリーゼ486 b”に水蒸気が検出されたとする研究成果が発表されました。

水蒸気の検出が示しているのは、岩石惑星である“グリーゼ486 b”に大気が存在する可能性です。
ただ、別の可能性もあるので結論は出ておらず、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡によるさらなる観測が必要なようですよ。
今回の研究を進めているのは、アリゾナ大学のSarah Moranさんたちの研究チームです。
太陽系外惑星“グリーゼ486 b”(手前)と赤色矮星“グリーゼ486”(奥)のイメージ図。(Credit: NASA, ESA, CSA, Joseph Olmsted (STScI), Leah Hustak (STScI))
太陽系外惑星“グリーゼ486 b”(手前)と赤色矮星“グリーゼ486”(奥)のイメージ図。(Credit: NASA, ESA, CSA, Joseph Olmsted (STScI), Leah Hustak (STScI))

赤色矮星の近くを公転するスーパーアース

“グリーゼ486 b”は、おとめ座の方向約26光年彼方に位置する赤色矮星“グリーゼ486”を公転している系外惑星です。

地球と比較すると、直径は約1.3倍、質量は約2.8倍。
地球よりも大きな岩石惑星“スーパーアース”に分類されます。
半径が地球の1~1.5倍程度の、地球よりやや大きな惑星のことを“スーパーアース(巨大地球型惑星)”と呼ぶ。理論上、この半径の惑星は水素大気を維持できないので、水素大気を持つ小さなガス惑星“サブネプチューン”である可能性が極めて低い。このため岩石を主体とした惑星と考えられる。
“グリーゼ486 b”の公転軌道の半径(軌道長半径)は約0.017天文単位と短く、公転周期(“グリーゼ486 b”における1年)は約1.47日しかありません。
1天文単位(au)は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当。
主星の“グリーゼ486”は直径と質量がどちらも太陽の3割程度と小さく、表面温度は約3060℃と比較的低い恒星です。
表面温度がおよそ摂氏3500度以下の恒星を赤色矮星と呼ぶ。実は宇宙に存在する恒星の8割近くは赤色矮星で、太陽系の近傍にある恒星の多くも赤色矮星になる。太陽よりも小さく、表面温度も低いことから、太陽系の場合よりも恒星に近い位置にハビタブルゾーンがある。
その近くを公転している“グリーゼ486 b”は潮汐力によって自転と公転の周期が一致した状態“潮汐ロック”になっているとみられていて、常に主星に面している昼側の表面温度は約430℃に達すると推定されています。
潮汐ロックとは、主星からの潮汐力の影響で自転周期と公転周期が一致し、常に主星に対して同じ面を向け続けている状態。主星の近くを公転している場合など、受ける潮汐力が大きい場合に比較的よくみられる現象。月が地球に同じ面を向けているのも同じ現象。
サイズが地球に似ているので生命の居住可能性も気になるところですが、“グリーゼ486 b”の表面はおそらく地球よりも金星に似ていると予想されています。
系外惑星“グリーゼ486 b”の地表を描いたイメージ図。(Credit: RenderArea)
系外惑星“グリーゼ486 b”の地表を描いたイメージ図。(Credit: RenderArea)

系外惑星の存在を検出する方法

恒星の周囲を公転する系外惑星を直接観測するのは極めて難しく、これまでに発見された系外惑星の多くは、“ドップラーシフト法”や“トランジット法”といった手法を用いて間接的に検出されてきました。

ドップラーシフト法は、恒星(主星)の周りを公転している惑星の重力で、主星が引っ張られることによる“ゆらぎ”を光の波長の変化から読み取ることで惑星の存在を検出する手法。
もう一方のトランジット法では、地球から見て惑星が主星の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探ります。

“グリーゼ486 b”は、トランジット法を利用するNASAのトランジット惑星探査衛星“TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)”が、2020年3月から4月にかけて行った観測によって、主星である“グリーゼ486”の周期的な減光として最初に検出されています。

系外惑星の大気を通過してきた光を観測する

“グリーゼ486 b”は、過去の研究で大気が存在する可能性を指摘されていました。
このため、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測が期待されていたんですねー

そこで、研究チームは“グリーゼ486 b”の透過スペクトルを取得するため、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の“近赤外線分光器(NIRSpec)”を使用して分光観測を実施。
地球から見て系外惑星が主星の手前を通過(トランジット)している時に、系外惑星の大気を通過してきた主星のスペクトル(透過スペクトル)を得る分光観測を行っています。
スペクトルは光の波長ごとの強度分布
個々の元素は決まった波長の光を吸収する性質があるります。

なので、透過スペクトルには、大気に含まれる元素に対応した波長で光の強度が弱まる箇所が現れることになります。

この光の強度の弱まり(吸収線)は、透過スペクトルと主星から直接届いた光のスペクトルを比較することで調べることができ、その波長から元素の種類を直接特定することができます。

そう、系外惑星の大気中にどのような物質が存在するのかを知ることができるわけです。
恒星(左)の光を利用して系外惑星(中央下)の大気組成を調べる手法(イメージ図)。系外惑星の大気を通過して地球(右)に届いた主星の光のスペクトル(透過スペクトル)を分析することで、系外惑星の大気組成を調べることができる。(Credit: ESO/M. Kornmesser)
恒星(左)の光を利用して系外惑星(中央下)の大気組成を調べる手法(イメージ図)。系外惑星の大気を通過して地球(右)に届いた主星の光のスペクトル(透過スペクトル)を分析することで、系外惑星の大気組成を調べることができる。(Credit: ESO/M. Kornmesser)

検出された水蒸気が存在する場所

研究チームでは、“近赤外線分光器(NIRSpec)”を使用して、約1時間続く“グリーゼ486 b”のトランジットを2022年12月に2回観測。
得られたデータを分析してみると、スペクトルに吸収線を残した可能性が最も高いのは水蒸気だと結論付けられることになります。

問題は、検出された水蒸気が存在する場所でした。

“近赤外線分光器(NIRSpec)”は“グリーゼ486 b”の大気中に存在する水蒸気をとらえた可能性がありました。

でも、研究チームでは断定することができず…

その理由は、恒星である“グリーゼ486”にも水蒸気が存在する可能性があったからです。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、周囲よりも温度が低いので暗く見える太陽の黒点では、水分子の存在がスペクトルから判明しているそうです。

赤色矮星“グリーゼ486”の表面温度は太陽よりも低いので、その黒点(恒星黒点)には、より多くの水蒸気が存在することも考えらるわけです。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の“近赤外線分光器(NIRSpec)”で取得された“グリーゼ486 b”の透過スペクトル。白の点は観測データを示し、青の線は「“グリーゼ486 b”が持つ水蒸気の豊富な大気」を想定したモデル、オレンジの線は「“グリーゼ486”の黒点に存在する水蒸気」を想定したモデルを示す。(Credit: NASA, ESA, CSA, Joseph Olmsted (STScI), Sarah E. Moran (University of Arizona), Kevin B. Stevenson (APL), Ryan MacDonald (University of Michigan), Jacob A. Lustig-Yaeger (APL))
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の“近赤外線分光器(NIRSpec)”で取得された“グリーゼ486 b”の透過スペクトル。白の点は観測データを示し、青の線は「“グリーゼ486 b”が持つ水蒸気の豊富な大気」を想定したモデル、オレンジの線は「“グリーゼ486”の黒点に存在する水蒸気」を想定したモデルを示す。(Credit: NASA, ESA, CSA, Joseph Olmsted (STScI), Sarah E. Moran (University of Arizona), Kevin B. Stevenson (APL), Ryan MacDonald (University of Michigan), Jacob A. Lustig-Yaeger (APL))

今後のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による追観測に期待

また、赤色矮星は活動が活発で、表面で強力な爆発現象“フレア”が発生しやすいことが知られています。

惑星大気は、恒星から放射されるX線と極端紫外線で構成される短波長(
大気散逸とは、XUVの吸収によって高温化された高層大気が惑星重力による束縛から抜け出し、惑星外に散逸してしまうこと。現在の地球においては、軽いH(水素)原子やHe(ヘリウム)原子のみが大気散逸を引き起こしているが、強いXUV環境であれば地球類似惑星の大気主成分であるN(窒素)原子、O(酸素)原子の大気散逸が引き起こされ、大気の消失をもたらす。
なので、仮に検出された水蒸気が“グリーゼ486 b”の大気に由来するのであれば、大気を構成する物質や水蒸気は火山活動を通して絶えず供給されていることになります。

“グリーゼ486 b”に大気は存在しているのでしょうか?

この疑問は、今後のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による追観測が明らかにしてくれるのかもしれません。

大気が存在しないか、あったとしても非常に薄い場合、自転と公転の周期が一致しているとみられる“グリーゼ486 b”の表面で最も高温の場所は、昼側の中心にあると予想できます。

でも、その場所が予想される位置からズレているとしたら…
考えられる可能性は、熱を循環させる大気の存在です。

それでは、最も高温の場所はどこに位置するのでしょうか?
それは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の“中間赤外線観測装置(MIRI)”による観測で明らかになることが期待されています。

一方、“近赤外線分光器(NIRSpec)”で検出された水蒸気が“グリーゼ486 b”の大気と“グリーゼ486”の黒点のどちらに由来するのかは、最終的には“近赤外線カメラ(NIRCam)”や“近赤外線撮像・スリットレス分光器(NIRISS)”といった、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の別の観測機器で得たデータも用いて判断する必要があるそうです。

宇宙望遠鏡科学研究所によると、これまでにも系外惑星で水蒸気が検出されたことはあるものの、太陽系以外の岩石惑星の大気が明確に検出されたことはまだないそうです。

“グリーゼ486 b”に大気が存在するかどうかは、複数の観測機器を組み合わせた追観測に期待しましょう。


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