今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測データを用いて、120~130憶年前の遠方宇宙に10個の巨大ブラックホールを発見しています。(図1)
この数は、これまでの研究で予想されていた数と比べて50倍も高いもの。
宇宙の誕生からわずか10~20憶年後の遠方宇宙に、すでに大量の巨大ブラックホールが存在していたことを示す重要な研究成果になります。
銀河中心ブラックホールと明るく輝くクエーサー
私たちの宇宙には、太陽の100万倍から100億倍にも達する重さを持つ巨大ブラックホールが存在しています。
このようなブラックホールは銀河の中心(※1)に存在していますが、宇宙のどの時代にどのように形成したのかはよく分かっていません。
これまでの巨大ブラックホール探査では、ブラックホールが周囲の物質を飲み込む過程で明るく輝く“クエーサー”(※2)を探す方法が一般的でした。
すばる望遠鏡などの地上の望遠鏡を用いた観測により、これまで120~130憶年前の遠方宇宙でたくさんのクエーサーが見つかってきました。
でも、同じ時代に存在する銀河の数に比べると、クエーサーの数は1000分の1以下と少なく、遠方宇宙ではとても珍しい天体だと認識されていました。
遠方宇宙に既に存在している多くの活動的な巨大ブラックホール
そこに登場したのが、NASAが中心となって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用の“ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡”でした。
2022年に本格的な運用を開始したジェームズウェッブ宇宙望遠鏡により、遠方宇宙においてこれまでの望遠鏡と比べて10倍から1000倍も高い感度での観測が可能になり、個別の遠方銀河の性質を詳細に調べることが可能になりました。
研究チームでは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が搭載する近赤外線分光装置“NIRSpec”で得られた遠方銀河の観測データを解析。
すると、120~130憶年前の10個の銀河から、活動的な巨大ブラックホール(※3)の存在を示す特徴的な幅広い水素の輝線(※4)が出ていることを発見します。(図2)
この10個という数は、これまでのクエーサーを使った研究で予想されていた数と比べて50倍も高いもの。(図3)
これまでの研究から、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の狭い観測範囲では、巨大ブラックホールは1個も見つからないと考えていたので、この結果は研究チームを驚かせることになります。
最初は何かの間違いかと思っていた研究チームも、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の感度があまりに良く、非常に明確に幅広い水素の輝線が見えているので、これは本物だろうと確信したそうです。
なぜ、こんなに多くの活動的な巨大ブラックホールが遠方宇宙に既に存在しているのか?
その理由はまだ不明です。
でも、研究チームでは、宇宙初期における巨大ブラックホールの形成を理解する手掛かりになると考えています。
活動的な巨大ブラックホールは様々な遠方銀河に普遍的に存在している
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の圧倒的な感度と解像度による発見は他にもありました。
今回見つかった巨大ブラックホールの画像(図1)を見てみると、多くの天体では巨大ブラックホールからの光と思われる小さくコンパクトな光だけでなく、その巨大ブラックホールを保持する銀河から広がった光も検出することに成功しています。
その色も様々で、黄色く見える銀河もあれば、青白く見える銀河もあるんですねー
一方、赤い小さな点のように見える天体もあって、このような天体は研究者の間では“Little Red Dots”という名前で呼ばれています。
画像に見られるような多様な銀河の色や形は、活動的な巨大ブラックホールが様々な種類の遠方銀河に普遍的に存在することを示しているのかもしれません。
さらに、研究チームは、スペクトルの情報からこれらの巨大ブラックホールの質量を求めています。
今回発見した巨大ブラックホールの質量は太陽の100万倍から1億倍ほど。
この質量は、クエーサーを持つブラックホールに比べて100倍ほど軽く、より形成初期に近い天体だということが分かります。
一方、現在の宇宙に存在する同じような銀河が持つ巨大ブラックホールと比べると、質量は10倍から100倍ほど大きく、遠方宇宙でブラックホールが急成長している様子を見ている可能性があります。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を使った今回研究は、予想以上に多くの巨大ブラックホールが存在するという、新たな遠方宇宙の姿を世界に先駆けて明らかにしました。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡という人類の新しい目は、今後も私たちにワクワクするような予想外の発見をもたらしてくれるはずです。
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この数は、これまでの研究で予想されていた数と比べて50倍も高いもの。
宇宙の誕生からわずか10~20憶年後の遠方宇宙に、すでに大量の巨大ブラックホールが存在していたことを示す重要な研究成果になります。
この研究は、東京大学宇宙線研究所の播金優一助教を中心とする研究チームが進めています。
本研究は、米国の天文学誌“アストロフィジカル・ジャーナル”に掲載されました。
本研究は、米国の天文学誌“アストロフィジカル・ジャーナル”に掲載されました。
図1.研究チームが発見した、120~130憶年前の10個の巨大ブラックホールの疑似カラー画像。ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡もしくはハッブル宇宙望遠鏡で取得された3色の観測データを合成することで、画像に色を付けている。(Credit: NASA, ESA, CSA, Harikane et al.) |
銀河中心ブラックホールと明るく輝くクエーサー
私たちの宇宙には、太陽の100万倍から100億倍にも達する重さを持つ巨大ブラックホールが存在しています。
このようなブラックホールは銀河の中心(※1)に存在していますが、宇宙のどの時代にどのように形成したのかはよく分かっていません。
※1.私たちの天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の質量を持つ巨大ブラックホール“いて座A*(エースター)”が存在している。
そのため、形成間もないと考えられる、昔の宇宙(遠方宇宙)に存在する巨大ブラックホールは、天文学者の重要な研究対象になっています。これまでの巨大ブラックホール探査では、ブラックホールが周囲の物質を飲み込む過程で明るく輝く“クエーサー”(※2)を探す方法が一般的でした。
すばる望遠鏡などの地上の望遠鏡を用いた観測により、これまで120~130憶年前の遠方宇宙でたくさんのクエーサーが見つかってきました。
でも、同じ時代に存在する銀河の数に比べると、クエーサーの数は1000分の1以下と少なく、遠方宇宙ではとても珍しい天体だと認識されていました。
※2.今回見つかった巨大ブラックホールは、銀河の中で巨大ブラックホールが周囲の物質を飲み込む過程で輝いている、活動銀河核と呼ばれる天体。活動銀河核の中でも、ブラックホールからの光が非常に明るく、小さな点のように見るものをクエーサーと言う。
今回見つかった天体は、図2のように幅広い特徴的な輝線を示している。このような幅広い輝線は銀河からの光では説明できず、巨大ブラックホール周りの広輝線領域から放出されていると考えられる。今回の天体のように広輝線領域からの幅広い輝線が見られる活動銀河核は、1型の活動銀河核と呼ばれる。宇宙には広輝線領域が隠されて私たちから見えないので、幅広い輝線を示さない2型の活動銀河核も存在する。このことから、実際の巨大ブラックホールの数はさらに多いと予想される。
今回見つかった天体は、図2のように幅広い特徴的な輝線を示している。このような幅広い輝線は銀河からの光では説明できず、巨大ブラックホール周りの広輝線領域から放出されていると考えられる。今回の天体のように広輝線領域からの幅広い輝線が見られる活動銀河核は、1型の活動銀河核と呼ばれる。宇宙には広輝線領域が隠されて私たちから見えないので、幅広い輝線を示さない2型の活動銀河核も存在する。このことから、実際の巨大ブラックホールの数はさらに多いと予想される。
遠方宇宙に既に存在している多くの活動的な巨大ブラックホール
そこに登場したのが、NASAが中心となって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用の“ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡”でした。
2022年に本格的な運用を開始したジェームズウェッブ宇宙望遠鏡により、遠方宇宙においてこれまでの望遠鏡と比べて10倍から1000倍も高い感度での観測が可能になり、個別の遠方銀河の性質を詳細に調べることが可能になりました。
研究チームでは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が搭載する近赤外線分光装置“NIRSpec”で得られた遠方銀河の観測データを解析。
すると、120~130憶年前の10個の銀河から、活動的な巨大ブラックホール(※3)の存在を示す特徴的な幅広い水素の輝線(※4)が出ていることを発見します。(図2)
図2.今回見つかった巨大ブラックホールの観測スペクトの例。赤色で塗られた幅広い水素輝線が、活動的なブラックホールの存在を示している。(Credit: Harikane et al.) |
これまでの研究から、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の狭い観測範囲では、巨大ブラックホールは1個も見つからないと考えていたので、この結果は研究チームを驚かせることになります。
図3.今回見つかった巨大ブラックホールの個数(赤色)と、過去のクエーサーの観測から予想されていた個数(黒色)。ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の視野は、すばる望遠鏡などに比べて狭く、宇宙の限られた範囲しか観測できないので、巨大ブラックホールのような珍しい天体は1個も見つからないと思われていた。(Credit: Harikane et al.) |
なぜ、こんなに多くの活動的な巨大ブラックホールが遠方宇宙に既に存在しているのか?
その理由はまだ不明です。
でも、研究チームでは、宇宙初期における巨大ブラックホールの形成を理解する手掛かりになると考えています。
※3.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移(記号z)の度合いを用いて算出されている。
今回見つかった10個の巨大ブラックホールの赤方偏移の値はz=4.015-6.936。これを元にPlanck観測機チームが2015年に公表した宇宙論パラメータ(H0=67.74km/s/Mpc, Ωm=0.3089, ΩΛ=0.6911)を用いて赤方偏移から距離を計算すると122.7-130.4億光年になり、これらの巨大ブラックホールは120~130憶年前に存在したことになる。
※4.分光観測を行うことでスペクトルを得ることができる。スペクトルは、光の波長ごとの強度分布。スペクトルに現れる吸収線や輝線を合わせた呼称がスペクトル線。個々の元素は決まった波長の光を吸収したり放出したりする性質がある。その波長での光を吸収し強度が弱まると吸収線、光を放出し強まると輝線としてスペクトルに現れる。光の波長ごとの強度分布スペクトルに現れる吸収線や輝線を調べることで、元素の種類を直接特定することができる。
今回見つかった10個の巨大ブラックホールの赤方偏移の値はz=4.015-6.936。これを元にPlanck観測機チームが2015年に公表した宇宙論パラメータ(H0=67.74km/s/Mpc, Ωm=0.3089, ΩΛ=0.6911)を用いて赤方偏移から距離を計算すると122.7-130.4億光年になり、これらの巨大ブラックホールは120~130憶年前に存在したことになる。
※4.分光観測を行うことでスペクトルを得ることができる。スペクトルは、光の波長ごとの強度分布。スペクトルに現れる吸収線や輝線を合わせた呼称がスペクトル線。個々の元素は決まった波長の光を吸収したり放出したりする性質がある。その波長での光を吸収し強度が弱まると吸収線、光を放出し強まると輝線としてスペクトルに現れる。光の波長ごとの強度分布スペクトルに現れる吸収線や輝線を調べることで、元素の種類を直接特定することができる。
活動的な巨大ブラックホールは様々な遠方銀河に普遍的に存在している
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の圧倒的な感度と解像度による発見は他にもありました。
今回見つかった巨大ブラックホールの画像(図1)を見てみると、多くの天体では巨大ブラックホールからの光と思われる小さくコンパクトな光だけでなく、その巨大ブラックホールを保持する銀河から広がった光も検出することに成功しています。
その色も様々で、黄色く見える銀河もあれば、青白く見える銀河もあるんですねー
一方、赤い小さな点のように見える天体もあって、このような天体は研究者の間では“Little Red Dots”という名前で呼ばれています。
画像に見られるような多様な銀河の色や形は、活動的な巨大ブラックホールが様々な種類の遠方銀河に普遍的に存在することを示しているのかもしれません。
さらに、研究チームは、スペクトルの情報からこれらの巨大ブラックホールの質量を求めています。
今回発見した巨大ブラックホールの質量は太陽の100万倍から1億倍ほど。
この質量は、クエーサーを持つブラックホールに比べて100倍ほど軽く、より形成初期に近い天体だということが分かります。
一方、現在の宇宙に存在する同じような銀河が持つ巨大ブラックホールと比べると、質量は10倍から100倍ほど大きく、遠方宇宙でブラックホールが急成長している様子を見ている可能性があります。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を使った今回研究は、予想以上に多くの巨大ブラックホールが存在するという、新たな遠方宇宙の姿を世界に先駆けて明らかにしました。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡という人類の新しい目は、今後も私たちにワクワクするような予想外の発見をもたらしてくれるはずです。
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