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研究は研究者だけのものではない! 市民天文学者も貢献できる銀河分類のプロジェクト“GALAXY CRUISE”

2024年03月17日 | 銀河・銀河団
天文学者と一般市民が力を合わせ銀河の謎に迫る、国立天文台の市民天文学プロジェクト“GALAXY CRUISE(ギャラクシークルーズ)”から、初めての科学論文が出版されました。

このプロジェクトでは、すばる望遠鏡の高感度・高解像度の画像と、市民天文学者による高い分類精度を組み合わせて、銀河が衝突・合体する際に銀河の中の様々な活動性が高くなることを明らかにしています。

“GALAXY CRUISE”の分類結果は公開されているので、世界中の天文学者による利用で更なる発見がなされることが期待されます。
本研究の成果は、日本天文学会欧文研究報告“Publications of the Astronomical Society of Japan; PASJ”に2023年9月26日付で掲載されました。
図1.日本初の市民天文学プロジェック“GALAXY CRUISE”が始まったのは2019年11月のこと。このプロジェクトは宇宙に満ち溢れる様々な色・形の銀河の謎を解くことが目的。今回、第1シーズンと呼ばれる、最初の2年半の分類結果(約200万件)をまとめたカタログが公開され、科学解析の結果が論文として出版された。(Credit: 国立天文台)
図1.日本初の市民天文学プロジェック“GALAXY CRUISE”が始まったのは2019年11月のこと。このプロジェクトは宇宙に満ち溢れる様々な色・形の銀河の謎を解くことが目的。今回、第1シーズンと呼ばれる、最初の2年半の分類結果(約200万件)をまとめたカタログが公開され、科学解析の結果が論文として出版された。(Credit: 国立天文台)


市民天文学者の力を借りるプロジェクト

宇宙は多種多様な銀河で満ち溢れています。
赤っぽい色をした楕円銀河や、青い渦巻銀河もあれば、形の崩れた銀河もあります。

このような多様性の原因としては、銀河同士の衝突や合体が大きく関係していると考えられてきました。
でも、銀河同士が合体するときに何が起きるのかは、まだ分かっておらず…
天文学者の観測的な理解は限定的なままでした。

その理由は、そのような銀河が稀で見つけるのが難しいからです。

そこで、“GALAXY CRUISE”では、一般市民、すなわち市民天文学者の力を借りて、それらの銀河をすばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ“HSC(Hyper Suprime-cam)”(※1)が撮影した銀河の中から見つけることを始めています。

“GALAXY CRUISE”に参加している市民天文学者は、もちろん銀河分類の専門家ではありません。
それなのに銀河の分類なんてできのでしょうか?

そこは、専門家によるきちんとしたフォローがあり、トレーニングコースをこなして銀河の形態を理解すると、銀河分類の許可書が手に入り、“GALAXY CRUISE”に参加することになります。
広大な宇宙で、初めて出会う銀河の形に、多くの市民天文学者が魅入られていくことになります。
※1.“HSC(Hyper Suprime-Cam:ハイパー・シュプリーム・カム)”は、すばる望遠鏡に搭載されている超広視野主焦点カメラ。満月9個分の広さの天域を一度に撮影でき、独自に開発した116個のCCD素子により計8億7000万画素を持つ。まさに巨大な超広視野デジタルカメラといえる。


“HSC”による質の高い画像と市民天文学者の高い分類精度

“GALAXY CRUISE”は、天文学者だけではとても成し得なかった成果と言えます。

市民天文学者による分類結果を、“GALAXY CRUISE”のリーダーである田中賢幸教授(国立天文台 ハワイ観測所)が丁寧に科学解析し、そこから分かったのは市民天文学者の分類精度がとても高かったことでした。

もちろん、“GALAXY CRUISE”が用いた“HSC”が撮影した画像の質の高さも、この分類精度に貢献していました。(図2)
先行研究では楕円銀河と思われていた銀河の周りには、はっきりと渦巻構造が見えるケースがたくさん発見されています。
つまり、今まで間違って分類されてきた銀河が多くあり、“GALAXY CRUISE”の分類精度は先行研究を大きく超えていると言えます。
図2.市民天文学者が見つけた渦巻銀河。どれも立派な渦を巻いていることが分かる。(Credit: 国立天文台)
図2.市民天文学者が見つけた渦巻銀河。どれも立派な渦を巻いていることが分かる。(Credit: 国立天文台)
“GALAXY CRUISE”の主対象である、衝突・合体の過程にある銀河にもそれが当てはまります。

銀河が衝突・合体する際に銀河の形がゆがめられたり、銀河の周りに特徴的な形が見えることがあります。
ただ、これらの特徴はしばしばとても淡く広がっているので、見逃されてしまうことが多くありました。

でも、すばる望遠鏡の感度と解像度を活かした“HSC”の画像は、今まで見つかっていなかった衝突・合体の淡い痕跡を、多くの銀河でとらえていました。

さらに、市民天文学者たちの分類を上手く使うことで、衝突・合体銀河の中でとりわけ激しい合体の現場にある銀河を見つけることもできました。(図3)
どの銀河も大きく崩れた複雑な形をしています。
こういった銀河は珍しく、見つけるのが難しいので、まさに人海戦術で頑張った“GALAXY CRUISE”の特徴が良く出たサンプルと言えます。
図3.激しい合体の瞬間にある銀河。大きく形が崩れた銀河ばかりで、合体の激しさがうかがえる。(Credit: 国立天文台)
図3.激しい合体の瞬間にある銀河。大きく形が崩れた銀河ばかりで、合体の激しさがうかがえる。(Credit: 国立天文台)


衝突・合体が銀河の中で様々な活動を引き起こしている

今回の科学解析から分かったのは、衝突・合体をしている銀河は、そうでない銀河と比べて星形成活動(※2)が活発になっていること。
さらに、銀河の中心にあると考えられている、超大質量ブラックホールの活動性(※3)も高まっていることが示されています。
※2.銀河の中には大量のガスがしばしばあり、それが冷えて重力により高密度に凝縮されると新しい星が生まれる。銀河はガスから星を生む星の生産工場と言え、このような星を生む活動を銀河の星形成活動と呼ぶ。

※3.重い銀河の中心部には超大質量ブラックホールがあると考えられている。ブラックホールは、その強大な重力で周囲から物質を引き付け、そこに物質が落ち込む。その際、ブラックホールの周辺が明るく輝き、これがブラックホール活動として観測される。つまり、活動性が高いということは、大量の物質がブラックホールに流れ込んでいることを意味している。
興味深いことに、その傾向は図3に示したような、とりわけ合体の激しい銀河で顕著ということも分かりました。
銀河同士が最終的に合体する際に、銀河の中で様々な活動が引き起こされることが原因となっているようです。

今回、これらの結果が科学論文として出版されました。
“GALAXY CRUISE”の市民天文学者の努力が実った、記念すべき最初の論文になります。

“GALAXY CRUISE”が調べたような、衝突・合体をする銀河における内部活動性の研究は、これまでにも数多くありました。
でも、相反する研究結果が報告されることがしばしばあったんですねー
その理由として、銀河の衝突・合体を調べることの困難さや、解析手法の違いなど、様々な要因があったと考えられます。

対して“GALASXY CRUISE”は、銀河の画像から衝突・合体の痕跡を探すという、とても時間はかかるものの直接的で強力な手法です。
“HSC”の画質の高さと相まって、これまでの研究よりも良い衝突・合体銀河のサンプルが得られたと考えられます。

そのおかげで、今回の研究では、銀河の内部活動性が活発になることを明らかにできました。
このことは、科学的に非常に価値の高い分類結果を用いた成果と言え、市民天文学者の貢献のおかげでした。

“GALAXY CRUISE”の分類結果は、論文の出版とともに世界中の研究者に向けて公開されています。
科学的価値を認められた市民天文学者による分類がさらに広く活用されれば、新たな発見につながることも期待できます。

研究は研究者がするものだと、これまでは思われていました。
そうではなく、市民天文学者も貢献できることをこの論文は示しています。
“GALAXY CRUISE”はまだプロジェクトの半ば、まだ銀河の謎に挑むチャンスはありますよ。


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