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系外惑星からの光を直接観測できる装置“ローマン・コロナグラフ”の準備完了! 恒星の光を取り除く技術で第2の地球を発見へ

2024年05月29日 | 系外惑星
NASAのナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡には、恒星の光を遮りその光芒に隠された惑星を見ることができる“ローマン・コロナグラフ”という装置が搭載されます。
この装置を用いた新しい観測技術を実証することで、地球外のハビタブル(生命が居住可能)な世界の探索への道を拓くのに役立ちます。

この技術実証装置は、最近になって南カリフォルニアにあるNASAのジェット推進研究所(JPL)から、メリーランド州グリーンベルトにあるNASAのゴダード宇宙飛行センターへ出荷。
そこで2027年5月までの打ち上げに向けて、宇宙望遠鏡衛星に組み込まれる予定です。

でも、この大陸をまたいでの旅の前に、ローマン・コロナグラフはエンジニアが“ダークホールを掘る”と呼ぶ、星の光を遮る能力の最も完全なテストを受けていました。

宇宙では、この“ダークホールを掘る”ことにより、天文学者は他の恒星の周りの惑星、すなわち系外惑星からの光を直接観測することができるようになります。

この技術がローマン・コロナグラフで実証されれば、同様の技術を用いた将来のミッションでは、天文学者は直接観測により系外惑星の大気中の化学物質を特定し、生命の存在を示すことができるようになるかもしれません。
図1.ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡のイメージ図。(Credit: NASA)
図1.ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡のイメージ図。(Credit: NASA)


恒星の近くにある惑星を見えやすくする

ダークホールのテストでは、宇宙の冷たく暗い真空をシミュレーションするために設計された密閉されたチャンバーにコロナグラフを配置。
レーザーと特殊な光学系を使用して、ローマン望遠鏡で観測したときに見える、星からの光を再現しています。

光がコロナグラフに到達すると、車のサンバイザーが太陽を遮ったり、皆既日食中に月が太陽を遮ったりするように、マスクと呼ばれる小さな円形の隠蔽物を使用して、星の光を効率的に遮断します。
これにより、恒星の近くに位置する天体が見えやすくなる訳です。

マスクを持つコロナグラフとして、すでに宇宙空間で実現されている例はありますが、地球と同じような系外惑星を検出する能力はありませんでした。

他の恒星系から見ると、私たちの地球は太陽の約100億倍暗く見え、この2つは比較的近い距離にあります。
なので、地球を直接撮影することは、3000マイル(約5000キロ)離れた灯台の隣にある発光藻の光の斑点を見ようとするようなものになります。


より多くの恒星の光を取り除く技術

これまでのコロナグラフィー技術では、マスクされた星でさえ、その光芒が地球のような惑星のかすかな光を圧倒していました。
このため、ローマン・コロナグラフでは、いくつかの稼働部品を使用して、過去のスペース用コロナグラフよりも、不要な星の光を多く除去できる技術を実証します。
これらの稼働部品により、宇宙を飛行する初の“アクディブ”なコロナグラフとなります。

主な装置は、直径わずか2インチ(5センチ)の2つの変形可能なミラー(可変形鏡)で、上下に動く2000個以上の小さなピストンで支えられています。
このピストンが連携して可変形鏡の形状を変化させ、コロナグラフマスクの端からこぼれる不要な迷光を補正して遮ることができます。

可変形鏡は、ローマン望遠鏡の他の光学系のわずかなズレを補正するのにも役立ちます。
これらのわずかな光学系のズレはとても小さいので、ローマン望遠鏡の他の装置の高精度測定には全く影響を与えません。
でも、コロナグラフではマスクに隠された星のわずかな光を、“ダークホール”に導いてしまう可能性があります。

肉眼では知覚できないほどの、可変形鏡の形状のわずかな、そして正確な変形によって、このようなわずかな光学系のズレも補正することができます。
光学系のズレは非常に小さく、影響も非常に小さいので、実証試験では正しく修正するために100回以上の反復を行う必要があったそうです。

試験では、コロナグラフのカメラからの読み出しに、中心の恒星の周りにドーナツ状の領域が示され、より多くの中心星の光をその領域から取り除いていくにつれて徐々に暗くなるので、“ダークホールを掘る”というニックネームが付けられました。

打ち上げられた軌道上の宇宙空間では、この暗い領域(ダークホール)に潜む系外惑星が、可変形鏡による作業を行うにつれて、ゆっくりと現れるはずです。


直接観測と間接的な検出方法

過去30年間に、他の恒星の周りに5000個以上の惑星が発見および確認されています。
でも、そのほとんどは間接的に検出されたものでした。

間接的というのは、惑星の光を直接観測するのではなく、惑星が主星(恒星)の光に与える小さな影響から惑星の存在を探るというもの。
恒星の周りを回っている惑星の重力で、恒星が引っ張られることによる速度の変化を、光の波長の変化から読み取ることで惑星の存在を検出するドップラーシフト法や、地球から見て惑星が主星(恒星)の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探るトランジット法があります。

主星の光の相対的な変化を検出することは、はるかに暗い惑星の光を直接見ることに比べれば、(比較的に)かなり容易と言えます。
実際、直接観測された系外惑星は70個未満にすぎません。

また、現在までに直接撮影された惑星は、一般的に地球とは似ても似つかないもので、ほとんどがはるかに大きく、高温で、概して主星から遠く離れています。
これらの特徴により、検出は容易にはなりますが、私たちが知っているような生命にとっては、かなり存在しにくい環境と言えます。


第2の地球を直接観測する

生命が住める可能性のある惑星を探すには、恒星の何十倍も暗いだけでなく、恒星からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域“ハビタブルゾーン”を公転する惑星の撮影が必要です。
ハビタブルゾーンが、地球上で見られるような(地球型)生命の先駆体が生まれる必要条件と言えるからです。

そこで、地球に似た、まさに“地球類似惑星”と呼べる系外惑星を直接撮像する機能を開発するのに必要となるのが、ローマン・コロナグラフのような技術実証のためのステップです。

ローマン・コロナグラフが、その能力を最大に発揮することができれば、太陽の周囲を公転する木星に似た系外惑星を直接撮像することができます。

木星は大きくて冷たい外惑星ですが、太陽系の場合は地球から火星軌道がハビタブルゾーンにあたるので、ハビタブルゾーンの比較的近くに位置することになります。

ローマン・コロナグラフの観測を実施することで得られる経験や知識は、太陽のような恒星のハビタブルゾーンを周回する地球サイズの惑星を、直接撮影するために設計される将来の宇宙望遠鏡ミッションへの道を拓くのに役立つはずです。

ハビタブル・ワールド天文台と呼ばれる、NASAによる将来の宇宙望遠鏡コンセプトは、ローマン・コロナグラフ装置の宇宙での実証観測に基づいて設計される機器を使用して、少なくとも25個の“第2の地球”と呼べる地球類似惑星を直接観測することを目指しています。

このハビタブル・ワールド天文台のようなミッションの目標を達成するために、可変形鏡のようなアクティブ(能動的)な部品が必要となった訳です。

ローマン・コロナグラフ装置のアクティブな性能により、通常の光学による観測を異なるレベルに引き上げることができます。
これにより、システム全体がより複雑になりますが、これなしではこのような素晴らしいことはできないはずです。


ミッションの詳細

ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡は、メリーランド州グリーンベルトにあるNASAのゴダード宇宙飛行センターで管理されていて、南カリフォルニアのジェット推進研究所(JPL)とカリフォルニア工科大学/IPAC、ボルチモアの宇宙望遠鏡科学研究所、および様々な研究機関の科学者で構成される科学チームが参加しています。

主な産業パートナーは、コロラド州ボルダーのBAE Space and Mission Systems、フロリダ州メルボルンのL3Harris Technologies、カリフォルニア州サウザンドオークスのTeledyne Scientific & Imagingです。

ローマン・コロナグラフ装置は、NASAの機器を管理するジェット推進研究所で設計および製造されました。

ヨーロッパ宇宙機関、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、フランスの宇宙機関CNES(国立宇宙研究センター)、ドイツのマックス・プランク天文学研究所が貢献しています。

カリフォルニア州パサデナにあるカリフォルニア工科大学は、NASAのジェット推進研究所を管理しています。
カリフォルニア工科大学/IPACのRoman Science Support Centerは、コロナグラフのデータ管理と機器のコマンドの生成についてジェット推進研究所と連携しています。


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