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ブラックホール同士の合体で光は放たれる? すばる望遠鏡とカナリア大望遠鏡の連携による重力波天体の探索

2023年05月15日 | 宇宙 space
今回の研究では、北半球にある2つの大型望遠鏡を用いて、ブラックホール同士の合体による重力波事象をこれまでにない深さで追観測し、その電磁放射強度に制限を与えています。

この制限を与えるにあたってカギになったのが、すばる望遠鏡の広視野探査能力とカナリア大望遠鏡の柔軟な分光観測の連携でした。

今後も両望遠鏡の連携で重力波事象の追観測を重ねることによって、「ブラックホール同士の合体で光が放たれるか?」という謎が解明されることが期待されています。
この研究を進めているのは、国立天文台とスペインカナリア天体物理研究所の研究者を中心とする国際研究チームです。
今回の研究のイメージ図。ブラックホール連星合体からの電磁波放射を探査するという挑戦的な試みは、すばる望遠鏡の広視野深探査観測とカナリア大望遠鏡の柔軟な分光観測という、二つの大型望遠鏡のそれぞれの長所を組み合わせることで初めて実現したもの。(Credit: Gabriel Pérez, IAC)
今回の研究のイメージ図。ブラックホール連星合体からの電磁波放射を探査するという挑戦的な試みは、すばる望遠鏡の広視野深探査観測とカナリア大望遠鏡の柔軟な分光観測という、二つの大型望遠鏡のそれぞれの長所を組み合わせることで初めて実現したもの。(Credit: Gabriel Pérez, IAC)

重力波事象と関連付けられる電磁波放射

2015年に重力波望遠鏡により初めて重力波が直接検出されてから、重力波天文学が研究者たちの注目を集めています。
一般相対性理論によると、中性子星のような高密度な天体の周りでは時空(時間と空間)が歪んでいる。このような高密度な天体が運動することで、歪みが波として宇宙空間に伝播する。これを重力波という。
2017年の中性子星同士の合体による重力波事象“GW170817”では、光学望遠鏡による追観測で、対応する電磁波放射が始めて有意に検出されました。
“GW170817”は電磁波放射現象キロノバを伴い、すばる望遠鏡に搭載されたHSCや多天体近赤外撮像分光装置“MOIRCS(Multi-object Infrared Camera and Spectrograph)”を用いた観測で、中性子星連星合体においてrプロセス元素合成が起こっていることが分かっている(ハワイ観測所2017年10月16日観測成果)。
でも、この例を除くと、重力波事象と明確に関連付けられる電磁波放射は、まだ見つかっていないんですねー

このような電磁波放射を検出するのは難しく、重力波検出の後、いかに素早く高感度の追観測を光学望遠鏡で行うかが重要な課題になっています。

重力波望遠鏡では、中性子連星合体からの重力波のみならず、ブラックホール同士や、ブラックホールと中性子星の合体による重力波も検出されます。

特に、2つのブラックホール(ブラックホール連星)が合体して放射される重力波は、重力波望遠鏡による検出の実に9割を占めています。

電磁波で直接観測できないブラックホール同士の合体

ブラックホールは、その強力な重力による束縛から光(電磁波)も逃げ出せない天体として有名です。

なので、電磁波で直接観測できないブラックホール同士の合体“ブラックホール連星合体”が、電磁波を放射するとは通常では考えられません。

でも、2019年に検出されたブラックホール連星合体からの重力波事象“GW190521”では、電磁波対応天体の候補を検出したとの報告があり、電磁波を放射する複数のメカニズムが理論的に提案されています。

そのため、様々な波長の電磁波で追観測を行い、本当にブラックホール連星合体から電磁波が放射されるのか? 放射されるとするとどのぐらいの明るさなのか? この2点の解明が求められています。

現在、ブラックホール連星合体の理論モデルについては議論中です。
ただ、様々な可能性を検討するうえでも、望遠鏡観測による明るさの測定は不可欠といえるんですねー

強い重力波事象“GW200224”

2020年2月24日のこと、アメリカの重力波望遠鏡“LIGO(ライゴ)”とヨーロッパの重力波望遠鏡“Virgo(バーゴ)”は、ブラックホール連星合体からの重力波事象“GW200224_222234(以下GW200224)”を検出しました。

一般に、重力波望遠鏡の“視力”は悪く、人間の視力に変換すると約0.0008…
その到来方向は、典型的には「満月2000個分(500平方度)の範囲のどこかから来た」としか言えないレベルでした。

でも、“GW200224”は重力波が強かったので、その到来方向が約50平方度に限定されていたんですねー

そこで、国立天文台の大神隆幸研究員(当時)とスペインカナリア天体物理研究所のホセファ・ベセラ・ゴンザレス研究員を中心とする研究チームは、すばる望遠鏡とカナリア大望遠鏡を用いて追観測を実施しています。

研究チームは、重力波検出のわずか12時間後には撮像観測を行い、急激な光度変化を起こした天体(突発天体)がその方向にあるかを探査。
観測には、広い天域で暗い天体を探査することが得意な、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ“ハイパー・シュプリーム・カム(Hyper Suprime-Cam:HSC)”が用いられています。
“HSC(Hyper Suprime-Cam:ハイパー・シュプリーム・カム)”は、すばる望遠鏡に搭載されている超広視野主焦点カメラ。満月9個分の広さの天域を一度に撮影でき、独自に開発した116個のCCD素子により計8億7000万画素を持つ。まさに巨大な超広視野デジタルカメラといえる。
この観測でカバーしていたのは到来方向の91%。
ブラックホール連星合体による重力波事象に対して、その到来方向の大部分をカバーする観測としては、これまでで最も深い観測になりました。
重力波望遠鏡による観測で得られた“GW200224_222234”の到来方向(白い線、確率90%)とすばる望遠鏡HSCが観測した領域(赤色)。赤丸はHSCの視野の大きさ(満月9個分に相当)、黄丸は満月1個分の大きさを表している。コップ座、からす座、おとめ座、しし座にまたがる広い範囲から“GW200224”は到来している。(Credit: 国立天文台/冨永/PanSTARRS)
重力波望遠鏡による観測で得られた“GW200224_222234”の到来方向(白い線、確率90%)とすばる望遠鏡HSCが観測した領域(赤色)。赤丸はHSCの視野の大きさ(満月9個分に相当)、黄丸は満月1個分の大きさを表している。コップ座、からす座、おとめ座、しし座にまたがる広い範囲から“GW200224”は到来している。(Credit: 国立天文台/冨永/PanSTARRS)

電磁波放射現象の多様性

研究チームは、見つけた突発天体の光度変動を精査し、カナリア大望遠鏡の分光器“OSIRIS”により突発天体が属する銀河の分光観測を行うことで、その銀河までの距離を決定。
最終的に“GW20024”に対応する可能性のある天体を、19天体同定しています。

ただ、この19天体から“GW20024”との関連が強く示唆される単体は見つからず…

対応天体がないとすると、2019年のブラックホール連星合体“GW190521”で報告された電磁波放射と同じ現象は、“GW20024”には付随していなかったことになります。

この結果が示しているのは、ブラックホール連星合体からの電磁波放射現象の多様性の一つなのかもしれません。

今後もブラックホール連星合体からの重力波の追観測を続けていけば、その多様性を明らかになるはずです。

2023年5月から重力波望遠鏡を用いた観測は、“LIGO”、“Virgo”に日本の“KAGRA(かぐら)”を加えた計4台で再開されます。
“LIGO”は、アメリカのルイジアナ州リビングストンのリビングストン観測所、ワシントン州リッチランド近郊のハンフォード・サイドのハンフォード観測所の2か所の重力波観測施設を一対として運用している。
性能が向上したこれらの重力波望遠鏡で、さらに多くの重力波事象が検出されると期待されているんですねー

多様な重力波天体の素性を明らかにするために、研究チームはすばる望遠鏡とカナリア大望遠鏡を用いた追観測を続けていくようですよ。


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