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形成直後の地球表層は原始生命に過酷な環境だった! 初期地球マントルの大酸化イベントを超高圧実験で再現して分かったこと

2023年05月18日 | 宇宙 space
今回の研究では、巨大天体衝突によって生じる、深いマグマオーシャン中で生成する3価鉄の量を決める実験を実施。
実験では、地球マントルと同等の試料を超高圧で融解させています。

これにより、巨大天体衝突によって生じる深いマグマオーシャン中で生成される3価鉄の量を決めることに成功しています。

この結果により、地質記録から示唆されている、40億年前より以前(冥王代)の非常に酸化的な上部マントルを定量的に説明することができました。
冥王代は地球誕生から約40億年前までの約5億年間を指す。この時期に大気や海洋が形成され、生命が誕生したと考えられている。また、この時期に形成年代を示す岩石をはじめとした地質記録はほとんど存在しない。
また、当時の火山ガス組成は二酸化炭素や二酸化硫黄が主体で、原始生命にとって非常に過酷な表層環境を形成していたことが示唆されました。

今後、地質記録により提案された、マントル大酸化の詳細な検証が期待されます。
この研究を進めているのは、愛媛大学地球深部ダイナミック研究センターの桑原秀治助教授と入船徹男教授、海洋研究開発機構(JAMSTEC)高知コア研究所の中田亮一主任研究員、JAMSTECの門屋辰太郎Young Reserch Fellow、岡山大学惑星物質研究所の茅野極教授の研究チームです。

惑星大気は火山から供給されたガスによって形成される

約46億年前に地球が形成されて以降、生命は遅くとも約39億年前には誕生していたことが当時の堆積岩から示唆されています。

でも、生命誕生当時、またはそれ以前の地球表層環境については、地質記録が乏しいので理解がなかなか進んでいませんでした。

地球をはじめとした惑星大気は、火山から供給されたガスによって形成されたと考えられています。

ただ、火山ガスの組成は上部マントルの物質がどれだけ酸化していたかで大きく異なってくるんですねー

生命誕生前の地球上部マントルは、どのような酸化状態にあったのか?
このことを明らかにすることは、生命誕生の謎を解明するうえで重要な手掛かりを提供してくれることになります。
酸化状態とは、酸化の度合いを表し、化学結合した原子が電子を損失し、電荷がプラスになるほど酸化していることを意味する。酸化鉄の場合、O2-1個と結合する2価鉄(Fe2+)とO2-1.5個と結合する3価鉄(Fe3+)という電子状態の異なる2種類が存在する。

酸化の原因は惑星形成末期の巨大天体衝突

数少ない地質記録からは、地球上部のマントルの一部が約44億年前にはすでに現在と同程度か、それ以上に酸化されていたことが示唆されています。

では、こうした酸化は何によって引き起こされたのでしょうか?

酸化の原因として最近提案された説に、惑星形成末期の巨大天体衝突によって生成されたマグマオーシャン(マグマの海)があります。
惑星形成期には、原始惑星やそれよりも小さい月や火星サイズの微惑星と呼ばれる岩石天体が多く存在していた。それら微惑星による巨大天体衝突や二酸化炭素に富む分厚い大気の温室効果によって、惑星表層は全体的にマグマの海(マグマオーシャン)で覆われていたと考えられている。
このマグマオーシャン中で2価鉄イオン(Fe2+)の電荷不均化反応が起こり、3価鉄イオン(Fe3+)が生成されることでマントル全体が酸化するという説です。

でも、この反応を研究する先行実験では、地球のマントルと大きく組成が異なる試料を用いていたんですねー

さらに、実際の巨大天体衝突で生じたであろうマグマオーシャンと比べると低い圧力条件で実験が行われていて、それら低圧での実験結果をより高圧へ伸ばした予想値も、圧力20万気圧以上では理論予測と大きく異なるという問題がありました。

そのため、現実的なマントル組成の試料を用いた、さらなる高圧下での実験的検証が必要とされていました。
(左)巨大天体衝突のイメージ図、(右)2価鉄(Fe2+)の不均化反応によるマグマオーシャン酸化メカニズムの概要。2価鉄の不均化反応で生成した金属鉄がマグマオーシャンから取り除かれ、3価鉄(Fe3+)の割合が増加し、マントルが酸化する。(Credit: 木下真一郎)
(左)巨大天体衝突のイメージ図、(右)2価鉄(Fe2+)の不均化反応によるマグマオーシャン酸化メカニズムの概要。2価鉄の不均化反応で生成した金属鉄がマグマオーシャンから取り除かれ、3価鉄(Fe3+)の割合が増加し、マントルが酸化する。(Credit: 木下真一郎)

マグマオーシャンを再現する実験

今回、愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センターを中心とするチームが試みたのは、深さ約660~800キロに相当する下部マントル圧力条件におけるマグマオーシャンを再現する実験でした。
地球マントルは、最も多く含まれる鉱物の種類に対応して、上部マントル(深さ約60~410キロ)、マントル遷移層(410~660キロ)、下部マントル(660~2900キロ)の3つの領域に区分される。
そして、大型高圧発生装置と超高温実験に適した密閉容器を組み合わせ、先行実験よりも現実的なマントル組成と考えられるカンラン岩組成の試料を金属鉄と共に溶融させることに成功。
カンラン岩は上部マントルの主要な岩石であり、その主要鉱物であるカンラン石の化学組成は(Mg, Fe)2SiO4で表される。マントル遷移層では、同じ化学組成をもつが結晶構造が異なるワズレアイトやリングウッダイトに変化し、下部マントルではブリッジマナイト(Mg, Fe)SiO3とフェロペリクレース(Mg, Fe)Oに変化する。
さらに、数十μmサイズの微小領域における酸化鉄の化学結合状態を分析することのできる大型放射光施設SPring-8のビームラインBL27SUにて、実験回収試料の2価鉄と3価鉄の量を決定することにも成功しています。
大型放射光施設SPring-8は、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援などは高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する、細く強力な電磁波のこと。
実験結果が示していたのは、下部マントル条件下では、これまでの予想以上に3価鉄が2価鉄の電荷不均反応により生成されること。
これにより、深いマグマオーシャンが形成されると、現在の地球よりも酸化的な表層環境が形成されることが明らかになります。
鉄の不均化反応では、2価鉄が電子状態の異なる2種類の鉄(Fe3+と金属鉄Fe0)に分かれる。
金属鉄共存化におけるマグマ中の酸化鉄に占める3価鉄の割合の変化。下部マントル圧力条件(23万気圧以上)では、2価鉄の電化不均化反応の効率が非常に高くなる。(Credit: 愛媛大学リリース)
金属鉄共存化におけるマグマ中の酸化鉄に占める3価鉄の割合の変化。下部マントル圧力条件(23万気圧以上)では、2価鉄の電化不均化反応の効率が非常に高くなる。(Credit: 愛媛大学リリース)
今回の研究結果は、地質記録から示唆されている冥王代(地球誕生から40億年前までの約5億年間)の記録と一致していて、地球表層が全球的に非常に酸化的であったことを示しました。

また、当時の地球大気が二酸化炭素や二酸化硫黄から構成されていた可能性が高いことも示唆されました。

こうした大気では、生命が利用可能なアミノ酸などの有機分子の生成率はとても低く、原始生命にとっては非常に過酷な環境であったと想像されます。

一方で、現在の上部マントルの3価鉄の量は、今回の研究で予想される冥王代の上部マントルの値よりも一桁低いものでした。

このことについては、その後に降着したであろう金属鉄に富む小天体によって、上部マントルの酸化状態が還元されたとする新しい仮説につながっています。

今後、地質学的な検証により、地球の上部マントルの酸化状態や大気組成の変遷に関する理解が進むことが期待されています。
還元反応では酸化鉄が還元剤(例えば金属鉄など)から電子を受け取り酸素量が減少する。


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