宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

銀河中心ブラックホールの質量を知るには? 銀河の輝度分布や恒星の軌道から分かるようです。

2019年12月21日 | ブラックホール
くじら座の方向約7億光年の距離にある巨大銀河“Holm 15A”。
今回分かったのは、この銀河の中心ブラックホールが太陽の400億倍もの質量を持っていること。
これまでに質量が直接観測されたブラックホールとしては最も重いようです。


重い中心ブラックホールが存在する巨大楕円銀河

くじら座の方向約7億光年の彼方。
そこには“エイベル85”という500個以上の銀河が属している銀河団があります。

この銀河の中心に存在しているのが“Holm 15A”という巨大楕円銀河。
驚くことに“Holm 15A”の恒星の総質量は太陽の2兆倍もあるんですねー
ちなみに、私たちの天の川銀河に含まれる恒星の総質量は太陽の1000億倍ほどです。
○○○
銀河団“エイベル85”。
中央の明るい銀河が巨大銀河“Holm 15A”。

一般に、楕円銀河は内側に向かうほど星が密集して明るさが高くなり、中心部には直径が数百~数千光年ほどの“コア”と呼ばれるほぼ均一な構造があります。

でも、“Holm 15A”中心部にあるのは、マゼラン雲(直径約1万5000光年)とほぼ同じサイズの大きく広がった淡い“コア”。
中心部ではあまり星が密集していないんですねー

このことから、ドイツ・マックスプランク地球外物理学研究所のチームが推測したのが、この銀河には非常に重い中心ブラックホールが存在しているということ。

ただ、これまでに超大質量ブラックホールの質量を直接観測できた例はまだ数十個しかないんですねー
さらに、これほど遠い距離でブラックホールの質量が測定できたことは一度もありませんでした。

そこで、研究チームはブラックホールの質量を測定することにします。

観測に用いられたのは、ドイツ・ミュンヘン大学のヴェンデルシュタイン天文台の望遠鏡とヨーロッパ南天天文台のVLT望遠鏡。
“Holm 15A”の中心ブラックホールを回る恒星の運動を測定してブラックホールの質量を見積もっています。

そして得られたのが、“Holm 15A”の中心ブラックホールの質量は太陽の400億倍という値。
この値は、地球近傍の宇宙にある質量が知られているブラックホールの中では最も重いものでした。

さらに、この値は“Holm 15A”に属する恒星の総質量や恒星の速度分散(速度のばらつきの度合い)から間接的に導いた値よりも数倍大きなものでした。


淡く広がった“コア”が意味すること

“Holm 15A”の表面輝度(単位面積当たりの明るさ)の分布を見ると“コア”が大きく広がっています。
また、その表面輝度は非常に暗く、他の楕円銀河の“コア”と比べてもずっと暗いことに気づきます。

さらに、“Holm 15A”は中心付近でも“コア”の明るさが非常に平坦なんですねー

このことから考えられるのは、過去の銀河合体の際に中心部の恒星の大半が銀河の外へはじき出された可能性。
○○○
“Holm 15A”の表面輝度の分布(赤)。横軸が銀河中心からの距離で縦軸が表面輝度を表す。
灰色の線は他の銀河の輝度分布。表面輝度がほぼ一定になっている領域を“コア”と呼ぶ。
他の銀河と比べて“Holm 15A”の“コア”は非常に大きく輝度が低い。

現在、広く受け入れられているモデルでは、巨大楕円銀河のこうした淡く広がった“コア”は“コアの精錬”と呼ばれるプロセスでできたと考えられています。

2個の銀河が合体すると、それぞれの銀河中心にあったブラックホール同士が重力相互作用でブラックホール連星になります。

このブラックホール連星と普通の恒星が出会うと、3つの天体の“三体相互作用”によって最も軽い恒星が細長い軌道に変えられ、合体後の銀河の“コア”からはじき出されてしまいます。

もし、合体後の銀河の中心部に新たな星を生み出せるガスが残っていなかったら…
そう、ブラックホール連星によって星の放出が繰り返されることで、若い星が少なく暗い“枯渇したコア”が残ることになるんですねー

最新の銀河衝突シミュレーションでも、今回の観測で得られた特徴と非常によく合う予測が得られています。

シミュレーション結果によると、銀河合体で淡く広がった“コア”ができるために最も重要なことは、合体前の2個の楕円銀河がすでに“枯渇したコア”を持っていること。

つまり、銀河の輝度分布の形や恒星の軌道に関する観測データには、“Holm 15A”の“コア”が形成された時の環境に関する、銀河考古学上の価値ある情報が含まれていることになります。

このことは他の巨大銀河でもいえること。

観測データから見出すことができるのは、ブラックホールの質量と銀河の表面輝度を関連付ける新たな強い関係。
銀河が合体するたびに、中心ブラックホールの質量は増え、銀河の中心部からは星が失われていくという関係です。

この関係を使えば、ブラックホールのそばを回る恒星を直接測定できないような遠い銀河についても、中心ブラックホールの質量を見積もることができるかもしれませんね。


こちらの記事もどうぞ
  クエーサー中心部に潜む超大質量ブラックホールの質量を調べる方法
    


最新の画像もっと見る

コメントを投稿