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金星の雲に含まれる紫外線吸収物質は2種類の硫酸鉄と特定

2024年02月06日 | 金星の探査
金星を紫外線で見てみると、特定の波長で暗く見える斑点構造が見つかります。

この現象が意味しているのは、雲の中に含まれている物質が紫外線を吸収していること。
ただ、物質の正体はこれまではっきりと分かっていませんでした。

今回の研究では、金星の雲の環境を再現するため、様々な物質が含まれた硫酸溶液を合成し、紫外線の吸収波長を調べています。

その結果、2種類の硫酸鉄化合物だと、観測値を最もよく説明できることが明らかになりました。
金星の環境は興味深い研究対象なので、この研究結果は金星の大気化学に関する大きな成果の1つになるはずです。
この研究は、ケンブリッジ大学のClancy Zhijjan Jiangさんたちの研究チームが進めています。
図1.金星探査機“あかつき”の紫外線観測データに基づいて作成された金星の疑似カラー画像。(Data Source: PLANET-C Project Team, DARTS , ISAS & JAXA; Image Credit: Meli thev)
図1.金星探査機“あかつき”の紫外線観測データに基づいて作成された金星の疑似カラー画像。(Data Source: PLANET-C Project Team, DARTS , ISAS & JAXA; Image Credit: Meli thev)


紫外線による金星の観測

地球の内側を公転し、その大きさや質量が地球と似ていることから、しばしば地球の双子星と呼ばれる金星。
でも、その大気や環境は地球とは全く異なっていて、金星には二酸化炭素を主体とする非常に分厚い大気があり、表面の気圧は地球の90倍に達していることに加え、硫酸が含まれているため極度の酸性を示しています。

金星の大気環境は、他のどの天体にも類例が存在しなので、大気化学の分野で特に注目されています。

ただ、余りにも環境が独特過ぎるんですねー
このため、比較対象が見つからず、金星の環境を分析する研究を困難なものにしていて、分析ができていない観測データは無数に存在します。

その1つが紫外線による観測データです。

金星を紫外線で観測すると、一部が暗く映る斑点状の構造が生じているのが分かります。
この構造は、金星上空の高度48~65キロに浮かぶ雲に由来すると考えられています。

高度48~65キロは、“熱が支配的な下層部”と“光が支配的な上層部”の中間部に当たる領域。
金星の大気の中でも特に注目されている領域の1つです。

その雲が紫外線で映るということは、雲の中に紫外線を吸収する物体が存在することになります。

では、紫外線を吸収する物体は、どのような化学組成を持っているのでしょうか?
その候補は無数に存在するので、これまで解明されていませんでした。


金星の雲に含まれている成分

今回の研究では、金星の雲に含まれている成分を特定するため、様々な硫酸溶液と太陽光を再現した光源を用いて実験を行っています。

既に分かっていたのは、金星の雲には鉄と硫黄が多く含まれていること。
さらに、鉄と硫黄が化合した硫酸鉄は紫外線をよく吸収することでした。

このことから分かるのは、金星の雲の中には硫酸鉄が含まれている可能性があること。
ただ、硫酸鉄には化学組成の細かな違いが生じるので、候補が無数にある状況には変わりがありませんでした。

このため、研究チームでは、実験を行うことで成分の正確な正体を探ることになります。
様々な組成の硫酸鉄を合成し、様々な濃度の硫酸に溶かしてできた硫酸鉄の硫酸溶液を、金星が受けるであろう太陽光を再現した光源に照らすことで、どの波長の紫外線を吸収するのかを観測しています。
図2.観測データと実験結果それぞれにおける、波長ごとの紫外線の吸収度合。観測結果(灰色や緑色の網掛け)に最も一致する実験結果(黄色帯)は、74wt%濃度の硫酸にロンボクレースが1wt%、84wt%濃度の硫酸に酸性硫酸第二鉄が1.25wt%含まれている場合であることが分かった。(Credit: Clancy Zhijian Jiang, et al.)
図2.観測データと実験結果それぞれにおける、波長ごとの紫外線の吸収度合。観測結果(灰色や緑色の網掛け)に最も一致する実験結果(黄色帯)は、74wt%濃度の硫酸にロンボクレースが1wt%、84wt%濃度の硫酸に酸性硫酸第二鉄が1.25wt%含まれている場合であることが分かった。(Credit: Clancy Zhijian Jiang, et al.)
その結果、金星の紫外線吸収を最もよく説明できたのは、“ロンボクレース(Rhomboclase/(H502)Fe(S04)2・3H20)”と“酸性硫酸第二鉄(acid ferric sulfate/(H30)Fe(S04)2)”という2種類の硫酸鉄。
いずれも硫酸に対する重量比が約1%(約1wt%)の濃度で含まれていると考えられています。

この研究は、金星に関する謎を1つ明らかにしたものの多くの謎が残っています。

例えば、これらの硫酸鉄は塩化鉄のような揮発しやすい別の鉄化合物からの反応によって生じたと考えられますが、その反応機構は正確には分かっていません。

また、金星の大気上空へ重い鉄を供給するメカニズムも不明です。
硫酸鉄は二酸化硫黄を吸収するものの、金星で観測されている二酸化硫黄の局所的な現象を説明するには不足しています。

このように挙げられた謎は、金星の大気に関する謎のほんの一部です。
それでも、金星の紫外線吸収に関する謎の解明は、金星の大気化学に関する大きな成果の1つになるはずです。


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