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宇宙にジュエルリングを発見! ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が見つけたのは重力レンズ効果を受けて明るく輝くクエーサーだった

2024年07月09日 | 銀河と中心ブラックホールの進化
宇宙で輝くジュエルリング(宝石の指環)をジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がとらえました。
その正体は、地球から約60億光年彼方に位置するクレーター座にあるクエーサー“RX J1131-1231”。
前景銀河による重力レンズ効果で、“RX J1131-1231”の像は明るく弧状に歪み、さらに4つの像が分離して観測されています。
図1.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた宇宙で輝くジュエルリング(宝石の指環)。前景銀河による重力レンズ効果で、クエーサー“RX J1131-1231”の像は明るく弧状に歪み、さらに4つの像が分離して観測されている。(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, A. Nierenberg)
図1.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた宇宙で輝くジュエルリング(宝石の指環)。前景銀河による重力レンズ効果で、クエーサー“RX J1131-1231”の像は明るく弧状に歪み、さらに4つの像が分離して観測されている。(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, A. Nierenberg)


天然の拡大鏡“重力レンズ効果”

重力レンズ効果は、アインシュタインの一般相対性理論によって予測された現象で、大質量の天体の周りで時空が歪むことで光の経路が曲げられて発生します。

恒星や銀河などが発する光が、途中にある天体などの重力によって曲げられたり、その結果として複数の経路を通過する光が集まるために明るく見えたりする現象。
光源と重力源との位置関係によっては、複数の像が見えたり、弓状に変形した像が見えたりする効果があります。

重力レンズ効果は、天文学者にとって天然の拡大鏡の役割を果たし、遠方の天体をより詳細に観測することを可能にしてくれます。


最も重力レンズ効果が顕著に表れているクエーサー

クエーサーは、銀河中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込む過程で生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体です。

クエーサー“RX J1131-1231”の場合、地球と“RX J1131-1231”の間に位置する前景銀河の重力が、背後に位置する“RX J1131-1231”からの光を曲げています。
この重力レンズ効果により、“RX J1131-1231”の像は明るく弧状に歪み、さらに4つの像が分離して観測されています。

“RX J1131-1231”は、これまで発見された中で最も重力レンズ効果が顕著に表れているクエーサーの一つと考えられています。
このため、天文学者にとって、クエーサーとその中心に位置する超大質量ブラックホールを研究するための貴重な機会を提供してくれています。


ブラックホールの進化と回転速度

クエーサーは、非常に遠方に位置するにもかかわらず、極めて明るく輝いている天体です。
その莫大なエネルギー源は、クエーサーの中心にある超大質量ブラックホールに落ち込む物質だと考えられています。

クエーサーから放射されるX線の測定は、中心ブラックホールの回転速度を推定する手掛かりとなります。
そして、ブラックホールの回転速度は、その成長過程と密接に関係しています。

例えば、ブラックホールが主に銀河同士の衝突や合体によって成長した場合、多量の物質が供給されることで安定した降着円盤(※1)が形成され、その結果としてブラックホールは高速で回転すると考えられています。
一方、ブラックホールが周囲の物質を少しずつ、ランダムな方向から取り込みながら成長した場合、回転速度は遅くなる傾向にあります。

観測から分かっているのは、“RX J1131-1231”のブラックホールが光速の半分以上の速度で回転していること。
これは、このブラックホールが合体を経て成長したことを示唆しています。
※1.降着は、中心にある重い天体の重力によって、周囲から物質が落下してくること。ブラックホールへ降着する物質は角運動を持つため、中心天体の周囲を公転しながら降着円盤と呼ばれるへんぺいな円盤状の構造を作る。降着円盤内のガスの摩擦熱によって落下するガスは電離してプラズマ状態へ、この電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、降着円盤からは荷電粒子のジェットが噴射し降着円盤の半径に応じて、可視光線、紫外線、X線と幅広い電磁波が観測される。


ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡と重力レンズでダークマターの謎に迫る

NASAが中心となって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用の望遠鏡が“ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡”です。

初期の銀河からの光は非常に暗い上に、宇宙の膨張により遠方からの光ほど赤方偏移(※2)するため、発した時は可視光線であっても地球に届くまでに赤外線にまで波長が引き伸ばされてしまいます。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、このようにはるか遠方に位置する暗い天体でも、重力レンズ効果を用いた観測に適しています。
※2.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移(記号z)の度合いを用いて算出されている。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡に搭載された中間赤外線観測装置“MIRI”を用いて“RX J1131-1231”を観測することで、ダークマターの性質をこれまで以上に小さなスケールで調べることができます。

ダークマターは、光などの電磁波では観測することができず、重力を介してのみ間接的に存在を知ることができる謎の物質。
宇宙の質量の約85%を占めていると考えられています。

重力レンズ効果は、ダークマターの分布や性質を研究するための強力なツールとなり、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測は、ダークマターの謎を解明する上で重要な役割を果たすと期待されています。

“RX J1131-1231”の重力レンズ効果は、クエーサー、ブラックホールの成長、そしてダークマターの性質を研究するための貴重な機会を提供しています。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の高感度で高分解能な能力と相まって、重力レンズ効果は宇宙の最も遠い領域についてより深く理解することに役立つはずです。


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