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なぜ“超淡銀河”は大きさに対して星の数が少ないのか? 銀河から伸びる尻尾のような構造“恒星ストリーム”を見つけて分かったこと

2023年03月07日 | 銀河・銀河団
すばる望遠鏡を用いた“M81銀河群”の観測から、この銀河群に属する“超淡銀河”から中心銀河の方向へ星が流れ出ている様子が明らかになりました。

このような尻尾のように伸びた構造“恒星ストリーム”が“超淡銀河”で見つかったのは初めてのこと。
銀河群の力学進化とともに、謎に包まれた“超淡銀河”の起源に対して重要な示唆を与えてくれそうです。
すばる望遠鏡“HSC”による“M81銀河群”の観測領域(点線と赤戦で囲まれた範囲、背景はスローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)の観測画像)(左)と、赤線で囲まれた超淡銀河“F8D1”を含む領域における赤色巨星の分布(右)。右上は、“F8D1”本体の“HSC”による観測画像。今回発見された“恒星ストリーム”はとても暗いため、“HSC”による観測画像からは判別できなかったが、赤色巨星の分布から、“F8D1”から銀河群の中心方向である“M81”へと伸びる星の流れ(ストリーム)があることが分かる。銀河“NGC 2976”は“M81銀河群”よりも手前に位置していて、右図では偶然ストリームに重なるように見えている。(Credit: 国立天文台)
すばる望遠鏡“HSC”による“M81銀河群”の観測領域(点線と赤戦で囲まれた範囲、背景はスローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)の観測画像)(左)と、赤線で囲まれた超淡銀河“F8D1”を含む領域における赤色巨星の分布(右)。右上は、“F8D1”本体の“HSC”による観測画像。今回発見された“恒星ストリーム”はとても暗いため、“HSC”による観測画像からは判別できなかったが、赤色巨星の分布から、“F8D1”から銀河群の中心方向である“M81”へと伸びる星の流れ(ストリーム)があることが分かる。銀河“NGC 2976”は“M81銀河群”よりも手前に位置していて、右図では偶然ストリームに重なるように見えている。(Credit: 国立天文台)

ごくわずかな数の星しか含まない銀河

“M81銀河群”は、渦巻銀河“M81”を中心に大小40余りの銀河で構成される、地球から1200万光年彼方に位置する私たちに最も近い銀河群の一つです。

天の川銀河とアンドロメダ銀河を中心とする“局所銀河群”に似た性質を持つことから、天の川銀河の歴史を解き明かす上で重要な研究対象になっているんですねー

この“M81銀河群”に属する矮小銀河の一つ“F8D1”は、銀河の大きさに対して含まれる星の数がごくわずかで、極端に暗く淡く広がっている“超淡銀河”です。

それでは、超淡銀河がその大きさに比べて、ごくわずかな数の星しか含まないのはなぜなのでしょうか?
この長年にわたって天文学者たちを悩ませている問題に取り組む上で、私たちに最も近い超淡銀河である“F8D1”は格好の調査対象でした。

銀河から伸びる尻尾のような構造“恒星ストリーム”

国立天文台とエジンバラ大学の研究者を中心とする国際研究チームは、2014年からすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ“ハイパー・シュプリーム・カム(Hyper Suprime-Cam:HSC)”を用いた、“M81銀河群”の撮像探査“M81 銀河考古学プロジェクト”を続けています。

超淡銀河“F8D1”の周辺については、観測画像に写る一つ一つの天体から、“M81銀河群”の距離にある赤色巨星を取り出しその分布を調査。
すると、“F8D1”から渦巻銀河“M81”の方向に1度角以上に渡って伸びる、尻尾のような構造“恒星ストリーム”が見つかります(図1右)。

“恒星ストリーム”の長さは銀河本体の大きさの30倍以上に及び、またその明るさは銀河に含まれる星の3分の1以上が流れ出たことを示していました。
 超淡銀河“F8D1”の明るさや中心座標を調べるために、研究チームはハワイ州マウナケア山に設置された天文台“カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡(Canada-France-Hawaii Telescope:CFHT)”の“MegaCam”カメラによる観測も行っている。
研究チームの推測は、超淡銀河“F8D1”が巨大な渦巻銀河“M81”の近くを通過した際に強い潮汐力を受けた結果、このような姿になったというもの。
“F8D1”とその巨大な“恒星ストリーム”は、過去数十億年の間に起こった銀河間の重力相互作用が、銀河の性質を大きく変えてしまった一つの例と言えます。

超淡銀河は、生まれながらにして淡く広がっていたのでしょうか?
それとも、銀河の成長過程でこのような姿になったのでしょうか?

この問いに対して、超淡銀河“F8D1”の“恒星ストリーム”の発見は、超淡銀河の起源について、その答えを明確に示す初めての例になりました。

今後、重要になってくるのは、他の超淡銀河にも同様の尻尾のような構造が存在するのかを調べることになります。

今回見つかったような潮汐力による“恒星ストリーム”は、一般的には銀河を中心に対象となる両側の位置に見られます。

ただ、“F8D1”は探査領域の端に位置しているので、片側の構造しか確認されていないんですねー

研究チームは、今後も“HSC”での観測を続ける予定で、今回見つけたものとは対象となるストリームがどのようになっているのかを調べていくそうです。

さらに、超広視野多天体分光器“プライム・フォーカス・スペクトログラフ(Prime Focus Spectrograph:PFS)”などを用いて運動の情報を調べることで、超淡銀河の詳しい性質や銀河群の力学進化にさらに迫ることができると期待されています。

今回の研究により、“M81銀河群”の力学進化が、これまで考えられていた以上に複雑であることが分かりました。

“M81”のような巨大銀河は“F8D1”のような小さな銀河がいくつも合体することで、大きく成長してきたと考えられています。
そう、“F8D1”から多くの星々が流れ出ている様子は、“M81”が成長するまさにその瞬間を見ているとも言えますね。


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