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将来、強力な磁場を持つ天体“マグネター”になるかもしれない恒星を発見! ウォルト・ライエ星の一種と言える新たなタイプ

2023年10月20日 | 宇宙 space
今回の研究で取り上げているのは、きわめて強力な磁場を持つ中性子星の一種“マグネター”。
将来、このマグネターになる可能性がある恒星を発見したとする研究成果が発表されました。
この研究は、アムステル大学の天文学者Tomer Shenarさんを中心とする研究チームが進めています。
将来マグネターになる可能性が指摘された恒星“HD 45166”のイメージ図。“HD 45166”は実際には連星で、左の背景には伴星が小さく描かれている。(Credit: ESO/L. Calçada)
将来マグネターになる可能性が指摘された恒星“HD 45166”のイメージ図。“HD 45166”は実際には連星で、左の背景には伴星が小さく描かれている。(Credit: ESO/L. Calçada)

中性子星の中でも特に強力な磁場を持つ天体“マグネター”

太陽よりも数十倍重い星が一生の最期を迎えると超新星爆発を起こし、その爆発の中心部には極めて高密度な天体“中性子星”(※1)が形成されることがあります。
※1.中性子星は、太陽の10~30倍程度の恒星が、一生の最期に大爆発した後に残される宇宙で最も高密度な天体。主に中性子からなる天体で、ブラックホールと異なり半径10キロ程度の表面が存在し、そこに地球の約50万倍の質量が詰まっていている。一般に強い磁場を持つものが多い。
中性子星は、密度が地球の数100兆倍、磁場が地球の約1兆倍もある天体。
多くが超高速で自転していて、地球から観測すると非常に短い周期で明滅する規則的な信号がとらえられるので、パルサーとも呼ばれています。

その中性子星の中でも特に強力な磁場を持つものが“マグネター”(※2)と呼ばれています。
※2.マグネター(磁石星)は中性子星の一種で、10秒程度の自転周期を持つ、主にX線で輝く天体。
100億テスラ以上の超強磁場を持つと推定されていて、磁気エネルギーを開放することで輝くと考えられている。
マグネターは、強力な磁場が高速の自転によってねじれることで、X線から電波まで幅広い領域の電磁波を放出しているので、宇宙で最も活動的な天体の一つといえます。
電磁波のエネルギーの違いは、マグネターの周辺で起こっている活動の違いによるものとみられています。

ヘリウムが豊富で太陽の数倍重い恒星

今回、研究チームがマグネターの前駆天体(ある天体や現象の元になる天体)となる可能性を指摘したのは、“いっかくじゅう座”の方向約3000光年彼方に位置する連星“HD 45166”を成す1つの恒星でした。
(以下、この単一の恒星を“HD 45166”と表記する。)

アメリカ科学財団(NSF)の国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)やヨーロッパ南天天文台(ESO)によると、“HD 45166”はウォルフ・ライエ星(※3)としての特徴をいくつか有しているものの、そのスペクトル(電磁波の波長ごとの強さ)には独特の特徴があり、ヘリウムが豊富で太陽の数倍重いこと以上の性質は、これまで分かっていませんでした。
※3.ウォルフ・ライエ星は大質量星が進化した姿で、外層から恒星風として大量の水素を放出して失い、高温の内層がむき出しになっていると考えられている。
過去にヘリウムを豊富に含む同様の恒星を研究したことがあったShenarさんは、“HD 45166”に関する文献に目を通していた時、この星の性質を磁場で説明できるかもしれないことに気づきます。

研究チームは、アメリカ・ハワイ州マウナケア山に設置された天文台“カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡(Canada-France-Hawaii Telescope:CFHT)”の分光偏光計“ESPaDOnS”による観測を2022年2月に実施。
さらに、ラ・シヤ天文台のMPG/ESO 2.2メートル望遠鏡の分光計“FEROS”で、これまでに取得されていた観測データも用いて分析を行っています。

その結果判明したのは、“HD 45166”の質量がこれまでの推定よりも軽く(太陽の約2倍)、磁場の強さは4万3000ガウスに達すること。
ヨーロッパ南天天文台によると、質量がチャンドラセカール限界質量(※4)を上回る星で検出された磁場としては、最も強力な天体になるそうです。
※4.大質量星の鉄でできた中心核(コア)や白色矮星の質量が“太陽質量の約1.4倍(チャンドラセカール限界)”を上回ると、自重を支えられなくなって収縮し暴走的な核融合反応が起こって爆発。その後に中性子星やブラックホールが形成されると考えられている。
そこで、研究チームが考えたのは、“HD 45166”は他のヘリウム星(ヘリウムが豊富で水素が乏しい星)とは異なり、単一の大質量星が赤色巨星を経て進化したのではなく、一対の中質量星が合体してできた星ではないかということでした。
研究成果をもとに描かれた“HD 45166”の将来を示した図。上段:現在の“HD 45166”(左)とその伴星(左)。中段:数百万年後に“HD 45166”は超新星爆発を起こす。下段:“HD 45166”の中心核から約100兆ガウスの磁場を持つマグネターが誕生する。(Credit: NOIRLab/AURA/NSF/P. Marenfeld/M. Zamani)
研究成果をもとに描かれた“HD 45166”の将来を示した図。上段:現在の“HD 45166”(左)とその伴星(左)。中段:数百万年後に“HD 45166”は超新星爆発を起こす。下段:“HD 45166”の中心核から約100兆ガウスの磁場を持つマグネターが誕生する。(Credit: NOIRLab/AURA/NSF/P. Marenfeld/M. Zamani)
また、研究チームは“HD 45166”の将来も予測しています。

この予測によると、“HD 45166”は今から数百万年後に非常に明るく、でもそれほど激しくはない超新星爆発を起こして恒星としての寿命を終えます。

この時、収縮する“HD 45166”の中心核が星の磁力線をとらえて集中させることで、約100兆ガウスの磁場を持つ中性子星が誕生するとみられています。

つまり、研究チームの計算が正しければ、“HD 45166”はマグネターを生み出す可能性があるというわけです。

今回の成果について研究チームは、ウォルト・ライエ星の一種と言える新たなタイプの天体“Massive Magnetic Helium Star(仮訳:大質量強磁場ヘリウム星)”が発見されたことを示すものとしています。

マグネターは希少でミステリアスな天体です。
今回、後にマグネターになる星を研究チームが見つけたことで、その形成についての理解が深まりました。

未解明の部分も多いマグネターの性質を理解する上で重要な成果と言えますね。


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地球中心部で崩壊した重い“WIMP”は見つからず… 重力を介してのみ間接的に存在を知ることができる“暗黒物質”の有力候補

2023年10月19日 | 素粒子
宇宙には、光などの電磁波では観測することができず、重力を介してのみ間接的に存在を知ることができる“暗黒物質(ダークマター)”が、普通の物質よりも多く存在することが分かってきています。

暗黒物質の正体は現在でも不明なんですが、未知の素粒子や、それらの素粒子が結合してできた複合粒子が有力な候補の1つとして長年考えられてきました。

今回の研究では、暗黒物質の正体として有力視されている“WIMP”(※)が、地球中心部で崩壊した兆候がないかを探索するため、南極大陸に設置されたニュートリノ観測所“IceCube”のデータを分析しています。

その結果、陽子の約1000倍の質量を持つ重い“WIMP”は存在しない可能性がかなり高いことが明らかになったそうです。
※ “WIMP(Weakly interacting massive particles)”は、日本語にすれば“弱く相互作用する大質量粒子”の意味。“WIMP”そのものの正体も正確にはよくわかっておらず、単一の素粒子、複数の素粒子の混合状態、複合粒子など様々な説が唱えられている。仮に“WIMP”が存在した場合、現在理論的に予測されていない素粒子でできている可能性が高いので、素粒子物理学の理論を書き換える必要がある。
ニュートリノ観測所“IceCube”は、南極点にほど近いアムンゼン・スコット基地の地下に建造されている。(Credit: Josh Veitch-Michaelis, IceCube/NSF)
ニュートリノ観測所“IceCube”は、南極点にほど近いアムンゼン・スコット基地の地下に建造されている。(Credit: Josh Veitch-Michaelis, IceCube/NSF)

暗黒物質の有力候補“WIMP”は地球中心部に溜まっている?

宇宙は正体不明の“ダークマター(26.8%)”と“ダークエネルギー(68.3%)”で満たされていて、身近な物質である“バリオン(陽子や中性子などの粒子で構成された普通の物質)”は、宇宙の中にわずか4.9%しか存在しないことが分かってきています。

暗黒物質が発見されるきっかけになったのは、銀河の回転速度にありました。

銀河内を公転している星々は、遠心力と重力が釣り合っているから飛び出すことなく公転できています。
でも、実際の観測結果をもとに銀河の質量と回転速度を算出してみると、銀河を構成する星々やガスなどの総質量だけでは釣り合いが取れないほどの速度で回転していることが分かってきます。

そこで、銀河を構成する星がバラバラにならず形をとどめている原因を、光をはじめとする電磁波と相互作用せず直接観測することができない物質の重力効果に求めたのが“ダークマター説”の始まりになっています。

この暗黒物質の正体を探ることは、天文学における最大の課題の1つになっているんですねー

暗黒物質の正体は、観測困難だけど普通の物質だという説から、全く未知の物理学的現象だとする説まであり、多くのことが予測されています。

その中でも可能性が高いと考えられている説の1つに“WIMP”があります。

“WIMP”は、普通の物質とはほとんど相互作用しないので、電磁波で直接観測するのは困難になります。

一方、“WIMP”はかなり重たいことから、重力を介して固まった状態で存在しているという暗黒物質の観測結果を説明することができます。
“WIMP”の崩壊によってニュートリノが放出される過程の簡単な説明。実際の崩壊ではさらに多くの粒子が放出される。(Credit: 彩恵りり)
“WIMP”の崩壊によってニュートリノが放出される過程の簡単な説明。実際の崩壊ではさらに多くの粒子が放出される。(Credit: 彩恵りり)
“WIMP”の直接観測は、非常に困難だと考えられています。
でも、“WIMP”同士が衝突して崩壊すると多数の粒子が放出されると予測されているので、間接的な方法での観測は可能だとも考えられています。

この間接的な方法での観測の機会は、意外にも私たちの足元にあるようです。

それは、地球のような密度の高い天体を“WIMP”が通過すると、速度が低下して地球の中心部に蓄積し、“WIMP”同士の衝突・崩壊(対消滅)が起きやすいと考えられているからです。

ニュートリノ観測所“IceCube”で“WIMP”の崩壊を探索

南極点のアムンゼン・スコット基地の地下に建造された“IceCube”は、体積3立方メートルにもなる南極の氷床そのものをニュートリノをとらえる“的(まと)”として使用する、世界最大のニュートリノ観測装置です。

“WIMP”同士の衝突による崩壊は多数の粒子を生じさせます。
でも、これらの粒子も重いのですぐに崩壊し、最終的にはニュートリノが発生すると予測されています。

この現象が実際に起こっている場合、“IceCube”は地球中心部からの過剰なニュートリノを観測することができるはずです。

ただ、ニュートリノは“WIMP”の崩壊以外にも、宇宙線、太陽、地球の岩石などといったものからも発生するので、それらとの区別が必要でした。

そこで、今回の研究では、“IceCube”で研究を行っている国際研究チーム“IceCubeコラボレーション”に所属するGiovanni RenziさんとJuan A. Aguilarさんが、“IceCube”で観測された過去10年分のデータを分析。
“WIMP”の崩壊によるニュートリノがあるのかどうかを調べています。

その結果、“IceCube”では“WIMP”に由来するとみられる過剰なニュートリノの痕跡は見つからず…
“IceCube”の性能を考えると、質量が100GeV(約10のマイナス33乗㎏、陽子の質量の約100倍)よりも大きい“WIMP”は存在しない可能性が高いことを意味していました。

これは、“WIMP”崩壊の観測を試みている他の実験結果とも一致していて、かなり重い“WIMP”の存在を除外しています。

残念ながら、今回の“WIMP”検出は失敗に終わりました。
でも、“IceCube”は今後アップデートが予定されていて、観測可能なニュートリノの範囲が広がる予定です。
アップデート後は、さらに軽い“WIMP”の観測ができるようになるので、検出される可能性はまだ残されています。

仮に“WIMP”が検出されなかったとしても、謎が多い暗黒物質の正体を絞り込むことに繋がるので、見つからないという事実もまた重要なデータになるはずですよ。


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最短12年で建設可能! 費用は東京都が負担した東京オリンピック並み! 遠心力で人工重力を生み出せる“小惑星宇宙ステーション”

2023年10月18日 | 宇宙 space
宇宙空間で長期的な住環境を提供する“宇宙ステーション”は、地球外の探査や開発を行う上で重要な中継基地になる可能性を秘めています。

その宇宙ステーションの建設場所として検討されている選択肢の1つに、太陽系内に無数に存在する“小惑星”があります。

ただ、回転による遠心力で人工的に重力を生み出せるほど巨大な宇宙ステーションを小惑星に建設するとなると、必要になる資源も膨大なものになってしまい、遠い未来の話と思われてきました。

でも、ロックウェル・コリンズ社の元技術フェローだったDavid W. Jensenさんは、現在の技術レベルと比較的安価な資金で建設可能な回転式小惑星ステーションの建設方法を提示し、プレプリントをarXivに投稿したそうです。
小惑星を中心にしたトーラス型の宇宙ステーションのイメージ図。(Credit: David W. Jensen)
小惑星を中心にしたトーラス型の宇宙ステーションのイメージ図。(Credit: David W. Jensen)

小惑星は宇宙ステーションの建設に向いている

宇宙ステーションという単語からは、国際宇宙ステーション(ISS)のような宇宙空間に存在する建造物を連想する人が多いと思います。

あるいは、現在検討されている月面基地のように、比較的大きな天体の表面に建設される構造物や、さらには軌道エレベーターのような巨大構造物を想像する人もいるかもしれません。

でも、太陽系に無数に存在する“小惑星”もまた、宇宙ステーションを建設する場所として注目されてきました。

小惑星は地球や月と比べはるかに小さいので、事実上重力を無視できます。

小惑星の中には地球にかなり接近し、相対速度が小さくなるものも多数あるので、到達するのに必要な推進剤(燃料と酸化剤)の量が少なくて済むこと。
また、小惑星そのものを原料にしてステーションの建材を作ることも可能なので、地球から供給する物資の量は最小限で済みます。

さらに、遠心力で人工的な重力を生み出すための回転力を、小惑星の自転から得るなど、他の形式のステーションでは達成することが困難な利点もあります。

ただ、建設には膨大な資源が必要になると予想されているので、実際に建設可能かどうかはあまり検討がされず…
これまで小惑星での宇宙ステーション建設は、ほとんどSFの中での話のように見なされていました。

でも、今回の研究で示されているのは、現在の技術レベルであってもそこまで達成困難な目標ではないことでした。

小惑星の候補と宇宙ステーションの構造

この研究では、“リュウグウ”や“ベンヌ”など、いくつかの小惑星を建設場所の候補として示し、その中の最良の候補として163693番小惑星“アティア(Atira)”を提案しています。

アティラは、本体が直径約4.8キロの小惑星で、直径約1キロの衛星を持っています。

地球とほぼ同じ軌道を公転しているので、ステーションの内部温度を維持するうえで有利だと期待されてます。
トーラス型ステーションの内部構造。底を多重構造にすることで居住可能な面積を増やしている。(Credit: David W. Jensen)
トーラス型ステーションの内部構造。底を多重構造にすることで居住可能な面積を増やしている。(Credit: David W. Jensen)
次の提案はステーション全体の構造についてでした。
それは、アティラを中心としたトーラス型(ドーナツ型)の居住区を配置し、アティラと居住区の間をいくつかの柱で結ぶ構造でした。

この自転車の車輪とスポークのような形状は、居住区の面積を増やすために多層構造を採用すること、微小隕石や放射線のような脅威から内部を守ること、回転による遠心力で人工重力を生み出した時に利用しやすいことを考慮した結果、辿り着いた形状でした。
ただ、適切な人工重力を生み出すには、アティラの自転速度を変更する必要があります。

では、このようなステーションを建設する人手はどのように確保するのでしょうか?

これについては、自己複製型のクモ型ロボットが建設の役割を担うと想定しています。

アティラの資源を利用することで、クモ型ロボットはステーション本体の建材になる無水ガラスをはじめ、岩石粉砕機や太陽光パネル、そして自身の複製といった高度な物品を作成することが想定されています。

あらかじめ用意しておく必要があるのは、その場で作成することができない電子機器などの最先端技術による部品のみで、他の追加物資は不要になるそうです。

建設コストは高額ながらも非現実的ではない

それでは、これらを実行するには、どれくらいのコストが必要になるのでしょうか。

研究では、アティラに最初に送り込むステーションの“種”と言えるカプセルの重量を約8.6トンと計算しています。

そのカプセルに搭載されるのは、4台のクモ型ロボット、最低限の基礎、クモ型ロボットの自己複製に必要な3000台分の電子機器など。

この“種”は、スペースX社が現在運用している“ファルコンヘビー”ロケットにも搭載可能な重量。
理論的には、“種”以外の物資を追加供給する必要はないそうです。

気になるのは、小惑星でステーション本体の建設に必要な時間ですよね。
これは、最短だと12年と計算されています。

ただ、これは本体の建設に要する期間。
酸素や水といった人間の生存に必要な物資の供給までは含んでいません。

この小惑星ステーション建設プロジェクトにかかる総費用の試算は41億ドル(約6000億円)。
途方もなく高額な費用に感じますが、アポロ計画の総費用が930億ドル(約13兆5000億円)だったことを考えれば、決して高額だとは言えません。

これに近い額としては、2020年東京オリンピックで東京都が負担した額(約6300億円)や、大型ハドロン衝突型加速器の建設費(約5000億円)などがあります。

何もない場所から合計10億平方メートル(札幌市や広島市とほぼ同じ面積)、1平方メートル当たりわずか4.1ドル(約600円)のコストで、新たな居住区を創造できることを考えたら、この小惑星ステーションの建設費用は何人かの億万長者にとって現実的な投資額になりそうです。

小惑星ステーションの建設計画は本当に実行可能なのでしょうか。
仮に実行に移せたとしても、どの程度オリジナルと同じ設計になるのでしょうか。
まだまだ分からないことはたくさんあります。

でも、今回示されたプレプリントは、SFに出てきそうな巨大ステーションの建設が、現状の技術レベルでも達成可能なものであることを示そうとしている点で、興味深いものと言えますね。


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太陽系外縁部に未発見の第9惑星“プラネットX”は存在する!? 数値シミュレーションによる太陽系外縁天体の特性から分かったこと

2023年10月17日 | 太陽系・小惑星
現在、太陽系で確認されている惑星の数は8つあります。

その中で太陽から最も遠い海王星(第8惑星)の外側、太陽から数百天文単位離れたところには、未発見の惑星が存在するのではないかと考えられています。

その理由は、一部の太陽系外縁天体に見られる極端に偏った軌道にあります。
この偏った軌道が、未知の“第9惑星”の重力的な影響により、似た軌道に押しやられた結果だと考えられているんですねー

今回、近畿大学が発表したのは、数値シミュレーションを用いて、海王星以遠の4つに大別できる“太陽系外縁天体(trans-Neptunian objects ; TNO)”の特性を再現することに成功したことでした。

これにより、太陽系外縁部に未発見の第9惑星“プラネットX”が存在する可能性を示しています。
この研究成果は、近畿大学 総合社会学部 総合社会学科社会・マスメディア系専攻のソフィア・リカフィカ・パトリック准教授、国立天文台 天文シミュレーションプロジェクトの伊藤孝士講師らの共同研究チームによるものです。
太陽系外縁部に存在する可能性がある“プラネットX”のイメージ図。地球の約1.5倍~約3倍の質量となる可能性が導き出された。これは地球ほどからスーパーアースの天体になる。(Credit: Fernando Peña D'Andrea(出所:NEWSCAST Webサイト))
太陽系外縁部に存在する可能性がある“プラネットX”のイメージ図。地球の約1.5倍~約3倍の質量となる可能性が導き出された。これは地球ほどからスーパーアースの天体になる。(Credit: Fernando Peña D'Andrea(出所:NEWSCAST Webサイト))

軌道の偏りがある太陽系外縁天体

太陽から約30天文単位(au)離れた海王星軌道のさらに外側、約50au(約75億キロ)以遠に位置する太陽系外縁天体の中には、最も影響力のある海王星など、4つの巨大惑星だけでは説明できない軌道の偏りがあるものが観測されています。
1天文単位は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当する。
その偏りを説明できる仮説の1つとして、カイパーベルト領域に未知の第9惑星“プラネットX”が存在していて、重力的な影響を与えているというものがあります。

太陽系外縁天体は、以下のような4つに大別できる特性を持つ可能性が指摘されています。

  1. 海王星との平均運動共鳴に捕獲された、始原的であり安定した共鳴太陽系外縁天体の集団。

  2. 海王星の重力の影響が及ばない位置に軌道を持ち、近日点距離が40auを超える離脱太陽系外縁天体の集団。

  3. 45度以上の高い軌道傾斜角を持つ太陽系外縁天体の集団。地球などの惑星の公転面は太陽の赤道にほぼ沿っているが、それに対し冥王星のように斜めの軌道を持っている。

  4. 惑星候補の小惑星セドナ(近日点約76au~遠日点961au、公転周期1万1809年)のように、説明の難しい特異な軌道を持つ極端な太陽系外縁天体の集団。

“プラネットX”が遠方カイパーベルトに与える影響

でも、これまでのカイパーベルトおよび太陽系形成モデルでは、これらの特徴を一括して説明することはできませんでした。

そこで、今回の研究ではシミュレーションを用いて、“プラネットX”が遠方カイパーベルトの形成に与える影響を調査しています。

まず、太陽系形成から約46億年後の遠方カイパーベルトをシミュレーションで再現。
その結果について、太陽系外縁天体の集団の比率や、現在知られている極端な軌道を持つ太陽系外縁天体との比較を行いました。

さらに、観測結果と直接比較するために、太陽系大規模観測のシミュレータを用いて、作成されたシミュレーション結果に観測的なバイアスを与えています。

検証により実証されたのは、4つの巨大惑星のみを考慮した標準的モデルだと、離脱太陽系外縁天体高い軌道傾斜角を持つ太陽系外縁天体、そして極端な太陽系外縁天体のいずれも説明できないことでした。

でも、“プラネットX”を含むモデルを用いて、観測結果との比較を行ってみると、シミュレーションとほぼ一致することが判明するんですねー

“プラネットX”を含むモデルでは、遠方カイパーベルトの4集団を説明でき、さらに同惑星による重力的な影響が、太陽系形成以降の海王星以遠領域の軌道構造に影響を与えてきたことも示唆されました。
遠方に存在するカイパーベルトの軌道構造(上からの様子)。“プラネットX”が存在する場合は、離脱太陽系外縁天体(青い軌道)、高い軌道傾斜角を持つ太陽系外縁天体(緑の軌道)、極端な太陽系外縁天体(黄色の軌道)を一貫して説明可能。この図で“プラネットX”は太陽から約200au~約500au程度の距離で、その軌道は地球の軌道面に対して約30度傾いていると予測される。また“プラネットX”を考慮しても、海王星との安定した共鳴にある太陽系外縁天体(白い軌道)の形成は阻害されない。(出所:NEWSCAST Webサイト)
遠方に存在するカイパーベルトの軌道構造(上からの様子)。“プラネットX”が存在する場合は、離脱太陽系外縁天体(青い軌道)、高い軌道傾斜角を持つ太陽系外縁天体(緑の軌道)、極端な太陽系外縁天体(黄色の軌道)を一貫して説明可能。この図で“プラネットX”は太陽から約200au~約500au程度の距離で、その軌道は地球の軌道面に対して約30度傾いていると予測される。また“プラネットX”を考慮しても、海王星との安定した共鳴にある太陽系外縁天体(白い軌道)の形成は阻害されない。(出所:NEWSCAST Webサイト)

太陽系外縁天体を説明するために必要となる“プラネットX”の性質

そして、太陽系外縁天体を説明するために必要となる“プラネットX”の性質が分析され、以下の特徴が導き出されています。

  1. 遠方のカイパーベルトに数十億年安定して存在する共鳴太陽系外縁天体を説明するため、約200au以遠に位置する必要がある。

  2. 離脱太陽系外縁天体を説明するため、距離約200au~約300au、約200au~約500au、約200au~約800auのいずれかの離心軌道で進化する必要がある。

  3. 高い軌道傾斜角を持つ太陽系外縁天体を説明するため、質量が地球の約1.5倍を超え、軌道が約30度傾いている必要がある。

  4. セドナを含む、極端な太陽系外縁天体を説明するため、上記の性質を持つ地球的な惑星が必要である。

このような“プラネットX”があれば、太陽系内を逆行する軌道を持つ太陽系外縁天体や、彗星の源となるような遠方で高い軌道傾斜角を持つ天体も説明が可能になるようです。

このことから、地球の約1.5倍~約3倍の質量を持ち、太陽から約200au~約500auまたは約200au~約800au以内に位置し、約30度の軌道傾斜角を持つ“プラネットX”があれば、太陽系外縁天体の4集団について説明できることが明らかになりました。

また、“プラネットX”による重力的な影響は、海王星による重力散乱を強く受ける太陽系外縁天体のように、50auを超えた距離にある他の天体の形成を阻害しないことから、今回作成されたモデルは遠方のカイパーベルトの分布を説明でき、現代の観測結果と矛盾するものではないことも確認されました。

今回の研究成果は、近日点距離が大きい、もしくは大きな軌道傾斜角を持つ未知の太陽系外縁天体集団が、約100auを超える領域に存在し得ることも示唆していることにあります。

こうした太陽系外縁天体集団は、“プラネットX”の存在を観測的に検証する際の指標となり得ます。

今後、研究チームでは“プラネットX”や未知の太陽系外縁天体の集団などの軌道構造を、より詳細に明らかにしていくそうです。
これにより、太陽系外縁部での惑星の形成や太陽系全体の進化についても、より深い理解が得られることが期待されますね。
遠方に存在するカイパーベルトの軌道構造(横からの様子)。(出所:NEWSCAST Webサイト)
遠方に存在するカイパーベルトの軌道構造(横からの様子)。(出所:NEWSCAST Webサイト)


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温暖化がもたらす気候変動を緩和できる? 地球と太陽の間に日傘を設置し日光の入射量を減らす“ソーラーシールド”には小惑星が必要

2023年10月16日 | 宇宙 space
私たちは真夏など日差しの強い日に、暑さや日焼けを気にして、日傘をさして日光を遮ろうとしますよね。

今回の研究は、宇宙空間に“日傘”を設置して、地球に入射する太陽光の量を減らそうというもの。
ハワイ大学天文学研究所の天文学者István Szapudiさんが、日傘をさして歩くハワイの人たちの様子を見て思いついたアイデアです。

地球も日傘をさすことで、温暖化がもたらす気候変動を緩和できるのかもしれません。
小惑星につながれた“シールド”のイメージ図。(Credit: Brooks Bays/UH Institute for Astronomy)
小惑星につながれた“シールド”のイメージ図。(Credit: Brooks Bays/UH Institute for Astronomy)

地球と太陽の間に配置する構造物

日射による暑さから身を守る最も単純な方法が日傘をさすことであるように、地球の気温を下げる最も単純な方法は、地球と太陽の間に構造物を配置して、入射する太陽光の量を少しでも減らすことです。

このアイデアは“ソーラーシールド”と呼ばれ、過去にも提案されたことがありました。

でも、単純な方法が簡単な方法とは限らないんですねー

重力の釣り合いを考慮しつつ太陽の放射圧に飛ばされないシールドを作ろうとすると、構造物は相当な重量になってしまうことに…
シールドの材料は地球からロケットで打ち上げて運ばないといけないので、たとえ最も軽い素材で作ったとしても、とてつもないコストがかかってしまいます。

小惑星を捕獲してカウンターウェイトとして利用する

今回、Szapudiさんが提案した新たなアイデアは、2つの点で独創的と言えるものでした。

1つ目は、巨大で重いシールドを作る代わりに“カウンターウェイト(釣り合いを取るための重り)”をシールドにつなぎとめる方法を採用していること。
この方法を用いることで、シールド全体の重量は、これまでの想定と比べて100分の1以下に抑えることができます。

2つ目は、カウンターウェイトに小惑星を使用すること。
小惑星を捕獲してシールドと接続することで、その分だけ地球から材料を打ち上げる必要がなくなります。
また、小惑星の代わりに月のレゴリス(月面を覆う砂やチリ)を使うことも考えられています。
太陽に向けて設置された“シールド”のイメージ図。(Credit: István Szapudi/UH Institute for Astronomy)
太陽に向けて設置された“シールド”のイメージ図。(Credit: István Szapudi/UH Institute for Astronomy)
Szapudiさんによると、シールドとカウンターウェイトからなる“繫留式シールド”の総重量は、約350万トンに達するんですねー

ただ、その99%はカウンターウェイトとして使用される小惑星(または月のレゴリス)の重量になります。

なので、シールド本体の重量は、残りの1%に相当する約3万5000トン。
地球から打ち上げる必要があるのは、この部分だけということになります。
より軽い新素材を使えば、この重量をさらに減らすこともできます。

そう、この新たなアイデアだと、他の設計と比べても迅速かつ低コストで済むことになります。

とはいえ、現在の最大クラスのロケットを使っても、地球低軌道へ打ち上げることができるのは1回当たり50トン程度に過ぎません。

これまでの設計よりも軽いとはいえ、現在の打ち上げ技術からすればソーラーシールドの建設は挑戦的なプロジェクトになり、このアイデアが実現するには、まだまだ時間を要することになります。

でも、以前のアイデアがほとんど実現不可能だったのに対し、今回のアイデアはシールドの設計を現在の技術でも実現可能な領域に持ち込んだと言えます。

ただ、その実現にはシールドとカウンターウェイトを繋ぐ軽量かつ強靭なグラフェン(※)を用いたテザー(つなぎ綱)の開発が極めて重要になるようです。
炭素原子が1原子の厚さで結合した、ハチの巣のような六角刑格子構造のシート状の物質。



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