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6億画素カメラで“ダークマター”や“ダークエネルギー”の謎の解明を目指す近赤外線宇宙望遠鏡“ユークリッド”が姿勢制御の問題を解決

2023年10月15日 | ダークマターとダークエネルギー
ヨーロッパ宇宙機関の近赤外線宇宙望遠鏡“ユークリッド”が、10月5日にガイド星を再発見し、姿勢制御の問題を解決したことが発表されました。

“ユークリッド”が目指しているのは、正体不明だけど宇宙の組成の95%を占めている暗黒物質(ダークマター)と暗黒エネルギー(ダークエネルギー)の謎の解明。
100億光年先までに存在する数十億の銀河を観測し、その観測データからは正確な3次元地図が作られます。

この地図を手掛かりに、宇宙の構造に大きく影響してきたダークマターやダークエネルギーへの理解を深めていくことになります。
このためには精密な観測が不可欠でした。
ヨーロッパ宇宙機関の近赤外線宇宙望遠鏡“ユークリッド”のイメージ図。(Credit: ESA)
ヨーロッパ宇宙機関の近赤外線宇宙望遠鏡“ユークリッド”のイメージ図。(Credit: ESA)

望遠鏡を正確な位置に固定できない問題が発生

2023年7月1日に打ち上げられた“ユークリッド”は、観測場所である太陽-地球系の第2ラグランジュ点(L2)に7月28日に到着。
L2点は、地球から見て太陽の反対側、約150万キロ離れたところにあり、打ち上げ後の“ユークリッド”は約4週間かけてL2点に移動していました。

“ユークリッド”は、機器をチェックしどのように微調整を行うかを確認するための画像の撮影には成功していました。

ただ、太陽の高活動期に放出される陽子(プロトン)が“ユークリッド”の“ファイン・ガイダンス・センサー(Fine Guidance Sensor)”に衝突。
センサーが誤って、これを実際の星と解釈してしまう問題が発生していました。

この問題により“ユークリッド”は、ガイド星を正確に識別できず… 望遠鏡を正確な位置に固定できなくなってしまいます。
これにより、観測データに“ループ状”の星の軌跡が現れるなど、一部のテスト結果に影響を与えていました。

ヨーロッパ宇宙機関のチームは、この問題を解決するためにソフトウェアパッチを開発し“ユークリッド”に送信。
このパッチは、まず地球上での“ユークリッド”の電子モデルとシミュレーターでテストされ、次に軌道上で10日間テストされていました。

この結果、“ユークリッド”の“ファイン・ガイダンス・センサー”はガイド星を再び識別できるようになり、8月に中断されていた性能検証フェーズが再開されることになります。

このフェーズは11月下旬まで続く予定で、その後に正式な科学観測が開始されます。

“ユークリッド”のミッションは、正体不明だけど宇宙の組成の95%を占めている暗黒物質(ダークマター)と暗黒エネルギー(ダークエネルギー)の謎を解明すること。

“ユークリッド”は、10億年以上にわたる宇宙の歴史を観測し、ダークマターの正確な3次元地図を作成。
この地図を手掛かりに、宇宙の構造に大きく影響してきた暗黒物質や暗黒エネルギーへの理解を深めていくことになります。


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超新星の光度と輝線として見える元素には関係性がある? プロ・アマ連携で分かった明るい重力崩壊型超新星を取り巻くガスは元素が豊富

2023年10月14日 | 宇宙 space
日本のアマチュア天文家の松垣公一さんが5月に発見した超新星“SN 2023ixf”。
この超新星“SN 2023ixf”が21世紀以降で最も明るい“重力崩壊型超新星爆発”だったことが追観測によって分かってきました。

この成果は鹿児島大学とアマチュア天文家の連携によるもの。
追観測では、星の極近傍を取り巻いている“星周ガス”の存在や成分も明らかになったようです。
この成果は、鹿児島大学大学院 理工学研究科の山中雅之特任助教たちの研究チームによるものです。

超新星爆発で観測される輝線

超新星爆発の分光観測によって、近年スペクトルに水素などの元素の強い輝線という、予想外の発見があり注目されています。
スペクトルは、光の波長ごとの強度分布。スペクトルに現れる吸収線や輝線を合わせた呼称がスペクトル線。
個々の元素は決まった波長の光を吸収したり放出したりする性質がある。その波長での光を吸収し強度が弱まると吸収線、光を放出し強まると輝線としてスペクトルに現れる。光の波長ごとの強度分布スペクトルに現れる吸収線や輝線を調べることで、元素の種類を直接特定することができる。
このことが意味するのは、星の極近傍を取り巻いている“星周ガス”が存在すること。
この星周ガスは、星が爆発直前に活動的になった結果、ガスを噴出することで形成されたと考えられています。

その後も、いくつかの超新星爆発において輝線が観測されるのですが、まだサンプル数が乏しいので、星周ガスの詳細は依然として理解が進んでいない状況でした。

特に、星周ガスの組成には多様性が認められるのか、どのような超新星がどのような星周ガスを持つのか、などの点が未解明になっています。

もし、ガス組成と超新星の性質の関係性を明らかにすることができれば、爆発直前の星の進化過程を理解する手助けになると期待されています。

渦巻銀河“M101”で発見された超新星

問題は、輝線は一般的に爆発後の2~3日程度の間でしか観測できないこと。
なので、超新星爆発の発見後に速やかに分光観測を行う必要があります。

でも、超新星の大半は遠方に位置しているので、見た目の明るさはとても暗く、口径2~8メートルの大型望遠鏡が使われるケースがほとんどでした。
これらの望遠鏡は、すばる望遠鏡などのように研究用で、台数も少なく観測時間も確保しにくいんですねー

そのため、個人でも所有できるような、より小さな望遠鏡でも観測可能な地球近傍の明るい超新星の出現が待ち望まれていました。

そうした中、2023年5月19日に発表されたのが、日本のアマチュア天文家の板垣公一さんによって発見された超新星“SN 2023ixf”のニュース。
“SN 2023ixf”は、太陽系から約2100万光年と比較的近くにある渦巻銀河“M101”で発見された超新星でした。

発見時に14.9等だったこの超新星は増光を続け、5月24日には10.8等にまで到達。
これほど明るくなる超新星はとても希少なので、研究チームを含め、プロ・アマ問わず世界中で数多くの追観測が実施されています。
鹿児島大学の入来観測所に設置されている1メートル望遠鏡に搭載された近赤外線3色同時撮像装置“kSIRIUS”を用いて撮影された“SN 2023ixf”の近赤外線データ。左から順に、それぞれ1.2、1.6、2.2マイクロメートルを中心としたフィルターバンドにて撮影されている。任意の色が付けられていて、実際の色ではない。(Credit: 鹿児島大学)
鹿児島大学の入来観測所に設置されている1メートル望遠鏡に搭載された近赤外線3色同時撮像装置“kSIRIUS”を用いて撮影された“SN 2023ixf”の近赤外線データ。左から順に、それぞれ1.2、1.6、2.2マイクロメートルを中心としたフィルターバンドにて撮影されている。任意の色が付けられていて、実際の色ではない。(Credit: 鹿児島大学)
追観測を行ったアマチュア天文家の1人が、今回の研究チームの一員である藤井貢さんでした。

40センチ望遠鏡に搭載した自作の分光器で取得したスペクトルは精度がとても高いもので、十分に天文学的な研究調査が可能なレベル。
取得したスペクトルには、強い輝線とともに青い連続光と呼ばれる特徴が見られ、初期段階の重力崩壊型超新星に合致していました。

この特徴は、“SN 2023ixf”が21世紀以降で、見かけの上では最も明るい重力崩壊型超新星であることを意味していました。

藤井さんは、その後も観測を続け、推定爆発日から8日間で合計4本ものスペクトルの取得に成功しています。
“kSIRIUS”で撮影された“SN 2023ixf”の1.2、1.6、2.2マイクロメートルの撮影データを合成した画像。あくまで近赤外線の波長域であり、実際には人の目には見えない。(Credit: 鹿児島大学)
“kSIRIUS”で撮影された“SN 2023ixf”の1.2、1.6、2.2マイクロメートルの撮影データを合成した画像。あくまで近赤外線の波長域であり、実際には人の目には見えない。(Credit: 鹿児島大学)

超新星の光度と輝線として見える元素との関係性

今回の研究では、そのスペクトルを用いて水素の輝線が調査されています。

その結果分かってきたのは、水素の輝線は2つの成分に分けられること。
それぞれ、超新星そのものの膨張ガスと取り巻いていた星周ガスに対応していました。

さらに判明したのは、スペクトルには水素だけでなく、ヘリウムや炭素、窒素などの輝線が存在すること。
これは、星周ガスには窒素などの元素が豊富に含まれていることを意味していました。

一方で、これまでの星周ガスを持つ超新星のサンプルを集めた比較検討では、特に炭素と窒素をスペクトルに示さない超新星に比べ、窒素などを豊富に有している可能性が示唆されています。

過去の超新星において、炭素と窒素が示された例はわずかですが3例あり、それらは重力崩壊型超新星の中でも比較的高い光度を持つものでした。

研究チームでは、今回の超新星が発見された翌晩から、鹿児島大学で運用している入来観測所の1メートル望遠鏡を使って近赤外線観測を実施しています。

その結果確認されたのが、近赤外線波長域においては絶対等級が-18等程度だということ。
このことから今回の超新星も、重力崩壊型超新星の中では高い光度を持つことが確かめられています。

今回の研究によって、超新星の光度と輝線として見える元素には、関係性がある可能性が示唆されたと言えます。

理論的には、高い光度を持つ超新星は、親星の初期質量が大きいことも予測されます。

今後、期待されるのは、星の質量と星周ガスの元素との関係性に焦点を当てた理論研究が進むこと。
また、この超新星は8月上旬の段階で12等台と見かけの等級で明るい状態を保っているので、可視光線や近赤外線を中心として様々な研究が実施されることが期待されています。


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【 打ち上げ成功!】 原始惑星のコアだったかも? 金属が豊富な小惑星を目指すNASAの探査機“サイキ”は10月13日以降の打ち上げへ

2023年10月13日 | 太陽系・小惑星
2023年10月18日更新
小惑星“プシケ(16 Psyche)”を目指すNASAの探査機“サイキ(Psyche)”の打ち上げが迫ってきました。

直近の打ち上げ予定は2023年の10月5日でしたが、窒素コールドガススラスターの問題に対処するため、打ち上げは延期。
スラスターを温度制限内で運転することは、ユニットの長期的な健全性を確保するために不可欠だったため、この問題への対処が行われています。

探査機“サイキ”の打ち上げに利用するスペースX社のファルコンヘビーロケットは、静止燃焼テストを完了。
この打ち上げは、ファルコンヘビーロケットにとって8回目のミッションになります。

探査機“サイキ”は、アメリカ・フロリダ州にあるケネディ宇宙センターから、10月12日以降に打ち上げられる予定です。
NASAの小惑星探査ミッション“Psyche(サイキ)”の探査機を搭載したスーペースX社のファルコンヘビーロケット。ケネディ宇宙センター39A射場にて2023年10月11日に撮影。(Credit: NASA/Aubrey Gemignani)
NASAの小惑星探査ミッション“Psyche(サイキ)”の探査機を搭載したスーペースX社のファルコンヘビーロケット。ケネディ宇宙センター39A射場にて2023年10月11日に撮影。(Credit: NASA/Aubrey Gemignani)

打ち上げ目標を10月13日夜に延期

日本時間2023年10月12日夜に予定されていた小惑星探査ミッション“Psyche(サイキ)”の探査機打ち上げが、1日延期されたことをNASAが発表しました。

直近の打ち上げ目標は、日本時間の2023年10月12日23時16分(アメリカ東部夏時間同日10時16分)でした。

悪天候が予想されることから1日延期。
新たな打ち上げ目標は、日本時間の2023年10月13日23時19分(アメリカ東部夏時間同日10時19分)になっています。

NASAでは、英語の解説付きライブ中継を日本時間同日22時30分からYouTube公式チャンネル、SNS、NASA公式アプリなどで配信するそうですよ。
▼“Psyche(サイキ)”ミッション打ち上げライブ配信URL(YouTube)。
https://www.youtube.com/watch?v=npIDMxrzm_o
スペースX社は、日本時間の2023年10月13日23時19分(アメリカ東部夏時間同日10時19分)にファルコンヘビーロケットの打ち上げを実施。
搭載されていた探査機“サイキ(Psyche)”が、ロケットから正常に分離されたことで打ち上げは成功しています。
“Psyche(サイキ)”ミッションの打ち上げライブ配信(YouTube)。(Credit: NASA)

“Psyche”の日本語表記について、小惑星はラテン語の読み方の“プシケ”、NASAのミッションおよび探査機は英語の読み方の“サイキ”を用いています。

図1.小惑星“プシケ”を観測する探査機“サイキ”のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech/Arizona State Univ./Space Systems Loral/Peter Rubin)
図1.小惑星“プシケ”を観測する探査機“サイキ”のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech/Arizona State Univ./Space Systems Loral/Peter Rubin)

原始惑星のコアだった可能性がある小惑星

小惑星“プシケ”が位置しているのは火星と木星の間に広がる小惑星帯で、太陽~地球間の3倍ほど離れた軌道を公転しています。

ジャガイモのような不規則な形をしていて、幅は最大で280キロほど。
おそらく岩石と金属が混合してできていて、金属が体積の30~60%を占めると見られています。
小惑星“16 Psyche(プシケ)”は、鉄やニッケルといった金属を豊富に含む“M型小惑星”に分類されている。
小惑星“プシケ”に含まれる金属は、地球上では1,000京ドル(約14垓円)の価値があると考えられています。
世界経済全体よりも大きいと試算されている“プシケ”の経済価値ですが、探査機“サイキ”の目的は小惑星の探査。
磁力計やガンマ線・中性子分光計、多波長イメージャなどを用いて、小惑星の組成や統制を詳しく調査することにあります。
図2.小惑星“プシケ”のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU)
図2.小惑星“プシケ”のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU)
このような金属が豊富な小惑星を目指すミッションは史上初めてのこと。

地球などの岩石惑星は、かつて微惑星が衝突・合体をして形成されたと考えられています。

小惑星“プシケ”は、微惑星の外層が衝突によって剥ぎ取られて核が露出したもの、あるいは核の一部である可能性があると考えられています。

岩石惑星の核は、天体の中心部にあるので直接観測することはできません。

小惑星“プシケ”を探査することで、岩石惑星の核がどのように形成されたのかについて、新たな知見が得られるはず…
一方、“プシケ”が微惑星の核ではない場合、これまで誰も見たことのない、非常に珍しい種類の原始の太陽系天体であることが判明するかもしれません。

約6年間をかけて小惑星“プシケ”へ

10月12日だと、打ち上げは23時16分(日本時間)に実施されます。

何らかの理由でその時刻に打ち上げができないと、打ち上げは翌日以降に持ち越されることになります。
打ち上げ可能な期間は10月25日までありますが、打ち上げ時刻は30分程度しか変わりません。

打ち上げ後の探査機“サイキ”は約6年間をかけて小惑星“プシケ”へ。
小惑星“プシケ”に到着するのは2029年8月の予定になっています。

その間、2026年5月に火星フライバイを実施。
火星への最接近時に探査機“サイキ”は、火星上空3000~4400キロを飛行するそうです。
探査機が、惑星の近傍を通過するとき、その惑星の重力や公転運動量などを利用して、速度や方向を変える飛行方式。燃料を消費せずに軌道変更と加速や減速が行える。積極的に軌道や速度を変更する場合をスイングバイ、観測に重点が置かれる場合をフライバイと言い、使い分けている。
特徴的なのは、“サイキ”がソーラーパネルから得た電力を用いて推進する“太陽電気推進”を採用する点です。
これは、搭載するキセノンガスを電気でイオン化してスラスターから噴射する方式。
得られる推力は弱いものの、少ないガス搭載量で長期間のミッションが可能になります。

さらに、“深宇宙光通信(Deep Space Optical Communications; DSOC)”の技術実証も予定。
このデモは、打ち上げから約3週間後、探査機が地球から約700万キロ離れた時点で実施され、光レーザーを用いて深宇宙との広帯域データ通信を実証します。
この技術が実用化できれば、深宇宙探査において得られるデータ量が格段に増す可能性があります。

観測は異なる高度の4つの軌道から

小惑星“プシケ”に到着後の探査機“サイキ”は、少なくとも26か月間“プシケ”を周回する予定です。
図3.小惑星“プシケ”に到着後の探査機“サイキ”の軌道。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
図3.小惑星“プシケ”に到着後の探査機“サイキ”の軌道。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
“サイキ”は、異なる高度の4つの軌道から小惑星の観測を行います。(図3)

4つの軌道は高度の高い順にAからDまでのアルファベットが付けられていますが、必ずしもアルファベット順にミッションが進行するわけではありません。

現段階で想定されているのは、A→B1→D→C→B2の順。
軌道A(ORBIT A)は709キロの距離を32.6時間で1周し、56日間で41周することになります。

軌道B(ORBIT B)は303キロの軌道を11.6時間で周回。
軌道B1では92日間で190周、軌道B2では100日間で206周する予定です。

軌道C(ORBIT C)は190キロの高度を7.2時間で周回し、100日間で333周。

軌道D(ORBIT D)は小惑星に最も接近し、高度は75キロで3.6時間で1周します。
100日間で666周することになっています。

“ディスカバリー計画”14番目のミッションとして2017年に選定された小惑星探査ミッション“サイキ”。

ディスカバリーと言えば、1992年に当時のNASA長官が提唱した、「より速く、より良く、より安く」のスローガンを体現する計画。
過去のディスカバリー計画の探査ミッションには、小惑星“ベスタ”と準惑星“ケレス”を探査した“ドーン”、太陽系外惑星探査を行う“ケプラー”、彗星を探査した“メッセンジャー”などがあります。

そう、低コストのミッションなのに高パフォーマンス!
どれも素晴らしい結果を残しているんですねー

なので、このミッションも原始惑星やそのコアについて新たな知見を与えてくれるはずですよ。


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宇宙は膨張し続ける? それとも収縮に転じる? 宇宙論パラメータがより正確に決まると、どういった終焉を迎えるのかが分かるようです

2023年10月12日 | 宇宙 space
国立天文台は、天文シミュレーションプロジェクトが運用する中規模サーバを用いて、宇宙の膨張を支配する“宇宙論パラメータ”の精度を向上させることに成功したことを8月22日に発表しました。

減らせた宇宙論パラメータの不定性は最大35%。
より正確な宇宙論パラメータが決まると、分かってくるのが宇宙がどのようにして現在の姿に成長し、将来どのように進化するのかということ。
宇宙の膨張は続くのか? それとも収縮に転じるのか? っといった謎に迫ることができると期待されています。
この研究成果は、国立天文台のマリア・G・ダイノッティ助教、同・岩崎一成助教たちの国際研究チームによるものです。

宇宙のものさし“標準光源”を利用した距離の測定

宇宙が膨張していることは十分に立証されています。

でも、宇宙が膨張する速度を正確に測定することは容易ではなく、宇宙の膨張によって地球から遠ざかっている銀河の後退速度を正確に測定するには、まずその銀河までの正確な距離を知る必要があります。

宇宙において天体までの距離を測定する場合、太陽系の周囲の星など、天の川銀河系内のそれも極めて近傍の宇宙であれば、地球が太陽の周囲を公転していることを利用した三角測量で正確に算出することができます。

ただ、三角測量が適用できるのは比較的近距離まで…
なので、天の川銀河外、それも宇宙膨張で後退するような距離にある銀河になってくると、正確に距離を測るのが難しくなってくるんですねー

では、そうした遠方の銀河までの距離は、どうやって測っているのでしょうか?

現在の天文学では、白色矮星が起こす爆発現象“Ia型超新星”など、標準光源と呼ばれるいくつかの種類の天体(天文現象)を利用して距離が見積もられています。
“クエーサー”、“ガンマ線バースト”なども標準光源として利用されている。
その仕組みは、標準光源の天体は絶対光度(真の明るさ)が分かっていて、また宇宙のどこであってもほぼ同じ明るさで輝くことから、遠方であればあるほど暗いということが成り立つことにあります。

つまり、見かけの明るさが真の明るさよりもどれだけ暗いかによって、距離の計算が可能というわけです。
今回の研究の概念図。超新星(右)、クエーサー(左)、ガンマ線バースト(中央)といった、地球で観測される様々な標準光源を使って、宇宙論パラメータを推定することができる(背景下は天の川銀河を示す)。(Credit: 国立天文台)
今回の研究の概念図。超新星(右)、クエーサー(左)、ガンマ線バースト(中央)といった、地球で観測される様々な標準光源を使って、宇宙論パラメータを推定することができる(背景下は天の川銀河を示す)。(Credit: 国立天文台)

宇宙論パラメータがより正確に決まると宇宙の将来が明らかになる

そこで、今回の研究では、超新星やクエーサー、ガンマ線バーストといった、標準光源になる天体(天文現象)のデータを解析するため、様々な新しい統計的手法を活用することで、新たな研究分野を開拓。
データ解析は、国立天文台 天文シミュレーションプロジェクトが運用する中規模サーバを用い、国立天文台の岩崎一成助教の協力の下で行われています。

データの分析で有効だったのは、距離が異なるいくつかの範囲では、それぞれ異なる標準光源を用いること。
複数の標準光源を組み合わせることで、宇宙のより広い範囲にわたる天体のデータを使い、宇宙論パラメータを絞り込むことに成功しています。

これにより、主要な宇宙論パラメータの不定性を最大で35%減らすことができたそうです。

現在、宇宙の膨張は加速し続けていることが分かっています。

もし、このまま宇宙の膨張の加速が続いた場合には、最終的には人や星はもちろん、原子すらも引き裂かれてしまうビッグリップで終焉を迎える可能性があります。

また、加速が止まって一定速度で膨張していくのであれば、最終的には全宇宙が冷え切ってしまうビッグフリーズ(ビッグチルとも言う)を迎え。
膨張速度が減速してゼロになり重力が打ち勝って収縮に転じた場合には、ビッグバンの逆をたどって全てが1点に集中するビッグクランチを迎えることになります。

さて、この中のどの方法で宇宙は終焉を迎えるのでしょうか?
宇宙論パラメータが、より正確に決まれば宇宙の将来を明らかにしてくれるようですよ。


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初期の宇宙に存在する重元素に乏しい銀河を観測して分かってきた! ニュートリノの方が反ニュートリノよりも多く生成された可能性

2023年10月11日 | 宇宙 space
私たちが住む宇宙は“物質”に満ちていて、一部の性質が反転している“反物質”はほとんど存在していません。
ただ、現在の理論や実験では、物質と反物質が常に同じ量だけ生成されることが分かっています。

物質と反物質は出会うと消滅してしまうので、それぞれが同じ量だけ生成された宇宙は空っぽになってしまうはず…
でも、物質に満たされた現在の宇宙の姿は、宇宙誕生時に物質と反物質が生成されたプロセスの中で、物質の方が10億分の1だけ多く作られたことを示しているんですねー

わずかな差ですが、なぜこのようなことが起こったのでしょうか?
このことは物理学における大きな謎になっています。

この謎を解明するのに必要になるのが、物質と反物質の性質の違いを示す具体的なデータを組み合わせること。
このための観測や実験が進められています。

陽子と中性子の入れ替わり

今回の研究では、ハワイのマウナケア山に設置された“すばる望遠鏡”の観測データから、物質と反物質の違いに関連する結果を得ることに成功しています。
図1.すばる望遠鏡の外観。(Credit: すばる望遠鏡)
図1.すばる望遠鏡の外観。(Credit: すばる望遠鏡)
誕生直後の宇宙では、水素が約75%、ヘリウムが約25%、そしてその他の原子核が1%未満、それぞれ合成されたと考えられています。

水素の原子核は陽子のみでできています。
一方、ヘリウムの原子核は陽子と中性子の両方が必要になります。

そして、宇宙のある時代では、中性子に“ニュートリノ”、陽子に“反ニュートリノ”が衝突することで、陽子と中性子がお互いに入れ替わっていたとされています。
図2.誕生直後の宇宙で起きた、ニュートリノによる陽子と中性子の入れ替わり。ニュートリノと反ニュートリノでは反応が異なるので、生成数が反応の違いに影響することになる。(Credit: 彩恵りり)
図2.誕生直後の宇宙で起きた、ニュートリノによる陽子と中性子の入れ替わり。ニュートリノと反ニュートリノでは反応が異なるので、生成数が反応の違いに影響することになる。(Credit: 彩恵りり)
陽子と中性子が互いに入れ替わるプロセスは、宇宙が膨張して温度が下がることで停止。
すると、原子核を構成しなかった中性子は、すぐに崩壊してしまうので、初期の宇宙における中性子は事実上ヘリウム原子核の形でのみ存在することになります。

つまり、この時代にどの程度の中性子が作られるかによって、中性子を必要とするヘリウム原子核がどの程度生成されるのかが決定します。

ニュートリノと反ニュートリノは物質と反物質の関係にあるので、本来であれば同じ数だけ生成されるはずです。
でも、もしも物質と反物質の生成プロセスにわずかでも違いがあれば、ニュートリノの方が反ニュートリノよりもわずかに多く生成されるはずです。

この差は陽子と中性子の入れ替わりが起こる反応の発生頻度を左右するので、最終的には中性子の生成数やヘリウム原子核の生成数にも関わっていきます。
この研究を進めているのは、カリフォルニア大学アーバイン校のAnne-Katherine BurnsさんとTim M. P. Taitさん、そしてニューヨーク州立大学ストーニーブルック校のMauro Valliさんたちの研究チームです。

初期の宇宙ではニュートリノが反ニュートリノよりも多く生成されていた

今回の研究では、初期の宇宙に存在する重い元素に乏しい銀河10個を観測して、ヘリウムの正確な存在量を測定しています。

これは、このような銀河は宇宙誕生時に生成された水素とヘリウムの量を反映していると考えられるからです。

観測データと理論を比較することで、ニュートリノと反ニュートリノが同じ数だけ生成されたのか、それとも異なる数だったのかが分かるはずです。

測定の結果判明したのは、10個の銀河におけるヘリウムの存在比が23.37~24.04%だということ。
これは理論的に示されたヘリウムの存在比と一致していて、ニュートリノの生成数が反ニュートリノの生成数よりも多くないと説明のつかない数値でした。

このことから、初期の宇宙ではニュートリノが反ニュートリノよりも多く生成された可能性が高いことが判明しました。

この結果だけでは、宇宙が物質に満ちている理由を解明することはできませんが、今後の研究を進めていくうえで重要なものだと言えます。

ニュートリノは原子を構成する素粒子である“電子”と仲間の関係(レプトン)にあります。

ニュートリノが反ニュートリノと比べて多く生成されたということは、原子の重要な構成要素である電子もまた、その反物質である陽電子よりも多く生成された可能性があるからです。

今回の研究結果は、宇宙では物質が反物質よりも多いという謎について、ニュートリノに限らず多くの素粒子の研究に対して影響する可能性がありますね。


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