徒然地獄編集日記OVER DRIVE

起こることはすべて起こる。/ただし、かならずしも発生順に起こるとは限らない。(ダグラス・アダムス『ほとんど無害』)

今更ながら<持たざるもの>

2008-04-22 10:13:05 | Books
「戦争」とか「丸山眞男」とか「ポスト団塊世代(バブル世代)」とか、極めてスキャンダラスで挑発的なキイワードで戦線を拡大した挙句、逃げ道をいくつも張り巡らせ、結局真意を隠したまま、自称<持たざるもの>が<持つもの>を釣りに釣りまくった、<「丸山眞男」をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争。>。3、4年前に「下流」の自己責任論で(おそらく)散々ストレス解消したくせにそりゃないよ。著者は幸い自著本も出たことだし、ひとまず目的は達成したんだろう(版元は予想通りアレだけれども)。もはやひとつの新書ジャンルである玉石混合の「フリーター論」「若者論」への宣戦布告。
しかし、そんなものはすでに20年前にヒロトが歌っている。
悩ましいのは<持たざるもの>が、本当に<何を持ちたいのか>わかってないことなのだとオモ。

ロックンロールはますます困難になっているけれど、言論というのはさすがに開かれてますね。

嗚呼、寿司喰いたい。

怖い話三題/Living In A Perfect World

2008-04-22 03:59:36 | Documentary
ナショナル・ジオグラフィックチャンネルでドキュメント3本。
「凶悪犯罪組織アーリアン・ブラザーフッド」(原題:Aryan Brotherhood)
<アーリアン・ブラザーフット>は刑務所内で結成され、塀の外にも勢力を伸ばしているという極悪秘密結社。つまりアメリカのリアル牢名主である。もうそのまんま『アメリカンヒストリーⅩ』の世界ともいえる。
60年代の公民権運動を背景に刑務所内で台頭してきた黒人、メキシカンに対抗するために結成された白人組織で、収監された服役囚どころか看守まで刃物で刺し殺すという何でもありの世界。そんな恐怖でがんじがらめの鉄の組織も、中興の祖であるマイケル・トンプソン氏の離反で、組織の変質が明らかになっていく(離反の理由が意外とベタだったりして)。そして今やトンプソン氏は組織から最高レベルで命を狙われる危険人物。と、ここまでで彼らが極悪非道なのは十分わかるのだけれども、共謀共同正犯と目される最高幹部2名への捜査官の追及、その描写がちと中途半端で喰い足りない。対立しているはずの黒人、メキシカン視点も、なぜかばっさり切ってしまっているのがもったいない。
<コカインよりも安価でしかも効き目は3倍以上。しかも自分で作れてしまう>という、メタンフェタミン(クリスタル、アイス、ティナ、クランク)の危険性を描く「世界で最も危険な麻薬(原題:World's Most Dangerous Drug)」。これ、使用前・使用後の顔写真が特殊メイクみたいで怖すぎる。以上2本は、そのまんま「まる見え」で放送されてもおかしくない内容。

そして、「完全自然主義に生きる人々(原題:No Borders: Living In A Perfect World)」
一組のオールドファッションな夫婦を乗せた馬車が、土ぼこりをあげながら舗装されていない道路を走る。口から出るのは生活の愚痴ばかり。しかしこの生活からは逃れられない。
これは重い。タイトルだけ見るとヒッピーのコミューンのような印象を受けるけれども、これは世俗的な発展を一切望まず、聖書の記述に対して忠実に生きる、メキシコの砂漠に住むキリスト教メノナイト派教会員たちの物語。ということで、タイトルはやはり<Living In A Perfect World>が正しい。彼らは<Perfect World>を求めるために、長い間迫害を受け、旅してきた人々なのだ。そして<完璧な世界>で生きるために<電話、車、ラジオ、テレビ、音楽など現代文化を一切拒否し電気さえも使わない>。そういう世俗から取り残された<Perfect World>の最大の問題は、やはり、というか案の定、貧困である。しかし貧困を解消し、生活に潤いを与えるであろう電化には、教会の長老たちが反対している。

それでも彼らは、神の教えの通り日曜日は絶対に働かない(働けない)。働かなくて何をしているのかというと、何をしていいのかわからない。だから子どもたちまで何をしていいのかわからなくて日常的に酒を飲む(らしい)。
ある者は世俗の世界に惹かれながらも、貧しいながらも平穏なコミューンの生活を望み、ある者はコミューンを捨てて家族と共にボリビアで新たな生活を始める。そしてまたある者は着慣れたオーバーオールを脱ぎ捨てて、<ちょっとだけの自由>を求めてコミューンを離れる。
どの道を選ぶにしても、とても彼らの行く末が平坦なものだとは思えない。
ニューシネマの世界を思わせる淡々とした描写が心に響く。

<何をしていいかわからない>ような住民を生み、育ててしまう絶対的な(教会の)力は、アーリアン・ブラザーフットやメタンフェタミンのように怖い。<Perfect World>というのは実に恐ろしい世界である。
確かに<Perfect World>はひとりひとりの心の中にあるだろう。また、それを他人に迫る人間はどこにでもいるものだけれどね。