さすらうキャベツの見聞記

Dear my friends, I'm fine. How are you today?

√ (ルート)

2017-01-19 22:35:41 | Wednesday 芸術・スポーツ

『彼のことを、私と息子は博士(はかせ)と呼んだ。

 そして博士は息子を、ルートと呼んだ。息子の頭のてっぺんが、ルート記号のように平(たい)らだったからだ。



 「おお、なかなかこれは、賢い心が詰まっていそうだ」




 髪(かみ)がくしゃくしゃになるのも構(かま)わず頭を撫(な)で回してから、博士は言った。

 友だちにからかわれるのを嫌がり、いつも帽子を被(かぶ)っていた息子は、

警戒(けいかい)して 首をすくめた。


 
「これを使えば、無限の数字にも、目に見えない数字にも、

  ちゃんとした身分を与えることができる」



 彼は埃(ほこり)の積もった仕事机の隅(すみ)に、人差し指で


                        その形を


書いた。    












(小川洋子著「博士の愛した数式」から

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220 と 284

2017-01-19 22:35:39 | Wednesday 文化

「君の誕生日は二月二十日。220、実にチャーミングな数字だ。

 そしてこれを見てほしい。……

  ・
  ・
  ・

「歴代284番めの栄誉(えいよ)、ということでしょうか」

「恐らくそうなんだろう。問題なのは284だ。

 さあ、皿なんか洗っている場合じゃない。220284なんだよ」


 博士は私のエプロンを引っ張り、食卓に座らせると、

背広の内ポケットから4Bのちびた鉛筆を取り出し、折り込み広告の裏に二つの数字を書いた。



(小川洋子著「博士の愛した数式」、新潮文庫、P.28から


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220 と 284 の 絆

2017-01-19 22:35:36 | Wednesday 芸術・スポーツ
 間違っていないかどうか、三回繰り返して確かめた。

いつしか日が暮れ、夜が訪れようとしていた。

時折(ときおり)流しで、洗いかけの食器から滴(したた)り落ちる水の音が聞こえた。博士は傍(かたわ)らでじっと私を見守っていた。

「はい、できました」


 220 : 1101120224455110284

 220142711 : 284


「正解だ。

 見てご覧(らん)、この素晴らしい一続きの数字の連なりを。

 220の約数の和は284。

 284の約数の和は220。



 
友愛数だ。滅多(めった)に存在しない組合わせだよ。





 フェルマーだってデカルトだって、一組ずつしか見つけられなかった。

 
神の計らいを受けた絆(きずな)で結ばれ合った数字なんだ。







美しいと思わないかい?









 (小川洋子著「博士の愛した数式」、新潮文庫、P.32から)

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