ETV特集『昭和天皇が語る 開戦への道』を見ました。
最近いろんな「〇周年」の話を書いてきましたが、今年は太平洋戦争開戦80周年でもあったんですね。それにあわせてということか、2週にわたって開戦への経緯をたどる番組となっていました。もっとも、私がみたのは後編のみで、しかも途中からだったんですが……
だいぶ前に同じくETV特集で『昭和天皇は何を語ったのか~初公開“拝謁記”に迫る~』という番組がありましたが、今回の番組はそのときの再現ドラマなども使われていました。そこに加えて、今年公開された百武三郎侍従長の日記という新資料をもとに、日米開戦にいたる過程を描いています。
南部仏印進駐、三国同盟、ハル・ノート……
真珠湾攻撃への道筋をみていると、あらためて、安全保障ということについて考えさせられます。
防衛費の増加や日米安保、敵基地先制攻撃論などといったことが近頃ホットな話題ですが、果たしてそれらが本当に国家の安全保障に資するのかという問いです。
太平洋戦争の歴史を教訓とするならば、答えは否定的なものにならざるをえません。
多いときには国家予算の8割を軍事費に注ぎ込み、ブイブイいわせている国と軍事同盟を結び、敵基地を先制攻撃し……それでも日本は戦争に負けて焼け野原となりました。そういったことは、安全の保障にはならない、まあ、控えめにいっても、確実な手段とは言えないのです。
では、もっとよい安全保障とはなにか。
そのこたえも、今回の番組にあったと思います。
番組の中で、昭和天皇が全体主義政治について語っている場面がありました。
ドイツやイタリアのような全体主義国家はものごとを早く進められる、一方で、民主主義、自由主義のやり方ではなかなか物事を進められない、これは難しい問題だ――といったようなことを昭和天皇が語っています。
なるほど、その時点では難しい問題に見えたかもしれません。
しかし、それから80年が経ったいま、もはやこれは難しい問題ではありません。答えははっきりしています。ドイツもイタリアもソ連も、全体主義国家はボロボロになって崩壊しました。全体主義はダメなのです。全体主義は、国民を幸福にしないし、国家の安全も保障できない。国家の安全を保障したければ、国が全体主義化することはなんとしても阻止しなければならないのです。
その点で、番組の最後に紹介されていた昭和天皇と田島道治(初代宮内庁長官)の対話は重要です。
全体主義化は、その兆候がみえたときに、芽のうちに摘み取っておかなければならない。そうしないと、勢いが勢いを作り出し、その勢いに流されてとんでもない方向に進んでいってしまう……
真珠湾攻撃という「敵基地先制攻撃」から80年を経たいま、その歴史が与える教訓をかみしめたいところです。