川は溢れ、山は崩れ落ちる。
惨事は毎年のように、各地で繰り返し起きている。
九州でもすでに熊本、大分、福岡各県などに大きな被害をもたらし、
なお予断を許さない状況だ。
いったん降れば信じられないくらいの豪雨となる。
しかも線状降水帯とか言って、次々と雨雲を発生させ、長く降り続く。
こうした現象は地球環境が悪化していることを示すものなのか。
そう考えれば、少なからず〝人災〟との思いも湧き出てくる。
今、コンクリートと鉄筋で建てられたマンションに住んでいる。
でも、生まれ育ったのは木造住宅だ。
70も過ぎた高齢者は、ほとんどがそうではなかったろうか。
柱も天井も床も……木に囲まれて、触れて暮らしてきた。
よく「木の温もり」なんて言うが、それに包まれて大きくなった。
日本は先進国の中でフィンランドに次ぐ世界第2位の森林大国だ。
国土面積の約66%が森林だから、少々オーバーな言い方をすると、
国民は常に森林と背を接するようにして生きているのだと言えよう。
そして、この森林は災害防止に大きな働きをしてくれる。
よく、「森林は緑のダム」と言われる。森林の土は、スポンジのように
すき間がたくさんあり、そのすき間に雨水を蓄え、川へゆっくり送り出す。
それにより大雨が降っても洪水になりにくくしているのだ。
また、樹木の枝葉や地表を覆う植物は地表面の浸食を防ぐし、
根がしっかり土をつかまえているため、山崩れ(土砂崩れ)を防ぐ効果がある。
もう1つ加えると、光合成により二酸化炭素を吸収し、
酸素を放出するから地球温暖化防止の効果も大きいとされる。
こう見ただけで、森林が災害防止にいかに大きな役目を担っているか分かる。
ところが、その森林がピンチなのだ。
森林は大きくには天然林と人工林に分けられるが、
面積は天然林がやや広い。ただ、その比率は年を追って減少、
つまり人工林の比率が高くなってきているのだ。
人工林は下刈りや間伐などで定期的な手入れが必要なのだが、
その人手不足が深刻化している。
原因は林業生産額が減少一途になっていることだ。
林業の採算性が悪化すると若者の林業離れが起きるし、
一方で就業者の高齢化が一段と進む。
その結果、人工林を手入れする人手が不足することになる。
手入れが滞ると地表に日光が届かず、
したがって草木の根が張らず土がやせていく。
森林の役目を果たせなくなるのだ。
木に育まれ、世界に誇る木造建築物の数々を生み出し、
それを〝文化〟ともしてきた日本が、
森林にしっぺ返しされているような気がしてならない。