見上げれば夏
日本で、臓器の移植を希望している人は約1万4000人いるのに対し、
実際に移植を受けられる人はわずか2%程度だという。
それほどドナー(臓器提供者)が少ないわけだ。
もう20年ほども前になろうか。同じ会社で経理を担当していた
女性社員の一人息子が白血病を患った。
この病気の最も有効な治療法とされているのが骨髄移植だ。
だが、あいにく移植しても大丈夫な適合者は親族縁者には誰もいなかった。
それで適合するドナーが現れるのを待つしかなかったのだが、
ついには適合者が見つからず、20歳という若さで亡くなってしまった。
重い病気や事故などにより臓器の機能が低下した人を、
他者の健康な臓器によって機能回復させて救う臓器移植。
医学の進歩によって、その範囲は心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、
小腸、眼球といったものにまで及んでいる。
ただ、これはあくまで第三者の善意頼み。
臓器の提供がなければ成り立たない話なのだ。
臓器移植を望む患者、それに善意で応えようとするドナー。
現実は圧倒的にドナーの数が少ないのである。
西日本新聞の、20日付け朝刊を手に取り、ページをめくっていたら
「人体ビジネス」という見出しが飛び込んできて、一瞬、身が引けた。
1面全部を使い中国における臓器売買の実態をレポートしたものだった。
臓器移植は人の善意頼みゆえに、健康な臓器を求めながらも、
猶予の小さな患者が多数いるのは中国、あるいは他の国とて同じ。
そうした現状を突き、たちまち法をかいくぐる者たちが跋扈し始めるのだ。
臓器売買である。
もともと臓器売買は中国や東南アジアの貧困地域で横行していたものだが、
最近中国において、再び活発化しているというのだ。
その原因がコロナウィルスで、感染拡大により経済活動は低下、
多くの人が失職し、それらの人たちが自分の臓器を売って暮らしを
維持しようとしている。そういった内容のレポートである。
いろんな臓器、血液、あるいは卵子を売り、
さらには代理出産までして糊口をしのいでいるのだそうだ。
何とも言葉に詰まる話である。
中国と同列に語るほどではないと思うが、日本にその例がないかと言えば、
過去あったのは事実だし、あるいは現在も闇ビジネスとして
秘かに行われているかもしれない、とも言われる。
やはり、それも背景に貧困があるようで、決して胸を張れるものではない。
8月1日から1年間の「後期高齢者医療被保険者証」が送ってきた。
その中に日本臓器移植ネットワークによる、
死後(脳死後あるいは心臓停止後)臓器を提供する
意思があるかどうかを尋ねるカードが同封してあった。
もちろん、これは自由意思なのだが、家族の思いも考慮せざるを得ない。
難しい判断をいつも迫られている。