俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

済し崩し

2013-12-28 10:22:31 | Weblog
 日本では済し崩しで改められることが多い。誤った主張をしていた人が徐々に少数派になりいつの間にか情勢が変わってしまう。
 消毒にその実例が見られる。私が子供の頃、怪我の消毒にヨードチンキ(通称「ヨーチン」)がよく使われていた。この薬はゴボゴボと泡を立てて猛烈に沁みる。「沁みるのは悪い黴菌を殺している証拠」と教えられたものだが、徐々に赤チンなどの沁みない消毒薬に変えられた。昨今では傷を消毒しないことが主流になっている。この経緯を庶民は知らされていない。消毒が実は有害だったことは知らされないまま済し崩しに変更された。
 乳癌の乳房温存療法も済し崩しに進められている。切除とどちらが有効なのかは議論されずにまるでファッションのように変わる。
 憲法9条も条文に対する議論を放棄して解釈の変更という形で済し崩しで見直されつつある。
 済し崩しで進めることは対立を生まないという利点もあるがこれは諸刃の剣だ。改善が済し崩しに行われるように改悪も済し崩しに行われる恐れがあるからだ。
 国内問題なら済し崩しでも解決できるかも知れないが外交問題はそうではない。利害が対立する関係国が猛烈に反対するからだ。日米地位協定にせよ領土問題にせよ靖国神社や従軍慰安婦問題にせよ、1歩も前に進まないのは先送りを続けて済し崩しによって解決しようとしているからではないだろうか。
 拉致被害者の一部が帰国できたのは当時の政府が毅然たる態度を取ったからであり、その後は済し崩しを狙って放置されている。たとえ一時的に対立することになろうとも主張すべきことを主張しなければ外交問題は解決できない。先送りと済し崩しは日本人の悪癖だ。国是であれば堂々と表明して対立すべきであって、外交問題が済し崩しでは解決できないことを理解する必要がある、

クローン

2013-12-28 09:54:14 | Weblog
 クローンは分身ではない。経験も知識も違うから別人だ。もしクローンが分身であるなら一卵性双生児はお互いにとって分身の筈だがそんな意識は無いようだ。一卵性双生児が自分を犠牲にしてもう一人を救ったという話を私は知らない。類似した環境で育った一卵性双生児でさえ別人なのだから、全く違った環境で育つクローンは赤の他人だ。
 クローンは更に大きな欠陥を持つ。クローン羊のドーリーからそのことが分かる。卵子を培養して作られたドーリーは誕生の時点で既に老化していた。これは異系交配が行われていないからだ。老化した遺伝子を修復するためには他の遺伝子と再結合させてリセットする必要がある。しかしそうすれば有性生殖と同様、継承される遺伝子は1/2だけになる。つまり実子と何ら変わらないということだ。
 異系交配をしなければ40歳の人のクローンとは既に40年分老化した赤ん坊だ。だからまるでコケイン症候群(早老症)の子供のように急激に老化して死んでしまうだろう。
 あり得ない話だが、仮に転生しても無意味だ。魂が同じであろうとも経験も記憶も脳も肉体も全く異なるからだ。仏教徒が激怒しそうな例え話だが、もしゴータマ・ブッダが生まれ変わってゴキブリに転生したらどうなるだろうか。スックと立ち上がって「天上天下唯我独尊」と宣言するだろうか。それは不可能だ。ゴキブリは立ち上がれないし発声機能さえ持っていない。何よりも思考するための脳ミソが足りない。これではたとえブッダの魂を持っていようとも普通のゴキブリと全く同じだ。
 もし私の記憶を人工知能に移植できるなら、このほうがクローンや生まれ変わりよりもずっと私に近いだろう。しかしそれも私とは全く別の物だ。