前に話したが、僕は新聞配達しながら大学に通った。配達の場所は東京のど真ん中の千代田区だった。
すごいところだったので、政治家の事務所や有名人のマンションが多かった。
だから、有名人のところにも配達したし、有名人にもよく会った。
たとえば、小沢一郎の事務所にも配達していから、夕刊を配る時、小沢一郎と一緒のエレベーターによく乗り合わさせた。
彼はいつもムッとしていた。話しかけるなよといった雰囲気で。
僕も、当時は若くてとんがっていたから、政治家とか芸能人がなんだよ、くらいに思っていた。
そういう態度は良くなかったな、と今では思っている。
そんなあるとき、僕の新潟の友人が、家族を連れて遊びに来た。
奥さんとまだ小さい2人の子供だ。
僕の住んでいたところは、ビルとビルの間にある信じられないくらいのボロアパートだった。
販売所が借りてくれてたので、文句は言えない。
いや、むしろ、気に入ってたくらいだ。
今はもうない。
そのボロアパートで、下の男の子がグズって泣いていた。
それで、僕が上の女の子を連れて、千代田区の東郷公園に行った。
歩いて一分くらいのところにある公園だ。
そしたら、公園のベンチで、おしろいを塗って真っ白な格好をした人が休んでいた。
僕は女の子と手をつないで鳩を見ていた。
「鳩だよー」みたいなことを言って。
すると、おしろいを塗った人が、お菓子を投げて鳩を呼び寄せてくれた。
最初はピエロだと思った。だけど、よく顔をみると、ナイナイの岡村隆史さんだった。
当時は、日テレが千代田区にあったので、多分、めちゃイケか何かのロケがあったのだろう。
「こんにちは、撮影ですか?」と僕は言った。
「はい」と岡村さんは恥ずかしそうに答えた。テレビでの印象と違ってすごくシャイな人だった。
女の子はたくさん寄ってきた鳩を、ワーワー言って喜んでいた。
岡村さんは、優しい顔をしてそれを見ていた。
時代は、バブルがはじけ、山一證券が倒産し、一気に不景気に突入していた。
僕たちは、先の見えない不安の時代を、手探りに進んでいた。
僕はその当時、死にものぐるいで頑張っていた。
目の前の岡村さんも、ピエロのような格好をして、死にものぐるいで頑張っていた。
僕は、そこに、何か連帯意識のようなものを感じた。
疲れて休んでいるのに、子供を喜ばせてあげようとする岡村さんを、いっぺんに好きになってしまった。
彼の体から、やさしさがあふれていた。
ああいうのって、実際あってみないと雰囲気が伝わらないと思う。
ちょっと前に、風俗に関する暴言があったみたいだけど、それでも僕は彼の人間性を疑うことはできない。
彼は、やさしいがゆえに、傷つけられ、こじらせてしまったのではないかと思っている。