アメリカを代表する劇作家、アーサー・ミラーの戯曲「クルーシブル」(るつぼ)。
17世紀、マサチューセッツ州で実際に起きた魔女狩りをテーマに、
ダニエル・デイ・ルイスとウィノナ・ライダー主演で映画化もされたので、
ご記憶の方も多いかもしれません。
私にとって、学生時代に読破できた数少ない原書のひとつがこの「クルーシブル」で、
そのときの衝撃のあまり、今も本棚のすみっこに置いてあります。
ひどく感動したと記憶しているのが、
魔女裁判に巻きこまれる寡黙な農夫、ジョン・プロクターが、
嘘の署名をさせられそうになって必死に拒む場面。
なぜサインを拒むのかと裁判官に尋ねられ、
「なぜって、私の名前を守りたいからです」と繰りかえし答えるプロクター。
たしか、そんなシーンがあったんだよなぁ、と昨夜、十数年ぶりに本を手に取ったら、
青ペンで黒々と…いえ、青々と、☆印が書きこまれていました。
PROCTOR [ with a cry of his soul]
Becuause it is my name!
Because I cannnot have another in my life!
Because I lie and sign myself to lies! …
How may I live without my name?
I have given you my soul, leave me my name!
なるほど、この易しい英語だから読み通せたのだ、とも思いましたが、
この短い場面からだけでも、そのときの震えがよみがえりました。
なぜこのワンシーンを思い出したかというと、唯一、毎日みているフェイスブック、
私が愛してやまないアラスカのノースフェースロッジに、こんな記事が載っていたからです。
North face lodge and Camp Denali : http://campdenali.com/
McKinley no more:
North America's tallest peak to be renamed Denali
https://www.adn.com/article/20150830/president-obama-oks-renaming-mount-mckinley-denali
日本の方にとっては植村直己さんが遭難した山として記憶される、
北米大陸最高峰のマッキンリー(6,168m)。
そのマッキンリーが、アラスカ先住民の呼び方である「デナリ」に改称されたという記事。
なぜこれまで公式にはマッキンリーだったかというと、1896年、付近で鉱山を採掘していた男性が
当時の共和党大統領候補だったウィリアム・マッキンリー氏への支持を表明するために
マッキンリーと名付け、それが連邦政府の公式名称ともされたという、なんだか乱暴な話。
アラスカ州政府は先住民の呼び方にならって「デナリ」と改称するよう
1975年から連邦政府に働きつづけ、
40年ぶりにマッキンリーは「デナリ」と改称されることになったのだそうです。
私自身、アラスカが大好きで、これまでに4回訪ねましたが、
現地ではマッキンリーなんて言葉はほとんど目にしません。聞きもしません。
みな、この白く輝く山を、先住民アサバスカンの言葉で
「偉大なるもの」を意味するデナリと呼びます。
名前は、天与のものではなく、人があとから与えるもの。
でも、ひとたび与えられたときから、その名で呼ばれつづけることによって、
それそのものになる――。
「クルーシブル」のワンシーンとデナリ改称のニュースに、そう思ったしだい。
さて、銀のステッキではちょうど1年後の今日から出発の、
秋のデナリを訪ねる旅を予定しています。
1年半前から予約でいっぱいになるノースフェースロッジからも嬉しいメールが来ていました。
「キャンセル待ちしていた一部屋、やっと空きが出たよ。シルバーステッキで増やしとく?」
もちろん! と返信したあと、あわてて書き添えました。
「デナリに改称、おめでとう。これからは私もパンフレットに、堂々とデナリと書けます」
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