こうしてゲストハウス・ノーサイドは、お客様が旅先で家のようにくつろぎつつ、そこに集う多様なゲストと、大人同士の粋な交流もできる宿、という性格を持つようになりました。
もちろん最初からそのように意図したわけではなく、長い年月、主にご常連のお客様を中心に、お客様がそのような雰囲気を創っていって下さった、ということです。
今と比べてももっと未熟だった私達のサーヴィスに感謝とお褒めの言葉を頂くと、不思議なことに、「あの方達のためにもっと良い宿にするにはどうしたら良いか」とか「あの方達のお好みはどういうものか」とか、反省も含めいろいろなことを考えます。
ですから結果的に、お客様によって育てていただいたというのが正解なのだと思います。いつだったか近隣の美術館の方から「昨日ノーサイドさんにお泊まりのお客様がみえたけれど、素敵な人たち、いいわねああいう雰囲気のお客様がいらして」といわれて、自分たちがほめられた訳でもないのにとてもうれしく思ったことがありました。
多分その方達はどんな場所へ行っても、エレガントな雰囲気でその場を幸せにする振る舞いをし、その雰囲気が良いサーヴィスを引き出し、その場の空気をより楽しむことができるのでしょう。
そういう方達と巡り会えることが、私達にとっての糧であり、幸せでもあります。
しかし、そのときの雰囲気を必ずしも楽しめないゲストは、いろいろご不満を持たれることが多いと思われ、そこが小さな宿の難しさでもあります。今後はノーサイドのコンセプトをできるだけ正確に伝え、ご滞在を楽しんでいただけるようにしたいと思っています。
日常から脱却するため、ゲストルームにテレビや電話を置かないことにいろいろご意見もありましたが、そういう面ではテレビも電話もパーソナルになり、時代が私達を追い越していきました。
私達は時代が変わっても、変わってはいけない良い宿泊文化、つまり、個人的な好みで一方的に評価したりされたりという無機的な関係ではなく、お互いを思いやる成熟と、作法の洗練を知る大人達が楽しめる素敵な雰囲気を、少しでも残せるよう努力したいと思います。