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モルモン書の史実性について (Revised)

2007-04-16 01:03:15 | モルモン教関連


モルモン書は史実に基づく書物であるという意味で
真実であると言えるのだろうか、それともそのこと
は問わず宗教書として意義を持つ(真実である)と
言えるのだろうか。

このことについてあるメーリングリストで議論が戦
わされた。大部分の末日聖徒の参加者はモルモン書
が19世紀に創作されたフィクションであるという
見解に猛反発した。それは無理からぬことであるが、


以下、私がモルモン書は19世紀の状況を背景とした
ジョセフ・スミスによるフィクション(creation創作)
であるという考えを受け入れるに至った経緯をまとめ
てみたい。

初めは書かれているとおりのことが起こったものと
受け入れていた。研究するうちにヒュー・ニブレー
が記録の継承者は編集者、翻訳者のいずれも自己の
解釈や見解をさしはさんで務めを果たす、と書いて
いるのを読んだ。イザヤ、エレミヤの弟子、ジョセ
フ・スミスなどがそれに該当するというわけである。

ニブレーはまた、ジョセフ・スミスが金版を見ない
で翻訳していた時期があったことに触れ、彼の言う
翻訳とは今日一般にいう意味とは異なり、神の力に
より啓示として世にもたらしたのである、と述べた。


幼児のバプテスマに反対するくだりなど、私もうす
うすその気配(19世紀プロテスタント内の論争の反
映)を直観していた。モルモン書について中南米の考
古学的、言語学的証拠が得にくく、断念する末日聖徒
の学者たちが相次いでいることにも気付いていた。モ
ルモン書は宗教書として受け止めるべきである、とロ
ーエル・ベニオンもヘンリー・アイリング(現十二使
徒の父君で著名な化学者)も結論している。(末尾[補]2参照)


[地理学的にも困難がある。左は Daniel Ludlow の仮想地図。右は J.Sorenson の推測地図、クモラの位置に注意。]


[このイラストが適用できるか]


1970年代後半にモルモン書を聖書偽典視する学者たち
が教会内外に出始めた。それは聖書の本文に補充、拡
張作業を行うことでタルグーム化と呼ばれる。例、マ
タイはマルコを拡張しており、第三ニーファイは山上
の垂訓にそれを行っている。トルーマン・G・マドセ
ン編「モルモニズムの考察」(BYU出版)参照。

それからある研究誌にアンソニー・ハッチンソンが
モルモン書は霊感されたフィクションである、という
論文を掲載した。それは否定的な論調ではなくジョセ
フ・スミスを預言者の役割を果たす者として肯定的に
とらえる見解であった。

その後、モルモン史の研究が米国の学者の間で進み、
また、ジョセフ・スミスの生い立ちや青年期の心理面
から分析する研究も出るなどして、19世紀初頭の状況
とJSの人生が織り込まれているという研究が発表さ
れてこんにちにいたっている。


教会の学者たちがモルモン書の内容分析を重視しよう
とする動きが見られるのも、上のような状況の裏返し
と見ることができる。復元教会(キリストの共同体)
がモルモン書と距離を置くようになったのも同じ動き
であるものと思われる。

聖書の高等批評家ロバート・プライスは、聖書にもフ
ィクションである部分が多数見いだされ、モルモン書
だけが突出しているわけではない、人々の信仰を支え
ている点で立派な聖典である、と解説する。

モルモン書をフィクション視するのは反モルモンとみ
るのは短絡的な考え方であると言わなければならない。

「モルモン書がフィクション(創作)であることに気
付くことは、天動説が間違っていて地動説が正しいこ
とを受け入れるに至ったコペルニクス的転回に相当す
る。」(Facebook で見かけた投稿者の言葉[英文].この
項2015/01/05記入) Copernican Revolution

OR

BofMのフィクション性に気づくかどうかはldsにとって
ガリレオ的発想の転換点である(ブレント・リー・メト
カーフ, サンストーン131号 2004 Mar 参考)Galileo
Event


参考
・ヒュー・ニブレー「クモラ以後」エラ誌 ’66.9月号794-5頁
・沼野治郎「モルモン書に対する聖書学者の視点」モルモンフォ
 ーラム19号
・ダン・ヴォーゲル「ジョセフ・スミス – どのような預言者か」
Dan Vogel, “Joseph Smith: The Making of a Prophet”
Signature Books 2004
・当ブログ 
8/8/2006 フォーラム「文学としてのモルモン書」
3/1/2006 神学者が見た「聖書の読み方」
2/20/2006 DNAとモルモン書の問題
2/20/2006 この問題の持つ意味と影響
1/18/2006 預言者の役割
11/4/2007 文学としてのモルモン書
6/12/2009 モルモン書を偽典とみなした学者たち
1/4/2012 19世紀の特徴(「モルモン書をどう読むか」の2)と末尾の英文註)

[補]More Effective Apologetics, (Grant Hardy, at FairMormon 2016)
When people talk about “inspired fiction,” it’s worth thinking harder about what they might mean. Perhaps that the Book of Mormon is a product of human genius, like other literary or religious works. Or it may be the product of general revelation, in which God or some higher power makes himself known to humans, who then communicate that encounter with the Divine though various scriptures such as Buddhist sutras or the Daodejing or the Bhagavad Gita or the Qur’an. Or there may be special revelation in which God inspired Joseph to create the Book of Mormon in such a way that it exemplifies specific truths of unique importance. In any case, however, we might ask, “Can faith in the Book of Mormon as inspired fiction be a saving faith?” My answer is, “Absolutely!” I believe that if someone, at the judgment bar, were to say to God, “I couldn’t make sense of the Book of Mormon as an ancient American codex, given the available evidence, but I loved that book, I heard your voice in it, and I tried to live by its precepts as best I could,” then God will respond, “Well done, my good and faithful servant.”

[補2] 記事の3に関連して Dr. Prince goes into a few of those areas. (2018 Sunstone symposium)

1) Archaelogy.  No evidence found for BOM. Lots of evidence found that seems to disprove it.

2) Language. We can trace language evolution just like biology, and we don’t see any evidence in Native American languages of any kind of Hebrew influence.

3) DNA sequencing. DNA study of Native Americans does not support an influx of Middle Eastern DNA in the BOM time period.

4) Anachronisms.  There are many anachronisms in the book, such as the Deutero Isaiah problem or the highly developed Protestant Christology, and many of the themes are somewhat narrowly focused in Joseph Smith’s time and setting, such as the discussion of infant baptism.


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4 コメント

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モルモン書は創作? (トゥゲザー)
2007-04-11 07:54:34
今回の記事はMLでの私の発言に対してNJさん流のエールを送っていただいたものと(勝手に)解釈しております。
有難うございます。
返信する
今、関心のあること (NJWindow (掲載の動機))
2007-04-11 09:58:56
「NJ流のエール」、それもありますが、今(一部のサークルであっても)教会員に関心のあること、私が伝えたいと感じていることを随時取り上げていきたいと思っていますので、ここに書いてみました。
返信する
最近感じていたこと (小森愛一郎)
2017-10-11 07:21:35
沼野兄弟
最近、聖書やモルモン書を読んでいるとかになる記述があります。それは、登場人物の心情を述べている箇所です。誰がその心情を記録していたのだろうかと思います。
出来事だけを羅列しても、人に感動を与えることはできないので、そこには物語が必要です。聖書を書いたと言われる何人の方は小説を書くように書かれたのだろうと思います。
この記事を読んで、腑に落ちた気がします。
いつも適切な考察を与えてくださってありがとうございます。
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良いコメントをいただきました (NJ(沼野))
2017-10-11 08:56:37
小森兄弟、登場人物の心情描写について、なるほどと思います。記録の継承者、編集者が補足、解釈、説明を加えて物語(記述)を綴っていくのだと理解します。

コメントに感謝いたします。

別件ですが、可能ならば中国、台湾関連で滞在経験者や関心を寄せる会員の集まり(会合)を開催できたらという希望を持っています。
 
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