モルモン書は「社会で中枢的な権力に何のゆかりもない階層に語
りかけている。弱者をしいたげ苦しめる統治者やエリートには神
の審判が下ることを示して苦しんでいる者を元気づけている」
(pp. 90, 91)と著者は述べる。
「苦難」(affliction)というキーワードについて扱った部分で、
ゼニフの叙述には主として社会的に不利な立場に置かれる不遇や
迫害について書かれていると指摘する。(モーサヤ 13:10, 17:
17-19, アルマ25:1-12)。
また、リーハイの夢の部分で、この夢には社会的に見捨てられた
者を励ますメッセージが込められていると解説している。それは
排斥された預言者リーハイにとって重要なメッセージであるばか
りでなく、19世紀の社会的に剥奪されたモルモン書の読者層にと
っても重要なメッセージである、と見ている。(p.105)
トマスはリーハイの夢にはアメリカ黙示文学の要素が見られ、力
を誇示し高度に洗練されて見える「この世」に支配される層に、
快く響き、手に入れたいと望む果実を与える力がある、と言う。
(p.109)
モルモン書が弱者や社会的に顧みられない層に語りかける側面が
あったという視点は、初期の末日聖徒は英国の移民を含めルンペ
ン・プロレタリアート層が多くを占めていた、という研究者の見
方に呼応するところがある。(例、高山真知子「アメリカ史の謎」
1992年。井門富二夫編「多元社会の宗教集団」所収)。
いずれにしても、著者のマーク・D・トマスはモルモン書を既成
の伝統文化を拒否する反体制文化(counterculture)の文書と位置
づけている。
典拠
Mark D. Thomas, “Digging in Cumorah – Reclaiming Book of
Mormon Narratives” Signature Books, 1992
高山真知子「アメリカ史の謎 -- モルモン教における叙事詩の発
生」。井門富二夫編「多元社会の宗教集団」アメリカの宗教第二
巻, 大明堂, 1992年所収。
[付記]
マーク・D・トマスの著書と引用の説明
1. 彼の著「クモラの発掘 -- モルモン書の叙述(narrat-
ive)を分析する」は、聖書学の高等批評(higher criticism)の一
分野 文学批評(literary criticism)を適用したものであって、
様式史(form criticism)、編集史(redaction criticism)と並ぶ
批判神学の手法をモルモン書に用いた数少ない研究書である。ち
なみに聖典の本文批評(textual criticism)は下等批評(lower
criticism)と呼ばれる。
2. 著者トマスは故シカゴ大学神学部新約学教授ノーマン・
ペリンの影響を強く受けて執筆している。ペリンは「編集史とは
何か」を著し、邦訳もされている。
3. 「クモラの発掘 -- モルモン書の叙述(narrative)を分
析する」はシグナチャー出版(モルモン教会護教とは対局に位置
する媒体)が刊行しており、内容も同様と見ることができる。ト
マスはモルモン書の歴史性に固執しないリベラルな立場を取って
いる。
4. トマスは「クモラの発掘」の中で叙述や類型面からの
分析、黙示文学や物語という文学研究からモルモン書を整理して
おり、引用の「権力に縁のない階層」を対象にしていた、という
記述は同書の中に私が読み取ったもので、この点を前面に主張し
ているというわけではない。
以上、特に4の点で文脈を十分記さなかったことは私の責任であ
る。('09.4.23)
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ゼニフの叙述には主として社会的に不利な立場に置かれる不遇や
迫害について書かれていると指摘する。(モーサヤ 13:10, 17:
17-19, アルマ25:1-12)。
また、リーハイの夢の部分で、この夢には社会的に見捨てられた
者を励ますメッセージが込められていると解説している。それは
排斥された預言者リーハイにとって重要なメッセージであるばか
りでなく、19世紀の社会的に剥奪されたモルモン書の読者層にと
っても重要なメッセージである、と見ている。(p.105)
トマスはリーハイの夢にはアメリカ黙示文学の要素が見られ、力
を誇示し高度に洗練されて見える「この世」に支配される層に、
快く響き、手に入れたいと望む果実を与える力がある、と言う。
(p.109)
モルモン書が弱者や社会的に顧みられない層に語りかける側面が
あったという視点は、初期の末日聖徒は英国の移民を含めルンペ
ン・プロレタリアート層が多くを占めていた、という研究者の見
方に呼応するところがある。(例、高山真知子「アメリカ史の謎」
1992年。井門富二夫編「多元社会の宗教集団」所収)。
いずれにしても、著者のマーク・D・トマスはモルモン書を既成
の伝統文化を拒否する反体制文化(counterculture)の文書と位置
づけている。
典拠
Mark D. Thomas, “Digging in Cumorah – Reclaiming Book of
Mormon Narratives” Signature Books, 1992
高山真知子「アメリカ史の謎 -- モルモン教における叙事詩の発
生」。井門富二夫編「多元社会の宗教集団」アメリカの宗教第二
巻, 大明堂, 1992年所収。
[付記]
マーク・D・トマスの著書と引用の説明
1. 彼の著「クモラの発掘 -- モルモン書の叙述(narrat-
ive)を分析する」は、聖書学の高等批評(higher criticism)の一
分野 文学批評(literary criticism)を適用したものであって、
様式史(form criticism)、編集史(redaction criticism)と並ぶ
批判神学の手法をモルモン書に用いた数少ない研究書である。ち
なみに聖典の本文批評(textual criticism)は下等批評(lower
criticism)と呼ばれる。
2. 著者トマスは故シカゴ大学神学部新約学教授ノーマン・
ペリンの影響を強く受けて執筆している。ペリンは「編集史とは
何か」を著し、邦訳もされている。
3. 「クモラの発掘 -- モルモン書の叙述(narrative)を分
析する」はシグナチャー出版(モルモン教会護教とは対局に位置
する媒体)が刊行しており、内容も同様と見ることができる。ト
マスはモルモン書の歴史性に固執しないリベラルな立場を取って
いる。
4. トマスは「クモラの発掘」の中で叙述や類型面からの
分析、黙示文学や物語という文学研究からモルモン書を整理して
おり、引用の「権力に縁のない階層」を対象にしていた、という
記述は同書の中に私が読み取ったもので、この点を前面に主張し
ているというわけではない。
以上、特に4の点で文脈を十分記さなかったことは私の責任であ
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