4
キリコが階段の踊り場で叫んだ。
叫びながら階段を駆け下りてくる。
ただごとではない。足音。
ただごとではない。叫び。
「美智子さん下りてきた?」
里恵と隼人は思わず階段を見上げた。
「たったいままで窓に影がうつっていたのに。いないのよ」
まばゆい部屋の光の中で、キリコの顔が不安にゆがんでいる。
「裏階段だ」
外階段から庭に出られる。
隼人がカーテンを開ける。
「ほら……滝をみている」
そびえたつミニチュア―の滝。
直人への愛の想いで眺めつづけてきた滝。
夕闇にはまだ間がある。
蒼穹の広がっていた白雲が茜色に染まっている。
淡い光の中で美智子が滝を見ている後姿が庭に在る。
その後ろ姿は、ハンマースホイの静謐な絵のなかの人物像のようだった。
妻のイーダの後ろ姿を繰り返し描いた画家。
その筆が生みだした傑作のようだ。
遠目にも美智子の、うなじから肩にかけての哀愁ある風情か見える。
美しい。
さすが女優。
後ろ姿のプロポーションだけでもひとの心を惹きつける。
隼人はしばしみとれていた。
まだ着替えはしていない。
部屋を出たときのままだ。
黒とグレイの毛糸で編んだスエタをきている。
美智子のお気に入りのマックスマーラの太めの毛糸仕様。
ざっくりとした感じのスエタだ。
「よかった。びっくりしたよ。きゅうに影も形もみえなくなったのだもの」
美智子の部屋はキリコの部屋と向かい合っている。
ガラス窓になっている。
そこから、美智子の部屋が見える。
美智子の存在をたしかめられる。
庭にある人工の滝には直人への想いがなまなましく生きている。
その滝を静かにみているはずの美智子が――。
唐突に動きだした。
「やっぱオカシイよ。外にでてくよ」
キリコの不安と危惧は、この後、現実をともなって展開した。
今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
皆さんの応援でがんばっています。
にほんブログ村
キリコが階段の踊り場で叫んだ。
叫びながら階段を駆け下りてくる。
ただごとではない。足音。
ただごとではない。叫び。
「美智子さん下りてきた?」
里恵と隼人は思わず階段を見上げた。
「たったいままで窓に影がうつっていたのに。いないのよ」
まばゆい部屋の光の中で、キリコの顔が不安にゆがんでいる。
「裏階段だ」
外階段から庭に出られる。
隼人がカーテンを開ける。
「ほら……滝をみている」
そびえたつミニチュア―の滝。
直人への愛の想いで眺めつづけてきた滝。
夕闇にはまだ間がある。
蒼穹の広がっていた白雲が茜色に染まっている。
淡い光の中で美智子が滝を見ている後姿が庭に在る。
その後ろ姿は、ハンマースホイの静謐な絵のなかの人物像のようだった。
妻のイーダの後ろ姿を繰り返し描いた画家。
その筆が生みだした傑作のようだ。
遠目にも美智子の、うなじから肩にかけての哀愁ある風情か見える。
美しい。
さすが女優。
後ろ姿のプロポーションだけでもひとの心を惹きつける。
隼人はしばしみとれていた。
まだ着替えはしていない。
部屋を出たときのままだ。
黒とグレイの毛糸で編んだスエタをきている。
美智子のお気に入りのマックスマーラの太めの毛糸仕様。
ざっくりとした感じのスエタだ。
「よかった。びっくりしたよ。きゅうに影も形もみえなくなったのだもの」
美智子の部屋はキリコの部屋と向かい合っている。
ガラス窓になっている。
そこから、美智子の部屋が見える。
美智子の存在をたしかめられる。
庭にある人工の滝には直人への想いがなまなましく生きている。
その滝を静かにみているはずの美智子が――。
唐突に動きだした。
「やっぱオカシイよ。外にでてくよ」
キリコの不安と危惧は、この後、現実をともなって展開した。
今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
皆さんの応援でがんばっています。
