田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

愛の絆(7)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-22 04:52:45 | Weblog
7

跳弾が翔太郎の左の肩甲骨にめりこんだ。

「ジイちゃん!!」
焼けるような激痛。
意識のコントロールがきかない。
周囲のひとがかすんでいく。
いや意識がモウロウとしている。

「ジイちゃん」
薄闇のなかで誰か戦っている。

――美智子をたのむ。美智子をたのむ。
部屋の隅に誰かが運んでくれた。
足手まといだ。
なんのやくにもたてないジジイだ。
肩のあたりがぐっしょりとしている。
おびただしい血だ。
血をながしている。
出血している。

バラの匂いがする。
妖艶な香り。
鹿沼の家にいる。
バラの棘をさしたのだ。
智子が血を吸ってくれている。
「毒がまわるとたいへんよ。知っている。リルケはバラに刺されて死んだの」
智子が指の血を吸っている。

この香りはブルームーン。
智子が指からふきだした血をくちびるでぬぐっている。
うっとりとして……意識がうすれていく。
ツルバラが咲いている。
黄色のモッコウバラ。
アンジラも咲きだしている。
もの狂わしいほどのバラの花々。
バラの花と香りのつつまれて死ねるなんてしあわせだ。
ルイ十四世。アイスバーク。紫雲。

 リルケの薔薇
 

 アイスバーク゜
 

 マチルダ
 

 紫雲
 

 ルイ14世
 
 
智子の姿が薄らぐ。

女が隣に倒れている。
翔太郎は知らなかったが酒の谷唄子だった。

「翔太郎、オジイチャン」

美智子がいる。
叫んでいる。
美智子が泣いている。

「おやおや、一族再会ですか。涙の対面ですね」
鬼沢組の黒服がいる。
黒いカラスのように戦っている。
王仁が余裕の笑みで近寄ってくる。
王仁の配下もかけつけた。
隼人、キリコ、秀行か王仁に追いすがって駈けよってくる。
かれらは入り乱れて戦っている。

「智子は?」
意識をとりもどした翔太郎が声にだした。 
こんどこそ、翔太郎は現実にもどっている。
隼人がくびを横にふった。
イメージで見たとおりのことが、鹿沼で起きたのだ。
翔太郎はそう悟った。


 
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