田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

美智子の危機(5)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-07 11:32:49 | Weblog
5

「まちがいなく、ここに鬼神がいた。美智子さんも、いたわ」
「そのとおりだ、キリコ。
これは鬼神一族とおれたちの戦いになってきたようだ」

キリコの兄の黒髪秀行がふたりの後ろに近付いてきた。

「敵だったら後ろをとられてヤバカツタぞ。
油断するな、キリコ」

このときだ。
隼人の胸ポケットで携帯がかすかな音をたてた。
音がしたような気がした。
神経を研ぎ澄ましていたので気づいたのだ。
室長が来てくれたので緊張していたのがさいわいした。
ピー……、ピー……。
直人の、今は隼人の胸にある携帯に信号がはいっている。

「この近所に美智子さんがいる。
あれだ。あの婚約指輪だ。
緊急のことを考えて。
直人が指輪に信号機を組みこんでおいたのだ。
そのことに、彼女が気づいた」

あるいは無意識にリングをにぎりしめ。
スイッチをおしたのかもしれない。

めまいがした。
あたたかなものが、胸にみちてきた。
ぼくは美智子さんのことを想っている。
好きだ。
ぼくの想いがつうじた。
美智子さんはこの近くにいる。
彼女の存在を身近に感じる。
直人、ぼくは美智子さんを愛している。
こんな幼いぼくでも、美智子さんを愛する資格があるだろうか。
直人、ぼくが美智子さんを、守りぬくから。
見守っていてくれ。
お願いだ。

ぼくは彼女を守るために――。
直人の霊によって日本に呼ばれたのだ。
彼女を守ることがぼくの使命なのだね。
――直人。

「この近くにいる。鬼神がいる。キリコ、油断するな」

室長が外に走りだした。 
 
美智子が指輪の機能に気づいたわけではあるまい。
なんらかの偶然が働いた。
そう思うのがやはり妥当だろう。
指輪の発信機としての機能が動きだしたのだ。

隼人は美智子を直ぐ隣に感じている。
心拍が高鳴る。
彼女と会える。
いままでとはがう。
はっきりと彼女を愛していることにめざめた。
はやく会いたい。
 
隼人も室長とキリコを追いかけた。
彼女は危険な状態にある。
 
美智子の危機。
隼人の心の中で赤いシグナルが点滅している。


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