田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

美智子の涙(2)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-28 17:31:15 | Weblog
2

直人とは、ほんとうに短い交際だった。
でも……期間のながいみじかいなんて関係ない。
わたしははじめて「山のレストラン」で。
ジャズのライブでたまたま直人と出会った。
もう胸がときめいて、
動悸が高鳴って、
恋の予感に――。
もうメロメロだった。

「すてきだつたよ。
直人。
直人と過ごした時間。
けっしてわすれない。
もっといろんな話ききたかった。
思うようにいかないセリフまわし、
わたしのそばにいて、
きいてもらいたかった」

監禁から解放された。
翔太郎ジィちゃんも息を吹き返した。
美智子は緊張が解けた。
でも、こころのバランスがおかしい。
モノローグの、
回想の、
世界をまださまよっている。

「初めてキスしたとき……わたし覚えてる?
耳まで赤くなった」
美智子は照れ屋なんだから。
「直人にからかわれたわね。
でもわたし成人式のまえにファストキスできて幸せだった。
わたしみたいにシャイで古風な女が。
すきなひとと、キスできてうれしかった。
映画でキスシーンがあったりして、
それが……ファストキスなんていやだったから……」

「ふたりで、
日光の帰りに、
鹿沼の翔太郎ジイチャンのところによったことあったね。
千手山遊園地の観覧車に乗ったことがあったね。
あの観覧車「恋空」のロケ地で、
全国に紹介されたのよ。
たのしかったよね。
直人ったら、
ぼくらの子どもとまたこの観覧車にのりたいね。
なんていって……わたしを恥ずかしがられせた。
覚えているかな」

直人の姿がふいに消えた。
「直人、直人!!」 
わたしは夢中で呼んだ。
あれは、霧降の滝の観瀑台だった。
すぐとなりでシャッターを切っていた直人が見えなくなった。
霧がふいに流れてきた。
髪も顔もしっとりとしめってしまった。
そして振り返ると直人がいなかった。
不在としいうより、見えなかった。
わたしは不安になった。
直人がこのまま消えてしまう。
そう心配した。
「直人。直人」
わたしの直人、どこにいったの。


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第十八章 美智子の涙/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-28 10:34:09 | Weblog
第十八章 美智子の涙

1

翔太郎、オジィチヤンどうして人は死の。
智子、オバアチヤン。
智マミーの死をみとってあげられなくて、ごめんね。
みんな、わたしをおいて、いなくなってしまう。

「さよなら」かすれていく息のなかで直人がいった。
「いやぁ。わたしをおいていかないで」
わたしは夢中で直人に呼びかけた。

あのときは、鹿沼から智マミーも駆けつけてくれていた。
智マミーがわたしをやさしくだきしめてくれた。
どうしてひとは最愛の人とわかれるときがくるの。
永遠に生きていけないの。
ひとは永遠に生きていけないの?
永遠に苦しめるために、神はわたしから直人をめしあげたの。
わたしは直人の顔にほほをよせた。
わたしのなみだでひえていく直人のほほ。
でも、それはちがっていた。
なみだの冷たさではかった。
ますますひえていく。
それは直人のからだから精気が消えていくことだった。
わたしと直人の距離。
永遠にうまることのない距離。
生と死。
別の世界に住み分けなければならない定め。
わたしはまだ若いのに、最愛のひととどうしてこう
たびたび別れなければならないのかしら。
悲しい。
悲しい。
悲し過ぎる。
「ジィちやん。死なないで
ジィちゃん。死んじゃいや」

ジィちゃんだけでも死なないで。
 
翔太郎の意識が美智子の呼びかけに応えた。
フッと息がもれる。
胸の鼓動が強く打ちだした。

よかった。
ジィちゃん。
ジィちゃん。
なみだがでた。
なみだがジィちやんの顔におちていく。



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