田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

美智子の涙(5)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-31 05:09:57 | Weblog
5

隼人はキリコに追いついた。

「だれを尾行してる?」
「美智子さんのガードは」
「霧太がついてくれた」
「なら安心ね」

前方に黒服のふたり連れ。
「あれか?」
声高に話しながらスパーに入っていく。
「病室をうかがっていたの。
まだ美智子さんが狙われているとみるべきよ。
広告塔にするなんて単純な動機ではないみたい」
ところが、スパーには黒服はいない。
裏口からでていった。

「ヤバイ。ぼくらを連れだしたのだ」
ふたりはあわてて病院にもどることにした。
「霧太がでない」
 キリコは携帯をとじると走りだした。
「急ごう」
そうはいかなかった。
黒服に囲まれた。
「鬼沢組か!!」
 
パタパタとコウモリが窓の外で飛び交っている。
そのうちの一匹が病室の窓にとまった。
口でコツコツとガラスをたたいている。
少し、休んでまたコツコツとはじめる。
その音に呼び寄せられた。
コウモリがまたパタパタと窓にとまる。
霧太はコウモリとむかいあった。
コウモリがニヤリとわらったようだ。
あまり激しくつついた。
コウモリの口が真っ赤になった。
血がてている。
その血を啜っている。
薄気味が悪い。
霧太はひるまない。
にらみあった。
ずきずきとあたまが痛む。
頭に手をやる。
頭をかく。
髪がごっそりとぬけおちた。
手にした髪の束が真っ赤になった。
火をふいた。
手から燃える髪が床におちた。
あわてた。
靴で。
火を。
消す。
ない。
なにもない。
床には燃えている髪なぞない。
幻覚だ。
霧太は、無意識だった。
小さな声だった。
必死で九字をきった。
臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前
平常心がもどってきた。

しかし――。
コウモリの数は。
増えている。
窓イツパイに蠢いている。
いや。
幾重にも重なり合っている。
もう、外の景色はみえない。
ヒシッと窓ガラスに細い線がはしる。
ピシピシと蜘蛛の巣のような細い線が。
霧太は美智子をみた。

美智子は目をとじたままだ。

霧太は恐怖は感じない。
美智子を守りぬけるかどうか。
不安だ。

「霧太!!」
キリコが飛びこんできた。
「外で隼人がたたかっているから」
コウモリを使役する黒服の集団と隼人がたたかつている。
そういうことだと、霧太は理解した。

「こいつら日光の鬼神のコウモリよ」
「だつたら、サル彦ジィの敵だ」
「アイツラ、日輪学院での仇を撃つ気よ」
「日光へスケット頼んだのだね。
ちょうどいいや。まとめてヤツッケてやる」
「霧太。油断しないで。くるわよ」

バリンと割れたガラスがしたにおちていった。




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