下畑沢の地蔵庵で夏に咲いていました。特に珍しい花ではありません。全国どこでも普通に見られる花です。花の名の「うつぼ」は、蛸の天敵である魚のウツボではありません。昔、士が弓矢を入れた「うつぼ」に因んだものだそうです。調べてみると、「弓矢を入れるうつぼ」には、色々な種類があるそうです。私は弓にも疎いのですが、私なりにこの花に似ている「うつぼ」を考えてみました。昔、囲炉裏のそばに「弁慶」と言うものがりました。筒形の粗目に編んだ竹篭に、藁を入れてあります。これを囲炉裏の上に吊るして、串に刺した川魚などを刺しておきました。この弁慶に似たもので作られた「うつぼ」があったと思います。
ところで、私の幼いころの思い出をお話します。小学校へ行く前の年、幼稚園や保育園はありませんので、今の私のように、毎日が日曜日でした。すってんてんの体に、着物を着せられていました。当然パンツなどというものは身に着けたことがありません。その日、天気は上々、青空が広がっていました。私は一人で道路の脇にしゃがんで、虫を眺めていました。虻(アブ)だか蜂だか分からない特殊な虫です。その虫はたいして大きくないのですが、飛んでいる時は大きな甲高い音を出します。何匹かが、乾いた砂利道の上でじゃれ合っているかのように飛んだり止まったりを繰り返しています。そのうちに、砂利道の脇に咲いていた花に止まりました。その花の紫が鮮やかで、強烈なイメージを私に植え付けてしまいました。この花を見るたびにあの虫を思い出し、あの虫を見るたびにこの花を思い出します。そして、あのころの畑沢の情景が目に浮かんできます。
今、畑沢の道路はアスファルトに舗装されていますので、道路の脇にウツボグサが生える余地はありません。ウツボグサは注意深く、畦道などを探す必要があります。