詩人PIKKIのひとこと日記&詩

すっかりブログを放任中だった。
詩と辛らつ日記を・・

あの町

2008年08月01日 | 日記
あの町は風の町
断崖と断崖との間の
砂浜に沿った町

生まれて初めての
あまりの海の大きさに
じゃぶじゃぶと顔を洗った浜

今ごろは
浜茄子が風に翻がえり
鴎がのんびり
対岸の半島とのあいだを
行き来していることだろう

どうしてだか
いちばん仲のよかった幼馴染と
帰ったら
真っ先に会いたかった君とが
ずいぶん昔に
亡くなってしまった町

いつの日にか また
あの砂浜に立ちつくして
あの世の君たちに
大声で呼びかけてみたい町

「もう一度だけ
 会って話したかったよ」

「きみ等の分まで
 生きるつもりだよ」

水の中のナイフ

2008年08月01日 | 日記
ポーランド映画には忘れられない映画が多い
ワイダ監督の「灰とダイヤモンド」「地下水道」「鉄の男」
つい最近「戦場のピアニスト」で健在振りを示した
ポランスキー監督の最初期の映画に
「水の中のナイフ」というモノクロの映画がある
水のきらめきばかりが延々と続く映画なのに
映画ばかり見ていた二十歳頃を思い出すと
いつも脳裏に浮かんでくる映画

その頃を思いだすと もうひとつ
どうしても手放せないナイフがある
山へ行く時にも
暮れなずむ街角にひとり
迷子になってしまった時にも

きみからプレゼントされた
赤い小さな万能ナイフ
スイスの国旗が刻まれた
しんやりとしたナイフ

このナイフで
なんどお祝いのビールの栓を抜いたり
淋しく冷えたワインの栓を開けたり
飢えきって缶詰を開けたことだろう
山小屋で汗だくの衣服を脱いで
赤々と燃える薪ストーブの前で
素裸で火に手をかざしながら
きみを想いながら眠れなかった夜にも

病室のきみを見舞った時にも
真っ赤な林檎を片手に
「最後まで切らずに皮をむけるんだよ」と
微笑み合いながら

きみの死から
もう十年も経つというのに
いよいよ赤く
まるで色褪せることのないナイフ
きらり きらきら
水の中のナイフみたいな
きみの思い出でいっぱいのナイフ