ぼくのふるさと北海道には
「とき知らず」という
季節はずれの鮭がいる
還るべき時が
わからなくなってしまった鮭
貴重で 高価なんだという
時知らずという花もある
どんな季節も
咲いている馬鹿な花
ぼくが唯一
君に贈った花
季節や
時代から遠く離れた
大好きな詩がある
100年前の詩だというのに
どうしてこうも
懐かしいんだろうか・・
反対 金子光晴
僕は少年の頃
学校に反対だった。
僕は、いままた
働くことに反対だ。
ぼくは第一、健康とか
正義とかがきらひなのだ。
健康で正しいほど
人間を無精にするものはない
むろん、やまと魂は反対だ
義理人情もへどが出る。
いつの政府にも反対であり、
文壇画壇にも尻を向けてゐる。
なにしに生まれてきたと問はるれば、
躊躇なく答えよう。反対しにと。
ぼくは、東にゐるときは、
西にゆきたいと思ひ、
きもの左前、靴は右左、
袴はうしろ前、馬には尻をむいて乗る。
人のいやがるものこそ、僕の好物。
とりわけ嫌ひは、気の揃ふといふことだ。
僕は信じる。反対こそ、人生で
唯一つ立派なことだと。
反対こそ、生きていることだ。
反対こそ、じぶんをつかむことだ。
(金子光晴詩集『赤土の家』1919年発行より)
「とき知らず」という
季節はずれの鮭がいる
還るべき時が
わからなくなってしまった鮭
貴重で 高価なんだという
時知らずという花もある
どんな季節も
咲いている馬鹿な花
ぼくが唯一
君に贈った花
季節や
時代から遠く離れた
大好きな詩がある
100年前の詩だというのに
どうしてこうも
懐かしいんだろうか・・
反対 金子光晴
僕は少年の頃
学校に反対だった。
僕は、いままた
働くことに反対だ。
ぼくは第一、健康とか
正義とかがきらひなのだ。
健康で正しいほど
人間を無精にするものはない
むろん、やまと魂は反対だ
義理人情もへどが出る。
いつの政府にも反対であり、
文壇画壇にも尻を向けてゐる。
なにしに生まれてきたと問はるれば、
躊躇なく答えよう。反対しにと。
ぼくは、東にゐるときは、
西にゆきたいと思ひ、
きもの左前、靴は右左、
袴はうしろ前、馬には尻をむいて乗る。
人のいやがるものこそ、僕の好物。
とりわけ嫌ひは、気の揃ふといふことだ。
僕は信じる。反対こそ、人生で
唯一つ立派なことだと。
反対こそ、生きていることだ。
反対こそ、じぶんをつかむことだ。
(金子光晴詩集『赤土の家』1919年発行より)