コロナ禍 : 弱者に手厚いカナダの休業補償〜月15万円を4か月間給付
長谷川 澄(カナダ・モントリオール在住)
http://www.labornetjp.org/news/2020/1588480486091staff01
*カナダのトルドー首相
雨宮処凛さんのコラム「コロナになってもならなくても死ぬ〜国へ緊急要望書提出」(「マガジン9」https://maga9.jp/200429-1/)を読んで、日本の休業補償のあまりの遅さ、足りなさに慄然としました。日本の人は、もっと他の国の休業補償の状況を知って、政府に強く要求するべきと思い、私の住むカナダについて、書くことにしました。カナダより優れた休業補償をしている国は勿論、たくさんあるでしょう。他の国の事情を知る人がどんどん投稿して、日本と比較し、政府を突き上げていくことを望みます。
私の住むケベック州で、コロナのために学校、大学が休校になったのが、3月16日、レストランなどが営業できなくなったのもその前後です。連邦政府は、まず税金申告を従来の4月30日から6月1日に伸ばし、納税義務は4月30日から8月31日に遅らせました。(カナダでは、会社などに務めていても、個人の税金申告が必要)レストラン等が閉まったことで、3月はカナダの失業保険の申請者が前年の2倍以上になりました。また、失業保険ではカバーできない人がたくさんいることも明確になり、Canada Emergency Response Benefit (以下CERB)=カナダ緊急給付が決まり、申請が始まったのが4月6日でした。申請の条件はカナダ在住で15歳以上(カナダ市民権、永住権がなくても可)、前年に税申告で5000ドル(約375000円)以上の収入があったが、コロナ関連事情(子どもが休校で家に居るために仕事に行けない等も可)で、収入が無くなった従業員、社員、自営業、フリーランス。5000ドル以上の収入と言うことは、パートタイムでも可ということです。
CERBは、4週間毎に2000ドル(約15万円)を、16週間まで給付されます。申請は4月6日からでしたが、3月に遡って給付されました。しかし、CERBからもれる人が居るということで、4月16日に一部改正され、“コロナ関連で収入を無くしたか、過去4週間の収入が1000ドル(75000円)を下回っている場合”“季節労働者で、失業保険が切れたが、コロナ関連で次の季節労働が見込めない”(農業、漁業労働者)“失業保険が切れたが、コロナで仕事が見つからない”などが加わりました。
申請はオンライン、電話で可。銀行振り込みなら、申請日から3日、小切手郵送なら申請日から10日で入金されます。申請が一度に殺到しないように、誕生月ごとに申請曜日が決められていました。学生で、アルバイトを無くした人の多くがCERBからもれるということから、大学生、専門学校生のための Canada Emergency Student Benefit が5月から予定されています。これは、アルバイトを無くした学生一人につき1250ドル(約94000円)を5月から8月まで支給、その学生に扶養家族が居た場合や、学生自身が障害者である場合、支給額は1750ドル(約131000円)になります。これは、5月から支給ですが、まだ申請は始まっていません。
個人への補償は、その他種々ありますが、低所得の人に対する一時金もあります。カナダでは、年収3万ドル(約225万円)以下が低所得とされています。低所得の人は、コロナのような災害時に一番の弱者になるという理由で、一時金支給が決まりました。一つは、連邦政府消費税の払い戻しです。(カナダの消費税はかなり高く、連邦政府5%、州政府は州によりますが、一番高いケベックは9.8%です。しかし、食料品には税はかからないし、必需品の生理用品やおむつ等にもかかりません)そして、税申告で低所得となった場合、年一回、消費税の一定額の払い戻しがあります。
今年は連邦政府がその払い戻しを例年の2倍にすることを決めました。独身者には、約400ドル(約3万円)、カップルなら、一人300ドルずつの払い戻しになる予定です。もう一つは、子ども給付金の増額一時金。カナダで子どもを養育いている人には、市民権や永住権がない人も含め、子ども給付金があります。連邦政府と州政府の両方からあり、子どもの年齢、人数、親の収入、によって、給付額は変わりますが、ケベック州では、両政府分を合わせて、月額一人につき200ドルから450ドル位のようです。今回は、5月の給付金に低所得家庭には、子ども一人につき300ドルずつの上載せがあります。両方とも5月の一回だけですが、申請の必要はなく、前年度に低所得だった家庭に自動的に支給されます。
Canada Emergency Wage Subsidy=緊急給与補助金というプログラムは、大、中、小の企業で、雇用を守るためのものです。3月に15%、4,5月に30%以上の収入減になったことが証明できる企業が、人員整理をしない場合、3月15日から6月6日までの給料の75%を政府が払い、その間の企業負担の失業保険金、年金その他の企業負担分の支払いも免除するというものです。国際線全便を休止しているエアカナダは、2000人以上の人員整理を決めた後で、このプログラムに申請して、人員整理を撤回し、今は雇用を守っています。
Canada Emergency Commercial Rent Assistance というプログラムは、コロナ蔓延で閉店している、レストラン等小さいビジネスの家賃を援助するもので、フードバンクなどの非営利事業にも適用されます。家賃を75%引きにし、25%は建物の持ち主がかぶり、50%を連邦政府と州政府が負担すると言うものです。これはレストラン、コーヒーショップなどのビジネスをしている人たちからの強い要望を受けて、4月16日に発表されたもので、5月中旬からの申請を目指して、微調整をしている段階です。4、5,6月の家賃をカバーする予定です。
以上が、カナダのCovid19 Economic Response Plan=コロナ禍経済対応策の一部です。首相は、週日は毎朝、官邸前に出て、その前日に決まったことなどを説明し、ジャーナリストの質問に答えることを続けています。今回、これを書くために、日付や数字が必要で、政府のサイトを見て、毎日の会見を見ていても聞き逃した、上記以外のたくさんプログラムがあることを知りました。個人、企業、分野別と別れていて、とても分かりやすいけれど、膨大な量のプログラムが出ています。現政権に対しては、私は、色々不満もあるのですが、今回のコロナ対策に関しては、本当に真摯に対応していると感じています。
政府も、大丈夫なのかと思うほど膨大な支出をしているけれど、あるところからは出してもらいたいという姿勢も私たち庶民の感覚に近く、好感が持てます。カナダでは、3月の終わりに日本の信用金庫にあたる銀行が、コロナ禍で職を失った人には、クレジットカードの利子を大幅に下げる決定をし(18%から10.5%)、それにならって、大手銀行も下げました。その時、首相は、「銀行は去年まで、多大な利潤を上げてきているのだから、カナダ市民のために、もっと支出してもらいたい。市民の生活が立ち行かなくなれば、銀行だって立ち行かなくなるのです」とかなり強い調子のスピーチをしました。その姿勢が、上記プログラムの中の家を買うためなどで、銀行に借入金のある人の欄などにも出ています。
カナダと国境を接する米国では、ロックダウンを解除しろという大きなデモが起きていますが、カナダではそのような動きは全くありません。それでも、東海岸には、感染者百人以下、死者0の州もあり(プリンスエドワード島、NB州など)、西海岸のBC州も新規感染は収まっているようです。ケベック州とオンタリオ州が一番問題です。ケベックの死亡者が、カナダ全体の死亡者の半数以上で、その85%が長期の老人介護施設での集団感染です。その問題は、このコロナ禍が終わってからの大きな課題になっています。
*1カナダドル=75円で換算しました
長谷川 澄(カナダ・モントリオール在住)
http://www.labornetjp.org/news/2020/1588480486091staff01
*カナダのトルドー首相
雨宮処凛さんのコラム「コロナになってもならなくても死ぬ〜国へ緊急要望書提出」(「マガジン9」https://maga9.jp/200429-1/)を読んで、日本の休業補償のあまりの遅さ、足りなさに慄然としました。日本の人は、もっと他の国の休業補償の状況を知って、政府に強く要求するべきと思い、私の住むカナダについて、書くことにしました。カナダより優れた休業補償をしている国は勿論、たくさんあるでしょう。他の国の事情を知る人がどんどん投稿して、日本と比較し、政府を突き上げていくことを望みます。
私の住むケベック州で、コロナのために学校、大学が休校になったのが、3月16日、レストランなどが営業できなくなったのもその前後です。連邦政府は、まず税金申告を従来の4月30日から6月1日に伸ばし、納税義務は4月30日から8月31日に遅らせました。(カナダでは、会社などに務めていても、個人の税金申告が必要)レストラン等が閉まったことで、3月はカナダの失業保険の申請者が前年の2倍以上になりました。また、失業保険ではカバーできない人がたくさんいることも明確になり、Canada Emergency Response Benefit (以下CERB)=カナダ緊急給付が決まり、申請が始まったのが4月6日でした。申請の条件はカナダ在住で15歳以上(カナダ市民権、永住権がなくても可)、前年に税申告で5000ドル(約375000円)以上の収入があったが、コロナ関連事情(子どもが休校で家に居るために仕事に行けない等も可)で、収入が無くなった従業員、社員、自営業、フリーランス。5000ドル以上の収入と言うことは、パートタイムでも可ということです。
CERBは、4週間毎に2000ドル(約15万円)を、16週間まで給付されます。申請は4月6日からでしたが、3月に遡って給付されました。しかし、CERBからもれる人が居るということで、4月16日に一部改正され、“コロナ関連で収入を無くしたか、過去4週間の収入が1000ドル(75000円)を下回っている場合”“季節労働者で、失業保険が切れたが、コロナ関連で次の季節労働が見込めない”(農業、漁業労働者)“失業保険が切れたが、コロナで仕事が見つからない”などが加わりました。
申請はオンライン、電話で可。銀行振り込みなら、申請日から3日、小切手郵送なら申請日から10日で入金されます。申請が一度に殺到しないように、誕生月ごとに申請曜日が決められていました。学生で、アルバイトを無くした人の多くがCERBからもれるということから、大学生、専門学校生のための Canada Emergency Student Benefit が5月から予定されています。これは、アルバイトを無くした学生一人につき1250ドル(約94000円)を5月から8月まで支給、その学生に扶養家族が居た場合や、学生自身が障害者である場合、支給額は1750ドル(約131000円)になります。これは、5月から支給ですが、まだ申請は始まっていません。
個人への補償は、その他種々ありますが、低所得の人に対する一時金もあります。カナダでは、年収3万ドル(約225万円)以下が低所得とされています。低所得の人は、コロナのような災害時に一番の弱者になるという理由で、一時金支給が決まりました。一つは、連邦政府消費税の払い戻しです。(カナダの消費税はかなり高く、連邦政府5%、州政府は州によりますが、一番高いケベックは9.8%です。しかし、食料品には税はかからないし、必需品の生理用品やおむつ等にもかかりません)そして、税申告で低所得となった場合、年一回、消費税の一定額の払い戻しがあります。
今年は連邦政府がその払い戻しを例年の2倍にすることを決めました。独身者には、約400ドル(約3万円)、カップルなら、一人300ドルずつの払い戻しになる予定です。もう一つは、子ども給付金の増額一時金。カナダで子どもを養育いている人には、市民権や永住権がない人も含め、子ども給付金があります。連邦政府と州政府の両方からあり、子どもの年齢、人数、親の収入、によって、給付額は変わりますが、ケベック州では、両政府分を合わせて、月額一人につき200ドルから450ドル位のようです。今回は、5月の給付金に低所得家庭には、子ども一人につき300ドルずつの上載せがあります。両方とも5月の一回だけですが、申請の必要はなく、前年度に低所得だった家庭に自動的に支給されます。
Canada Emergency Wage Subsidy=緊急給与補助金というプログラムは、大、中、小の企業で、雇用を守るためのものです。3月に15%、4,5月に30%以上の収入減になったことが証明できる企業が、人員整理をしない場合、3月15日から6月6日までの給料の75%を政府が払い、その間の企業負担の失業保険金、年金その他の企業負担分の支払いも免除するというものです。国際線全便を休止しているエアカナダは、2000人以上の人員整理を決めた後で、このプログラムに申請して、人員整理を撤回し、今は雇用を守っています。
Canada Emergency Commercial Rent Assistance というプログラムは、コロナ蔓延で閉店している、レストラン等小さいビジネスの家賃を援助するもので、フードバンクなどの非営利事業にも適用されます。家賃を75%引きにし、25%は建物の持ち主がかぶり、50%を連邦政府と州政府が負担すると言うものです。これはレストラン、コーヒーショップなどのビジネスをしている人たちからの強い要望を受けて、4月16日に発表されたもので、5月中旬からの申請を目指して、微調整をしている段階です。4、5,6月の家賃をカバーする予定です。
以上が、カナダのCovid19 Economic Response Plan=コロナ禍経済対応策の一部です。首相は、週日は毎朝、官邸前に出て、その前日に決まったことなどを説明し、ジャーナリストの質問に答えることを続けています。今回、これを書くために、日付や数字が必要で、政府のサイトを見て、毎日の会見を見ていても聞き逃した、上記以外のたくさんプログラムがあることを知りました。個人、企業、分野別と別れていて、とても分かりやすいけれど、膨大な量のプログラムが出ています。現政権に対しては、私は、色々不満もあるのですが、今回のコロナ対策に関しては、本当に真摯に対応していると感じています。
政府も、大丈夫なのかと思うほど膨大な支出をしているけれど、あるところからは出してもらいたいという姿勢も私たち庶民の感覚に近く、好感が持てます。カナダでは、3月の終わりに日本の信用金庫にあたる銀行が、コロナ禍で職を失った人には、クレジットカードの利子を大幅に下げる決定をし(18%から10.5%)、それにならって、大手銀行も下げました。その時、首相は、「銀行は去年まで、多大な利潤を上げてきているのだから、カナダ市民のために、もっと支出してもらいたい。市民の生活が立ち行かなくなれば、銀行だって立ち行かなくなるのです」とかなり強い調子のスピーチをしました。その姿勢が、上記プログラムの中の家を買うためなどで、銀行に借入金のある人の欄などにも出ています。
カナダと国境を接する米国では、ロックダウンを解除しろという大きなデモが起きていますが、カナダではそのような動きは全くありません。それでも、東海岸には、感染者百人以下、死者0の州もあり(プリンスエドワード島、NB州など)、西海岸のBC州も新規感染は収まっているようです。ケベック州とオンタリオ州が一番問題です。ケベックの死亡者が、カナダ全体の死亡者の半数以上で、その85%が長期の老人介護施設での集団感染です。その問題は、このコロナ禍が終わってからの大きな課題になっています。
*1カナダドル=75円で換算しました