ウクライナの国土のほとんどは、肥沃な平原、ステップ、高原で占められていて、気候は温暖な大陸性気候であるが、クリミア半島の南岸は地中海性気候により近く、欧羅巴の農場になりうる。このあたりにロシアの狙いがあるのだろうか?ロイターが伝えていた。
ロシア政府は25日、貨物船を使ってアゾフ海への侵入をブロックし、この航路の「扉」に鍵をかけた。戦闘機や戦闘ヘリが上空を飛びかう中、ロシア国境巡視船がウクライナの艦船3隻に砲撃し、拿捕した。
乗組員数人が負傷したという。ロシア連邦保安局(FSB)は26日、ウクライナ艦船が違法にロシア領海に侵入したことを受けて拿捕したと表明。ウクライナ側は、これを否定している。
ロシアはその後、再びこの海峡を開放した。だが今回の衝突で、横紙破りで非軍事的、かつ時に致命傷は与えないテクニックを駆使して地政学の地図を塗り替えようとするロシアの意欲が増大する一方であることが改めて示された。
これは、終わりの見えない国境紛争を続けているウクライナなどのプーチン氏に対抗する国々だけでなく、西側諸国や北大西洋条約機構(NATO)も悩まされている戦略だ。
今回の件は、軍事力と経済力、そして巨大な建設やインフラ計画が、サイバー兵器やプロパガンダと並んで使われるという、国際舞台でで増えつつある戦略の傾向を示している。このような「衝突」は、南シナ海のように流血を伴わないこともあれば、ウクライナ東部ドンバスや、シリアやイエメンで行われている中東の代理戦争のように残虐なものもある。
通商から人権に至るさまざまな分野における緊張の高まりを受け、このような対立は確実に増えているようだ。
プーチン氏は後日になって、クリミア併合にロシア軍が関与したことを認めたが、ウクライナの他地域に対するロシア政府の軍事関与については、証拠があるにもかかわらず否定し続けている。
だが現実には、今やロシアの支配下となってしまった。アゾフ海に面したウクライナ領唯一の主要港であるマリウポリは今、事実上の封鎖状態に置かれている。25日の事件の前から、ロシアによる輸送妨害で地元経済は大きな打撃を受けていた。マリウポリの住民は今、より悪い事態を恐れなければならないかもしれない。2014年には、マリウポリから数キロの地点まで戦闘が迫り、その後も散発的な戦闘が東のドンバスやルガンスク周辺で続いて1万人近くが死亡した。
今週末の衝突発生以前に、ウクライナ軍幹部は、この地域が「第2のクリミア」になる事態を防ぐため、クリスマスまでにアゾフ海に海軍基地を開設すると吹聴していた。
だがそのような戦術が、ロシア側から確実に大規模な反撃を招くことが明らかになった。ウクライナ側は他の選択肢を検討しているようだ。ロシアのメディアは25日夜、ドンバス周辺の戦地でウクライナ軍の砲撃が増加したと報じている。
ロシアによるクリミア併合後、西側からの軍事支援が増加したとはいえ、ウクライナはNATO加盟国ではない。したがって、西側諸国に行動を起こす義務はない。
しかし、欧州諸国や米国の安全保障関係者の多くは、直接的な支援を拡大したがっている。訓練の提供や、追加兵器支援が考えられる。米国や他のNATO加盟国の軍艦が、黒海航行を増やすことも一案だ。黒海沖での小競り合いは増加している。英国の軍艦上空をロシア機17機が威嚇するように飛行する事件が今年起きている。
西側がこのような対応を取れば、現在すでに回避不能とみられる追加制裁が科された場合と同様に、ロシアはさらに激怒するだろうが、それでもロシア政府による行為を罰することができる。また、東欧の防衛強化というNATOの取り組みをてこ入れする効果もあるだろう。
25日の衝突に対する最も重要な反応は、「軍事防衛に対する正当な対価」を払っていない、と欧州を批判したトランプ米大統領のツイートだったのではないか。
これらの状況から、G20首脳会議の雰囲気は暗くなるばかりだ。欧州各国の指導者は、反トランプでまとまりつつあるが、今回の件でさらに腹を立てた状態で乗り込んでくるだろう。米大統領と中国の習近平・国家主席の首脳会談が今回の最重要イベントになると考えられていたが、今やプーチン氏が参加する会談なら何でも大きな注目を集めることになりそうだ。
アゾフ海での衝突は、今後さらに流血の事態を引き起こすかもしれないが、その後の展開は恐らくコントロールできる範囲のものになるだろう。しかし、外交を捨ててリスクの大きい軍事的な賭けを選ぶ国が増えれば、世界的な破滅が起きる確率も高まるだろう。