ニューズウィークが宇宙開発がアメリカ勢と欧州勢とが、膨大な投資を始めていて、現状を纏めていた。宇宙開発の市場規模はとてつもなく大きく、防衛、農業生産、自然災害対策など、現在予測されているAI等の第4次産業革命をはるかに凌ぐと言う。そして日本やアジア勢はカヤの外で、もしかしたら中国は急遽参入し追いつけるかもしれないが、欧米の2大勢力で宇宙開発は抑えられてしまうのではなかろうか?
バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチによれば、宇宙ビジネスの市場規模は30年以内に3兆ドルに迫る。これは現在のスマホ市場の約8倍、成長著しいAI(人工知能)市場の約140倍に成長する勢いで、同社が「投資分野で最後のフロンティア」と評価するのもうなずける。もはや宇宙を語らずして世界経済の先行きを見通すことは難しい。
では宇宙ビジネスを牽引するのは誰か。多くはイーロン・マスクと答えるだろう。火星移住計画や月旅行などの大胆な宇宙事業で注目を集めているだけでなく、メディアに対する挑発的な言動も相まって宇宙ビジネスの申し子のように語られる。
しかし、実際に宇宙ビジネスをリードするのはマスクを含めた「シリコンバレー連合」と言うのが適切かもしれない。つまりアメリカのIT企業だ。
宇宙ビジネスは多岐にわたるが、大きく2つの分野に分けられる。打ち上げと衛星データだ。宇宙へ行くための手段である打ち上げ事業とデータビジネスはこの産業の両輪だが、注目を集めているのは衛星データビジネスだ。
米投資銀行のモルガン・スタンレーは2017年、宇宙ビジネスの成長から最も利益を得ると見込まれる企業20社を「SPACE20」として選定した。
20社には、グーグルやフェイスブック、それにマイクロソフト、クアルコムなどアメリカのネットや通信系企業がずらりと並ぶ。衛星データビジネスは、簡単に言えば人衛星を使って地上のあらゆる動きをデータとして集め、それを必要とする政府機関や企業に提供する。衛星を利用したビッグデータビジネスとも言える。
例えば、農業では土壌の状況や、作物の生育状況をタイムリーに把握することで収穫高をより正確に計算できるようになる。アメリカのように広大な農地が点在する国では特に効果的だ。環境保護や防災にも役立つ。
土砂災害の状況を精緻に分析することで、危険地域を一度に特定できるようになる。リスク分析の手法が変われば、さまざまな保険ビジネスにも利用されるだろう。防犯にも応用できる。不法移民の監視だけでなく、違法な森林伐採や密漁の監視も可能になる。衛星から魚群を探るセンサーにも注目が集まっている。
アメリカのIT企業の動きが注目されがちだが、技術的な面ではヨーロッパの宇宙ベンチャーも最先端を走っている」と、イギリスを拠点とする宇宙ベンチャー、オープン・コスモスのラフェル・シキエールCEOは言う。実際、EUを司令塔に欧州諸国は宇宙事業に注力している。
その本気度は予算の増額ぶりを見ても分かる。2021~27年まで、過去7年から50%増しとなる160億ユーロ(約2兆円)の宇宙関連予算を投じることを18年6月に承認。NASAを追い掛けるロシアに匹敵する額だ。
EUが宇宙ビジネスに本腰を入れる理由はアメリカよりも切実だ。好景気のアメリカと違い、ヨーロッパは景気回復を謳歌する前に、来春のブレグジット(英EU離脱)が迫る。宇宙ビジネスは経済の重要な起爆剤の1つとして期待を集めており、EUは宇宙産業で23万人以上の雇用創出ができると見込んでいる。
欧州でも注目されているのは衛星データビネスだ。シキエールのオープン・コスモスは2017年に小型衛星の打ち上げに成功。交通インフラ産業などへのデータ提供を行っている。宇宙からのネット接続を可能にする通信事業や宇宙空間を利用した科学実験事業なども手掛けている。同社はスタートアップ専門のネットメディア、EUスタートアップ誌が選定する「注目すべき10社の欧州宇宙スタートアップ」の1つに選ばれた。
2019年には「同業者と比べても多い」最大30回の打ち上げ契約を締結予定だが、それでも需要に追い付かないという。「極端に言えば顧客専用の衛星を打ち上げることもできる。電子レンジと同程度の大きさの小型衛星が打ち上げられるようになったので、こうしたオンデマンドな衛星ビジネスが可能になった」
防衛産業に注力する背景
経済だけではない。宇宙ビジネスはヨーロッパの安全保障にとっても重要な産業として注目されており、特に海洋の安全保障での期待が高まっている。
きっかけとなったのは、中国の南シナ海問題。域外貿易の9割を海上輸送に頼るEUでは、この問題を機に航行の自由と海洋防衛への意識が高まり、欧州理事会は2014年に「EU海洋安全保障戦略」を承認した。
この戦略で注目されているのはISR(諜報・監視・偵察)と呼ばれる市場だ。海洋での船や人の動きを精緻に分析するツールを搭載した衛星ビジネスのことで、いわば情報戦の要だ。
ルクセンブルクを拠点にするクレオス・スペースはこのビジネスを手掛ける企業の1つ。密漁を監視するための小型衛星を打ち上げるなど海洋監視分野での実績があり、2018年8月はエアバス・ディフェンスとの事業提携に関する覚書に署名。防衛事業に本格参入している。
「ISR市場においてクレオスが手掛けるような小型衛星による情報提供は重要な役割を担い始めている」と、同社広報担当のパスカル・カウフマンは言う。「エアバス・ディフェンスとの提携はこの技術の応用範囲を拡大させる意味がある」
こうした企業が台頭する背景には、NATO独特の事情もある。NATOは欧州防衛の要だが、情報の一元化ができていない。宇宙からの監視や空からのテロに備えるために18年6月に「NATO共同エアパワー戦略」を公表したが、情報提供は「各加盟国が持つ宇宙関連の防衛能力に大きく依存している」(NATO経済安全保障委員会報告書)のが実情だからだ。そのためクレオスのような宇宙ベンチャーに対する期待は大きい。
広大な宇宙空間を舞台に始まった経済バトルは、安全保障にも波及しつつ激しさを増している。