National Geophisicと言うのに、2050年には世界人口が100億になるが、現在の食糧生産や食のあり方では100億人の生命を維持できず、そのあり方を英国の医学雑誌が掲載しておりそれを紹介していた。言われてみれば、牛肉を今と同じように食すれば、牛のえさも供給できないし、今のように食料の無駄な廃棄を続ければ食の生産も間に合わないから、食改革が必要なのは自明ではあるが。
世界の人口は2050年までに100億人に達するとみられており、その全てに食料を供給するために、これからの食生活はどうあるべきかといった研究が盛んに進められている。
そのひとつとして、野菜を多くとり、肉、乳製品、砂糖を控えるように提案する論文が、1月16日付けの英医学雑誌「The Lancet」に発表された。「ランセット委員会」の名の下に、栄養や食に関する政策を研究する世界の科学者30人が3年にわたって協議し、100億人の食を支えるために、各国政府が採用できる案をまとめたものだ。こうした食の改革を行わないと、地球に「破滅的」なダメージが待ち受けているという。
要約には、「赤身の肉や乳製品の消費をほんの少量増やしただけで、この目的は達成不可能になる。可能だとしてもかなり難しくなるだろう」とある。
食料生産は、温室効果ガス、水や作物の利用、肥料から出る窒素やリン、そして生物多様性などについてさまざまな副作用をもたらす。これらを全て管理できれば、気候変動を引き起こす温室効果ガスの排出量は減り、世界中の人々が食べるのに十分な食料を生産するだけの農地が確保できると論文は結ばれている。
肉と砂糖の消費は、半分に減らす必要があるという。ただ、削減すべき地域とそうでない地域があると、論文の著者で米ジョンズ・ホプキンス大学の食料政策と倫理学教授であるジェシカ・ファンゾ氏は言う。例えば、米国では肉の消費量を減らし、果物と野菜の量を増やす。対して、栄養不足が深刻な国では、食事の約3%に肉を取り入れるといった具合だ。
「食の大変革」を
肉食を減らすべきだという提案は、何も新しいものではない。2018年10月にも、学術誌「Nature」に、肉と砂糖の消費削減を提案する同様のガイドラインが発表された。
今回の論文が異なる点は、それを実行に移すための具体的な手順が説明されていることだ、とファンゾ氏は言う。
論文はこれを「食の大変革」と銘打ち、単に情報を共有するだけという最も簡単にできることから、消費者に選択肢を与えないという大胆な戦略まで、幅広く提言している。
「毎日のこととなると難しいとは思います。消費者の行動を促す直接の要因もないし、現在の政治的構造のままでは、簡単にはいきません」と、ファンゾ氏。方策の一例としては、政府補助金の支給先の見直しがある。食品の相対的な価格が変化して、人々の消費行動が変わるかもしれない。
ただ、それが実際に世界中で狙い通り実行されるかはまた別の問題であるとファンゾ氏は言う。
「現在の(トランプ)政権では、何をやっても前に進まないでしょうね」
一方、米国酪農会議の最高科学責任者であるグレッグ・ミラー氏は、カルシウムやビタミンDなどの栄養がとれるという牛乳の利点を挙げつつ、米国の食生活を大幅に変えることには慎重な姿勢を示す。
酪農や乳業で働く「百万人の生活がかかっています」
「消費者への正しい動機付けと、正しい政策」が、持続可能な酪農を実現するには重要だとミラー氏は主張する。「技術の向上に、今の補助金は必要です。小規模牧場には、それだけの経済的余裕がありません」
例えば、品種改良によって牛乳を多く出す乳牛が誕生し、追跡システムの改良で、牛の食べる量や運動の監視が可能になった。
産と温室効果ガスをめぐる論争
野菜中心の食生活が食の安定化への万能薬であるという考えは、全ての専門家の共通認識ではない。米カリフォルニア大学デービス校の動物科学者フランク・ミトローナー氏は以前から、温室効果ガスの排出原因として、肉食が不当にやり玉に挙げられていると主張してきた。
米環境保護庁によると、産業、電力、交通における化石燃料の燃焼が、温室効果ガス排出量の大部分を占めている。農業による排出量は全体の9%で、畜産はさらにそのうちのわずか4%である。
ミトローナー氏はさらに、家畜による温室効果ガスの量を計算する際にも、論文はメタンの量に重きをおきすぎていると指摘する。炭素と比べると、メタンが大気中に留まる時間は短い。その時間がどれくらいかという点では専門家の間で意見が異なるが、メタンは海水の温暖化に大きく影響しているという研究もある。
食品の無駄を減らせ
論文の食生活に関するガイドラインには批判もあるが、食品の無駄を減らすべきだという提案は広く受け入れられている。米国だけでも、30%近くの食品が無駄に捨てられている。
論文は、廃棄量を減らすために消費者と生産者の双方ができることを提案している。生産者側では、保存技術の向上と汚染の発見を容易にする技術が、消費者には啓蒙活動が効果的だ。
食習慣を変え、食べ物の無駄を減らすことに、腰が引ける人は多いだろう。だが、『101 Ways to Go Zero Waste(無駄をなくす101の方法:未邦訳)』の著者キャスリン・ケロッグ氏は、毎月250ドル(約2万7500円)もあれば生活できるという。
「工夫すれば、食べ物を無駄なく使い切る方法はたくさんあります。人々は、その方法をただ知らないだけだと思います」。たとえば、野菜の各部位の調理法を学び、冷蔵庫に何があるか常に頭に入れておくとよい、とケロッグ氏はアドバイスする。
とはいえ、米カリフォルニア州在住のケロッグ氏は、自宅のすぐ近くに農家の直売所があるという恵まれた環境にある。食料品店や市場が近くにない、いわゆる「食の砂漠」に住む人々にとっては、新鮮な果物や野菜を手に入れることは難しい「私たちが提案する行動は全て、今実行できるものばかりです」とファンゾ氏は言う。「実現困難な未来の技術ではありません。ただ、大規模に実施されていないというだけです」