アメリカの雑誌、WIREDが、テスラがトレーラーを牽引するための電動トラック発表の記事を載せていたが、サイバートラックにしろ、このトレーラをけん引するトラックにしろ、イポック・メーキングで印象が強い。トレーラー構成にしても、自動運転はサポートされていると言う。
発想が大胆だが、その大胆さは我々日本人にも参考になる。以下、WIREDの記事:::::::::::::::
イーロン・マスクは、いつも大きな夢をもってきた。そのなかでも最大規模の「夢」が、11月16日(米国時間)に発表した完全電動セミトレーラー(大型牽引トラック)の「テスラ セミ(Tesla Semi)」だ。約36トンを輸送可能で、巨大なバッテリーによって1回の充電で約805kmを走行できる。そして自動運転にまで対応する──少なくとも幹線道路では。
このセミトレーラーを、マスクは2019年に製造開始すると断言した。
テスラ セミは16日夜、カリフォルニア州ホーソーンにあるスペースX本社で初公開された(記事の下部に発表会の動画あり)。これはマスクにとって、惑星を蝕む化石燃料の存在を人類に忘れさせ、電力という福音もたらすミッションの最新の一歩にすぎない。もちろん、トラック業界が新しい運送手段に切り替えるタイミングであるとマスクが説得できれば──そして実際にそれを生産することができれば、である。
トラックのもつ環境への影響力
テスラは電気自動車(EV)の高級セダン「モデルS」を製造し始めてから、5年で約20万台を販売した。米国では2.5億台以上の乗用車が走っていることを考えれば、テスラによる影響はほとんどゼロだ。仮に「手の届く」EVである「モデル3」の生産を拡大したとしても、このシリコンヴァレーの自動車メーカーが人類の運送方法を変え、排気ガスの減少幅を大きく拡大していくには、まだ非常に長い時間がかかるだろう。
そうしたなか、とりわけ排ガスの排出量が多く“有害”とされるトラックは、こうした目標を達成する効率的な方法になる。「大型車は走行する自動車のほんの一部ですが、排気ガスの大きな部分を占めています」と、「憂慮する科学者同盟」でクリーンカーを研究するジミー・オディは言う。
カリフォルニア州では、大型車(トラックとバスを含む)が自動車全体の7パーセントを占めるが、輸送に関連する温室効果ガスの排出量の20パーセント、そして窒素酸化物(NOx)の排出量の3分の1を産み出しているという。そして、それらは喘息の発作や呼吸器疾患につながっている。
つまり、ディーゼルの代わりに電気で動くトラックが、この地球とそこに生きるすべての生物の健康状態に桁外れの影響力をもつのである。なかでも18輪の大型トレーラーは、その力を倍増させる究極の存在となる。マスクは計算した。電気トラックの領域に多くのプレーヤーが進出しているが、テスラほど知名度があって国全体の注目を集め、影響力をもつものはいないのだ。
トラックの運転席にも巨大スクリーン
テスラ セミの外観を見てみよう。運転台は炭素繊維製で、滑らかな曲線を描いている。貴重な電力を有効活用して走行可能距離を稼ぐには、空気抵抗を減らすことが極めて重要になる。テスラによると、セミは一部のスポーツカーよりも効率的に風を切って進むのだという。
その運転台をのぞき込むと、テスラが自動車を再設計する方法を知っていることに疑いの余地はない。あの有名なスーパーカー「マクラーレン F1」(マスクはピーター・ティールとドライヴしている途中に衝突するまで1台を所有していた)のように、運転席は運転台の中央にある。そして右後部には折りたたみ式の座席が用意される。
運転台の先端には大きなディーゼルエンジンがないので、垂直に切り落とされたようになっている。運転席はかなり前方に配置されており、トラックのすぐ前の地面を見下ろせる。トラック運転手にしてみれば“人間的”な設計になっており、頭上には物入れが、そして少なくとも4つのカップホルダーがある。
運転台の高さは約2メートルで、ほとんど誰でも車内で立ち上がれる。前方から逆向きに開くドアは運転台の下から上まで大きく広がり、出入りが非常に簡単だ。室内には15インチのタッチスクリーンが左右に1台ずつ配置されており、それらでリアルタイムの走行状況や使用時間といったデータ、そしてカメラが写した死角の状況を確認できる。
目に入る唯一のボタンはハザードランプのスイッチである。それ以外はすべてスクリーンか、3本スポークのハンドルから出た2本のレヴァーで行う。
テスラならではの自動運転も安全装備も充実
テスラはまた、安全性に関する取り組みも強化している。バッテリーは頑丈になっており、衝突時の爆発や発火などが起きるのを防ぐ。強化ガラスの窓は欠けたりひび割れたりせず、車載センサーは事故の原因になるジャックナイフ現象の兆候を感知し、すべてのタイヤの動きをコントロールして車体を正常な状態に保つ。
そしてもちろん、このトラックは自動運転技術「エンハンスト オートパイロット」機能を搭載する。このため幹線道路においては同一車線の自動運転が可能だ。車体前方にはレーダーが組み込まれ、いたるところにカメラが装着されている。運転台上部後方にある小さな1組のヒレ状の突起もそうだ。
バッテリーの容量は非公開だが、高さ約90センチの空間を占め、前タイヤから2列目のタイヤにわたって広がる。運転台の後方には、モデル3と同種の電気モーターが4個あり、それぞれ2個が車軸ごとに使われる。モデル3のモーターが1つ258馬力に相当すると記述している米環境保護庁の文書から推定すると、セミは1,032馬力に達する計算だ。
このパワーは、ディーゼルエンジンを積んだ同種のセミトレーラーで得られる動力の2倍に相当する。とはいえ、トラックで本当に重要なのはトルクである。テスラはこの数字も明らかにしようとしないが、停止状態からの加速にかけては電気モーターがずば抜けているのは疑う余地はない。
セミトレーラーが電動化されることの意味
すべてが素晴らしいと言えるが、マスクはそれを大量に売らなければならない。これまでに販売が彼の問題になったことはないが(結局50万人がモデル3を予約し、数千人がプロトタイプを見たりスペースを確保したり最終価格を知ったりする前に注文した)、トラック運転手はもっと難しい顧客である。
「新たなソリューションを受け入れる企業はたくさんあります」と、ワシントン大学のサプライチェーンや物流の専門家であるアン・グッドチャイルドは語る。しかし、運送業界は実験的な取り組みを好まない。「毎日の業務でそれを試したがる人はほとんどいません」と、グッドチャイルドは指摘する。
実験的なソリューションをいち早く導入する者はいない。つまり、格好いいものを求めているわけではないのだ。初期費用から燃料、維持費、非稼働時間(ダウンタイム)まで、すべてからなる所有の総費用で決めるのである。「本質的には儲けのような製品を提供することになります」と、大手商用車メーカーであるナヴィスターの先端パワートレイン技術部門長、ダレン・ゴスビーは言う。
テスラの大型セミトレーラーには、燃料コストと維持費で強みがある(電気はいつも化石燃料よりかなり安価だ)が、非稼働時間が問題になる可能性がある。マスクは、走行距離にして約644キロ分を30分でチャージできる充電器を用意するというが、こうした高速充電には専用のインフラが必要になる。そこまでの能力をもつ充電ステーションを国中の十分な数の場所につくり、いくつかの走行ルートを形成できたとしても、運転手はディーゼルエンジンで動くセミトレーラーより長く停車せざるを得ない。これは不利な点だ。
おそらくここでの最大の疑問は、なぜテスラは長距離市場を目指しているのかだ。「(EVにとって)最も効率が悪い走行方法は、時速約105キロ程度を維持して走り続けるものです」とゴスビーは言う。幹線道路を走行し続ける長距離トラックであれば、回生ブレーキで回収したエネルギーを貯められる長所を骨抜きにしてしまう。それに州をまたいだり国中を移動したりするには、充電インフラがあちこちに広がっている必要がある。
「EVにとって最高の使い方は長距離移動ではなく、おびただしい回数の停車と発車を繰り返すことです」と、ゴスビーは語る。つまり、市街地を動き回って配送や集荷を行うトラックである。このようなトラックは、幹線道路で自動運転させるというテスラの強みを生かせるとはいえないが、電気駆動である多くのメリットを生かせる。
そこまで遠くに行かず、毎晩同じ場所で充電でき、しょっちゅう停車して大量のエネルギーを取り戻せる。そしてその作業をしているディーゼルトラックが現在、人が住んでいる地域のほとんどを汚染しているのだ。
イーロン・マスクは誰にも止められない
マスクは、長距離トラックの運転手が求める経済性を強調している。約160kmの走行ルートでは、テスラ セミは約1.6kmごとにたった1.26ドルの電気代しかかからないが、ディーゼルトラックは1.51ドルの燃料代が必要になると、マスクは言う。それらの数字の根拠は明確ではないうえ、マスクはトラックの価格を示していない。このため、おそらく高額であろう初期投資を分割返済するために、どれほどの時間が必要なのか知るのは難しい。
最後にもうひとつ疑問がある。一体どうしてこの男は、彼が知る業界とはまったく異質の業界で、まったく新しい種類の自動車をつくり始めるために、いまがちょうどいいタイミングだと考えているのだろうか。
35,000ドルという「手の届く」価格のモデル3で、テスラはようやく本当の自動車メーカーになろうとしている。だが、その生産は予定より少なくとも数カ月遅れている。テスラの株価は下がり続けており、その間に性差別や人種差別に関する訴訟に直面している。本当にいまが電動トラック市場に参入するタイミングなのだろうか。
仮に違っていたとしても、マスクが決めたことは止められない。なにしろ、人類を火星に移住させ、都市間ロケット旅行を開始させ、ロボットによる世界の終焉を回避し、トンネルのネットワークで交通網に革命を起こし、超音速で疾走するチューブ内の乗り物に人々を詰め込もうとしている男なのだ。
こうした仕事の“山”に、数台のトラックを放り投げても大きな違いはないだろう。それがうまくいけば、マスクは人類の救済にまた一歩近づくことになるのだから。