日本最古の百貨店と家電量販チェーンが結びついた。
百貨店首位の三越伊勢丹ホールディングスは11月13日、基幹店の1つである日本橋三越本店に家電量販店の「ビックカメラ」を誘致すると発表した。
ビックカメラは新館6階フロアに、広さ約1200平方メートルの店舗を2020年春にオープンする。機能性やデザイン性の高い高級家電を取りそろえ、日本橋三越本店のコンシェルジュやスタイリスト(販売員)と連携して、顧客に商品を提案する。三越伊勢丹が店舗に家電量販店を受け入れるのは、初めてのケースとなる。
老舗百貨店と家電量販店は不釣り合い?
今回の三越伊勢丹の発表に対して、百貨店関係者は一様に首をかしげる。「日本橋三越本店とビックカメラは、組み合わせとしてはマッチしないのではないか」(ライバル百貨店の中堅社員)。
業界関係者が疑問を持つのも無理はない。百貨店は高級感を大事にする。とくに、日本橋三越本店は、祖業である呉服屋「越後屋」発祥の地に立つ歴史ある店舗だ(越後屋の創業は1673年)。店頭に商品を陳列し、現金で販売をする日本の小売業態のスタイルは、この越後屋が広めたものだ。
その後、呉服屋から百貨店へと進化していく中で、中心顧客である富裕層に対して丁寧な接客を提供することで長期的な関係を構築してきた。
このような長い伝統を持つ百貨店と低価格を訴求する家電量販チェーンは、確かに不釣り合いのようにも映る。
また、百貨店業界では近年、百貨店が商品企画や品ぞろえを決める自主運営の売り場を縮小し、テナントを誘致する賃貸形式に移行する店舗が増えている。例えば、大丸松坂屋百貨店を擁するJ.フロントリテイリングは「脱百貨店」を標榜し、賃貸形式への移行を進めている。
2017年に東京・銀座に開業した商業施設「GINZA SIX」は、テナントから賃料を得る不動産ビジネスに特化した施設だ。
三越伊勢丹は自主運営の売り場にこだわってきたが、今回のビックカメラは賃貸形式での入居となる。そのため、三越伊勢丹もこうした業界の流れに沿って、今後は賃貸形式を増やしていくようにも見える。
欧米で増える「高級家電」売り場
しかし、ビックカメラの入居は三越伊勢丹全体の方針として、賃貸方式への移行を意味するのではない。「あくまで、品ぞろえ強化の一環」と三越伊勢丹は位置づける。三越伊勢丹ホールディングスの杉江俊彦社長は「ビックカメラには、今までとは違う業態を考えていただいている。高級家電をお客に売ることを主眼にしている」と語る。
そのうえで、「欧米の百貨店では今、家電売り場が増えている。家電が進化していて、『高級家電』というジャンルが確立されている。とくに、欧州の百貨店は高級家電が自分たちのビジネスになることを理解し始めた。日本でももちろん、高所得者層も家電を購入される。そういったお客を、われわれのマーチャンダイジング(商品政策)で取り込んでいきたい」と話す。
さらに、杉江社長は日本橋地域に家電販売店が必要であることを強調する。
「マーケット調査をしてみると、日本橋エリアに家電店がないことがわかった。地域の皆さまが困っているので、街に必要な機能を持つ必要性がある。また、百貨店は衣料品販売を拡大して儲かるビジネスモデルをつくってきたが、そこから拡縮(変化)してこなかった。われわれは、アパレルにこだわっているわけではない。売れないのであればそこを縮小して、時代に合った、売れるものを入れていくのが、小売業の使命だと思っている」
杉江社長がこのように考えるようになったきっかけは、1年ほど前のある出来事があった。
三越伊勢丹は、東京・新宿の土地・建物をビックカメラに貸している。その関係からビックカメラの宮嶋宏幸社長が杉江社長を訪問し、「ビックカメラは高級家電を扱っていて、品ぞろえはあるが、お客に訴える場所がない。百貨店を利用する富裕層は家電量販店にはあまり来ず、高級家電に触れることがない。みすみす商機を逃している」と訴えた。
欧米の百貨店が高級家電売り場を増やしていることを知っていた杉江社長は、宮嶋社長の話に「商機がある」と判断した。ただ、「高級家電を自分たちで仕入れて販売するのはとうてい無理」(杉江社長)なため、プロジェクトチームを設置して検討を重ね、日本橋三越本店にビックカメラをテナントとして入居させることになった。
高級家電誘致は理にかなっている
小売業界に詳しい、ある経営コンサルタントは、「日本橋三越本店が品ぞろえ強化の一環として高級家電を取り入れることは、何も驚かない。高級家電のニーズは必ずある。例えば、オーディオメーカーのBOSEは高音質オーディオ機器などを売っており、こういったものを百貨店にそろえることは理にかなっている」と語る。
歴史を振り返ると、百貨店は品ぞろえを柔軟に増やすことで業容を拡大してきた。江戸時代は衣服を中心に扱い、「百貨店化」が進んだ明治時代の後半ごろからは、輸入品への願望が高まっていることを受け、欧米の化粧品や帽子、幼児用服飾品などを取りそろえた。
家族連れの顧客が増えた大正時代には食堂を設けて、和食やぜんざいなどを提供した。そして、1923年に発生した関東大震災を契機に、一般の消費者が生活で必要なものをそろえる必要性を実感し、食料品や一般雑貨、玩具といった日用品を増やしていった。かつては時代の変化やニーズを捉えることが巧みだったのだ。
ネット通販の台頭などの消費者行動の変化をうまく捉えられず、百貨店各社は売り上げが右肩下がりの苦しい状況にある。前出の百貨店中堅社員が指摘したように、三越本店へのビックカメラ誘致は「安売りの家電チェーンが入った」というイメージで顧客に受け止められる懸念もあるが、思惑どおりに高級家電という新しい売り場を確立できれば、販売回復への打開策となる可能性を秘める。
今回のビックカメラ誘致は、業界全体が「百貨店が求められているものは何か」を再考察するきっかけになるのかもしれない。