日経ビジネスがアメリカの新型コロナ災禍による大量失業とそれがトランプ再選に追い風になるのではという記事を載せていた。『「経済でだって人は死ぬ」、大量失業でもトランプ氏に追い風?』それにしても、アメリカの失業者数は、ものすごい。失業保険を申請した人の数が、新型コロナの感染拡大が深刻化した3月中旬からの5月2日までに、その数は実に3350万人にも上る。2月に3.5%だった失業率は、4月に14.7%に跳ね上がった。その中で、この大量失業者発生がトランプ大統領再選に追い風ではないかと指摘している。日本でも、現在は何とか持ちこたえている企業が人員整理に手を付けていないから、大量失業者にはなっていないが、たぶん、数か月先には、持ちこたえられなくなり、大量失業にならざるを得ないのでは?
以下、日経ビジネスからの引用::::::::::::::::::::::::::::
新型コロナウイルスの感染拡大は人々の生活を一変させた。収束後もすべてが元に戻るわけではなく、人、企業、国などが営みを続けるうえでの新たな「常識」となって定着しそうなものも多い。各地で芽吹いている「ニューノーマル」を追う。米国編第1回のテーマは「大統領選の行方」。
「経済でだって人は死ぬ」
米ロサンゼルス(LA)でコンサルティング業などを手掛けるアンドリュー・リーダーさん(39歳)は、こうさみしそうに話し始めた。母親が日本人で父親は米国人。ドナルド・トランプ米大統領を支持する若手グループをまとめるリーダーの一人だ。
全米50州のほとんどで3月下旬から、各州の知事が次々と感染拡大を防ぐための「Stay-at-home Order(外出禁止令)」を出し、米経済は静止した。
リーダーさん自身の仕事はもちろん、両親が経営するすしレストランも大打撃を受けた。外出禁止令下でレストランやカフェなどの飲食店は、店内での飲食の提供が禁じられている。デリバリーやテークアウトは許されているものの、LAの高い賃料を払うには十分ではない。両親は毎日、店の片隅で支払い請求書を数えては、天を仰ぎ途方に暮れているという。
「見ていてかわいそう。彼らのようなスモールビジネス(中小企業)が受けたダメージは計り知れない。LAの超有名レストランもどんどん廃業している。外出禁止令が解かれても、元には戻れないかもしれない」
労働階級全体を襲う未曽有の「大量失業」
米ジョンズ・ホプキンス大学によると、米東部時間5月11日午前11時点の米国の累計感染者数は約133万人、死者は約7万9000人。世界ダントツの感染者と死者を出した米国が今、経済再開に向け揺れている。
米国では、国民の安全や公衆衛生にまつわる政治的判断の権限が、連邦政府ではなく州政府にある。都市の閉鎖を決めるのも州なら、経済再開を決めるのも州だ。この国の成り立ちそのものが、パンデミックという、対応スピードが物を言う危機の前で足かせになっている。
「経済を再開して国を取り戻さなければならない。さもなければ人はもっと死ぬことになる」
5月5日、トランプ大統領は地元テレビ局のインタビューに答え、国民や州知事にこう呼び掛けた。4月末頃から、テキサス州やジョージア州、フロリダ州など20以上の州が業種を限定した再開に着手し始めている。それでも大統領は「もっと早く」とせき立てる。
失業者がいまだかつてないスピードで増えているからだ。2020年4月26日~5月2日までの1週間で、317万人が失業保険を申請した。新型コロナの感染拡大が深刻化した3月中旬からの6週間も加えると、その数は実に3350万人にも上る。2月に3.5%だった失業率は、4月に14.7%に跳ね上がった。
こう予想するのは地政学を専門とするユーラシア・グループのイアン・ブレマー社長だ。賃金の安い労働者だけでなく、労働階級全体に景気後退のインパクトが広がるとの見立てだ。
実際、飲食店や小売店、旅行業などが中心だった人員削減の波も、今ではウーバーやリフトといったライドシェア大手に波及している。製造業や金融など、その他の業種に広がるのも時間の問題だ。
「労働階級総貧困化」――。コロナ後の米国ニューノーマルの1つめは、そんな社会構造の変化ではないか。
となると気になるのは、11月に控える大統領選の行方。16年の選挙でトランプ大統領は、自動車産業や農業のお膝元である中西部を中心とする「ラストベルト」で、白人労働者階級の人気を勝ち取り当選を果たした。この層を直撃する「今世代最悪のリセッション(景気後退期)」(ブレマー社長)を、どう取り繕うというのか。
この謎を解くヒントを冒頭のリーダーさんがくれた。
「人生どん底でもトランプ支持は変わらない」
リーダーさんは、自身も両親も都市閉鎖でほぼ収入がゼロになったにもかかわらず、トランプ支持の考えは全く変わらないと言う。しかも、リーダーさんの両親は、3兆ドルもの景気刺激策の一環で政府が中小企業向けに運営資金を助成する「給与保護プログラム(PPP)」に申請したが、小切手はまだ届いていない。もはや崖っぷち。それでも支持を続ける理由は何なのか。
一つは、新型コロナが発生したこと自体はトランプ大統領の不可抗力だったことだ。「彼は彼にできることを精いっぱいやっている」とリーダーさん。そして、こう続けた。
「ウイルスは中国から来た。中国がはじめに封じ込めていれば、米国は今ごろトランプ政権が達成した好景気に沸いていたはずだ」
気をつけなければならないのは、だからといってリーダーさんが、中国や諸外国を敵視する「白人至上主義者」ではないことだ。彼以外にも全米各地のトランプ支持者数十人を取材したが、支持者にはLGBTQ(性的少数者)や有色人種の人たちも含まれ、ほとんどの人が排他的な思想を持ってはいなかった。このリーダーさんの発言は、彼にとっては単なる「事実」なのだ。
トランプ戦略と新型コロナの「奇妙な調和」
新型コロナによる災禍は、トランプ大統領が16年の選挙戦から掲げてきた戦略に合致し、むしろ追い風となる可能性が高い。
中国に対してこれまで貫いてきた「強硬姿勢」がその一つ。中国が発祥とされる新型コロナは、国民の批判の矛先を自身からそらすのに好都合だ。
実際、政権は、中国・武漢の研究所の手違いでウイルスが漏れたとする説の証拠をつかもうと、調査を本格化させている。マイク・ポンペオ国務長官も「証拠を見た」と発言して国民感情を揺さぶる。
一方、大量失業を支えるべく拠出する3兆ドルの景気刺激策は「もろ刃の剣」だ。国民が不満をもたないように十分なカネを投下することは再選を考えれば必要だが、連邦政府を財政難に陥れることにもつながる。AP通信の試算では、20年の連邦政府の赤字額は対GDP(国内総生産)比で第2次世界大戦以来初の100%以上となる見通しだ。
民主党候補であれば、赤字を補填する手段として大企業や富裕層への増税を掲げるはずだ。だが、トランプ大統領はここでも「中国に高い関税をかける」「中国に新型コロナの被害を弁償してもらう」などと矛先を中国に向けるに違いない。こうした姿勢は労働者階級だけでなく、企業や富裕層にも魅力的に映る。
さらに大量失業の新時代では、トランプ大統領がゼネラル・モーターズやフォード・モーターといった製造大手に強く「国内回帰」を促す姿勢も、これまで以上に高く評価されるだろう。ポストコロナで、より多くの国民が求める方向性に、トランプ大統領が採用してきた戦略がぴったりとあてはまるのだ。
ただ条件はある。経済再開が速やかに進まず、あるいは選挙前に感染の第2波がやってきて再び静止状態に入れば、話は変わる。もしそうなれば、トランプ大統領の危機対応力に疑問符が付き、対抗馬のジョー・バイデン前副大統領に票が流れる可能性がある。選挙戦はギリギリまで何が起こるか分からない。それはトランプ大統領自身が16年に実証している。
いずれの候補が当選しても、社会構造が変化した米国を救い出すためには「雇用の創出」が欠かせない。