EVが普及した先には、EVの電池をつなげて仮想の発電所として使う問い話がトヨタや日産から出始めた。
地域のEVを束ねて太陽光などで発電した電力を蓄え、夜間にそれを使うというアイデアが生まれた。このオペレーションがうまくいくと、そこに発電所が存在するのと同じことになる。これを「バーチャルパワープラント(VPP)」、つまり仮想の発電所と呼び、同社は既に東京電力や関西電力などと実証実験に入っているという。
バーチャルパワープラント(VPP)実証実験の概念図。「アグリゲーター」は電力会社と一般利用者の間に位置する事業者で、電力の需要と供給を最適化する役割を担う
EVにできることは、電力を蓄えることだけではない。電力を運ぶこともできる。林氏はそんな事例をいくつか挙げた。
「長崎県には、赤潮発生を確認するための水質検査に日産のEVを使っている事例があります。EVにはコンセントがあるから、試験場まで海水を持ち帰らなくても、海岸のその場で検査ができる。また、風力発電の風車の点検をするために、EVとドローンを有線でつないで給電しながら飛ばしているという事例もあります」
仮想の発電所であり、移動発電所にもなるEVは、確かに暮らしを大きく変える可能性を持っている。EVの未来と可能性をしっかり見るために、再びフォーラムの会場に戻りたい。
EVを売るだけではない、日本各地での日産の取り組みを紹介する同社専務執行役員の星野朝子氏
EVで社会を変えるための、さまざまな取り組み
冒頭に紹介したフォーラムで、スキラッチ氏に続いて登壇したのが日産自動車で専務執行役員を務める星野朝子氏。
「現在は100年に一度の変革期であり、EVは単なる移動手段ではなく社会を変える可能性を持つ存在です」と冒頭で述べてから、日産による未来社会への提言を実現するための具体策を示した。
星野氏はまず、さらなる充電設備の充実が必要との見方を示した。その一例が、電機メーカーのNECとマンションデベロッパーの大京と連携し、マンションへの充電器設置を進める事例。また、イオンと協力して、ショッピングモールにおける充電設備の拡充を進める取り組みも紹介した。
EV用のリチウムイオン電池の弱点のひとつは、経年劣化すること。使い方に大きく左右されるので「何年・何万キロで交換」とは一概には言いにくいが、長い間使っていると電気の減りが早くなるのはスマートフォンと同じだ。
そこで日産は、福島県浪江町にバッテリーの2次利用を行うための専用工場を設立したという。EV用の使用済みリチウムイオン電池を、大型蓄電装置やフォークリフトなどで使えるように再生するのだ。EV用の電池を再生するための専用工場は、日本初とのことだ。
公共交通や官公庁の車両にEVを使う取り組みも進めており、九州産交バスの熊本営業部では「よかエコバス」というネーミングで、中古バスをEV化している。また、熊本県のおしろタクシーでは日産リーフを導入しているほか、福岡県警ではパトカーに日産リーフを採用している。ちなみに、夜間も静かに走ることから "EVパトカー" は好評だという。
またトヨタもe-Palletoコンセプトを出しており、日産のVirytual PowerPlantのように州として発電所イメージとは異なるが、EVと自動運転で、ウイごく色々な店舗を構成するもので、ともにEVを売るだけでなく、それを用いた応用にビジネス展開をしようとしているように思われる。
トヨタ自動車は移動、物流、物販など多目的に活用できるモビリティサービス「MaaS」(Mobility as a Service)と、それ専用となる次世代電気自動車(EV)で構成される「e-Palette Concept」(以下e-Palette)をCESで発表して出展した。
「e-Palette」は、電動化、コネクティッド、自動運転技術を活用したMaaS専用次世代EV。トヨタは「移動や物流、物販など様々なサービスに対応し、人々の暮らしを支える「新たなモビリティ」を提供したい」としている。将来は、複数のサービス事業者による1台の車両の相互利用や、複数のサイズバリエーションをもつ車両による効率的かつ一貫した輸送システムといったサービスの最適化を目指す。また、サービス事業者のニーズに対応した内装を設定することで、例えば移動中にサービスを提供し、より有意義な移動時間へ変化させるなど、e-Paletteが新たなモビリティサービスの創出に貢献することを想定している。
お店があなたのもとまで来てくれる
トヨタ自動車の代表取締役社長 豊田章男氏はプレスカンファレンスのスピーチにおいて、このe-Paletteを「eコマースやそれを超えたモビリティソリューションのコンセプト」と称し、「MaaSビジネスアプリケーションに対するトヨタのビジョンを示した一例」とした。また「e-Paletteは電気自動車であり、ショーファーモードによる自動運転によって制御されます。またパートナー企業の希望によっては、代わりに各社独自の自動運転ソフトウェアを搭載することも可能です」「ライドシェア、物流、輸送、リテールから、ホテルやパーソナルサービスに至るまで様々な用途をサポートするオープンかつフレキシブルなプラットフォームであり、現在は、お店まで行かなくてはいけませんが、将来はe-Paletteにより、お店があなたのもとまで来てくれるのです。」と説明した。