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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

「渋い」作品が目立った国展2016の工芸・織

2016年05月22日 | 美術展など
今年も5月の連休前後に開催される国展を見に、六本木の国立新美術館に出かけた。
エスカレーターに乗り3階の工芸の部屋に近づくと、今年はどんな作品に出会えるのかと心がわくわくする。


エンタランス(写真は3階ではなく1階)
とくに好きなのは「」だが、わたしはパステルカラー、鮮やかな緑やブルーの作品、あるいは鮮烈な赤、上品な白の作品が好みだ。それが今年は渋い色の作品が目立った。
たとえば大物のルバース・ミヤヒラ 吟子「夢幻」は黒に近い濃いグレー、小島秀子はその名も「Monochrome」というグレーの濃淡の作品だった。どちらもシックな感じがした。その他、川村成「つながる」、斉藤佳代子「新しい風」、葉山孝子「夜明け」、稲垣幸子「湖上の月」なども同じく渋い傾向の作品だった。

左・小島秀子「Monochrome」、右・ルバース・ミヤヒラ 吟子「夢幻」
いつも好きな傾向のものでは、杉浦晶子「美ら海」のグリーンの水玉、識名あゆみ「ジャスミンの奏」の細かい花柄が好きな作品だった。また多和田淑子「花織着尺 秋陽」の燃えるようなオレンジ、浅倉広美「桃の節句」の太いオレンジのライン、今井洋子「初音」の鮮やかな緑のラインが強く印象に残った。
堀絹子「藍香」(会友賞 新準会員)もしっかりした構成で、好感を抱いた。

杉浦晶子 「美ら海」
笠原博司 「ケルトの庭」、山下健「紙布道頓織 帯地」、大城幸司「絣着物斜め格子」など男性作家の作品も並んでいた。だからどうだ、といわれても「ちょっとうれしい」というくらいしかないのだが・・・。
残念ながら、今年も人間国宝・宮平初子さんは不出展だった。「首里の織物――優雅・彩る技と心( 沖縄タイムス社 2000.11)という著書があるようなので、機会があれば国会図書館ででも閲覧してみたい。

では熊谷もえぎ「藤」はいつもながら可愛らしい。今年は赤い帯を結ばず肩から吊り下げていたが、斬新な感じがした。
森田麻里「ガーデン」は植物図鑑を眺めているようで楽しかった。
陶磁器では、やはり自分の趣味でまず白磁に目がいく。阿部眞士「白磁手付壺」は色も形も美しい。瀧田史宇「影白磁唐草文大壺」、川野恭和「緑線縞深皿」、田代里見「白磁深皿」などいくつか白磁の作品がありうれしかった。堀中由美子「釉彩陶箱」は、織や染の作品にありそうな可愛い色遣いで、陶芸でもこんなことができるということがわかった。

堀中由美子「釉彩陶箱」
木工では、野村浩「拭漆倹飩式器局」は小さな作品だが、まとまりがよかった。松崎修「塗分すみ丸盛器」は、染の柚木沙弥郎さんのような黒と赤の大胆なデザインだった

工芸以外の部門も、印象に残った作品を紹介する。
写真では、まず相澤實「奥谷博氏(洋画家)」、秋葉健「平出豊氏(彫刻)」の2つの肖像写真に目がいった。人間性、個性が画面からしっかり伝わってくるからだろうか。
その他、野澤忠「遥かなるモンブラン」は山の厳しい自然が、和田藤郎「繁栄の裏側」は廃墟のような家屋と荒れた庭が、高橋和子「蝶々夫人」は女性・帆船・蝶・海の渦のシュールレアリスティックな構成が、印象的だった。小川俊三「有頂天」はアリスの絵本のようなトランプのハートの2、ハートの3、クローバーの2の3人(3枚?)がチョビ髭を生やし斧をもった姿で都会のショウウィンドウに入っている不思議な画像だった。

茂木桂子「Flying ?」
絵画はボリュームがすごいので例年流してみているだけだが、比較的社会のできごとの影響を反映する部門なので、戦争法施行の現在を象徴するような作品がないかみてみた。しかし、茂木桂子「Flying ?」という大型ヘリコプター(機種などはわからないがわたくしには、オスプレイではないものの軍用ヘリにみえた)の着陸くらいしか見当たらなかった。
もちろん、瀬谷豊「小さな楽園」など不安をテーマにした作品はいくつもあった。
人の顔を並べた瀬川明甫の作品はいつも印象深いが、今年のタイトルは「漂流」。14人の老人、5人の子ども、6人の女性・母親、2人の男性の顔を描いたものだが、こちらの気持ちのせいかもしれないが、不安な顔や、これからくる悲劇に決然と立ち向かおうと覚悟した顔などが多いように思えた。
祖父江豊「桜島2016-1」は今年の正月ごろニュースになった桜島の噴火だが、赤い山が怒っているようで迫力のある絵だった。
横江昌人「僕の秘密の部屋・ダイオウイカ」は、いくらなんでも水族館の水槽にダイオウイカは泳いでいないだろうという不思議な絵だった。

水を飲む小象 柴田善二
彫刻は入口付近にあるので、比較的熱心にみた。具体的なモチーフの作品が多かった。野外彫刻は、サイズが大きく例年は抽象的な作品が多かったが、たとえば菊地伸治「北の星へ登る」(タイトルを書き間違えていたらすみません)は天まで届くような高い階段が石に刻まれていた。粕谷圭司「昔、むかし」は木目を生かしところどころ木や林もあり、昔話に出てくる山のようだった。
柴田善二「水を飲む小象」はサイズが大きいだけでなく、どっしり重みを感じさせて迫力があった。
神山豊「OCEANS "Mermaid"は、「メインシャフトが会場内で壊れ、残念ながら動かせない」との掲示があり動かなかった。たしかに残念なことだった。昨年はOCEANS "BlueWhale"で鯨が動いたのだが。
版画はかなり疲れていてざっとみただけなので、感想が書けず申し訳ない。
なお今年は90回の記念展だった。それで5部門それぞれで90回記念展賞が贈られた。また記念展だからか、資料として昔の大物作家の作品集を並べてあった。

☆帰りに東京タワーの脇を通りかかると、鯉のぼりが群れをなしてはためいていた。
333という数字にちなみ333匹もあり、「春の風物詩」になっているとか・・・。
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