雨上がりの11月20日、日曜の夜、中野の東京都生協連会館で飯田哲也さんの「原発のない未来のつくり方」という講演会が開催された(主催:原発のない未来を!!なかのアクション)
飯田さんは、京都大学原子核工学科を卒業後、神戸製鋼、電力中央研究所などを経て現在環境エネルギー政策研究所所長。事務所はすぐ近くの「地元」だそうだ。
経歴から技術工学的なお話になるかと思ったら、意外なことに経済的、社会工学的なお話が中心だった。
原発のない未来のつくり方
飯田哲也さん(環境エネルギー政策研究所長)
●原点に立ち返る
3.11当日に何が起きたのか、そして福島はどんな状況か、まず原点に立ち返って考える。
3月11日わたくしはドイツにいた。大地震発生の報道とともに会議そっちのけでインターネットに釘付けになった。日本時間16時30分から官邸のHPで30分から1時間おきに緊急対策本部の発表が流れ始めた。22時35分の発表には「2号機の炉心損傷開始予想22時20分頃、RPV(原子炉圧力容器)破損予想23時50分頃 1号機は評価中」という、原子力を学んだ人間なら驚愕すべき事実が書かれていた。とんでもないことが起きている。圧力容器が壊れればメルトダウン以上のメルトスルーが起こる。スリーマイル島事故を超えチェルノブイリ並みの事故が起こりつつあることがわかった。その後政府は炉心損傷(メルトダウン)の事実を2か月近くたった5月6日に正式に認めた。翌日起こった水素爆発についても同じで、15時35分の爆発直前まで原子力安全委員会の斑目春樹委員長は爆発は絶対に起こらないと考えていた。しかし実際には起きた。原発事故で当初問題になるのは放射性ヨウ素だ。SPEEDIの解析データはずっと官邸や原子力保安院に届いていたというのに、飯館村の方向に避難し、沢の水を飲んだりおにぎりを食べた子どももいた。その結果福島の子どもの尿からセシウムが検出されることになった。
「想定外」という意味は、「考えたことがない」すなわち思考停止の状態をいう。戦時中「捕虜」は想定外だったので玉砕によりおびただしい「無用の死」を生んだが、その時代と何も変わっていない。
●電気は足りていた
原発を止めると電気が足りなくなる。原発を動かさないと経済が止まるという脅しのような文句が流布された。議論が混迷している。持続可能な社会という大原則をベースにして、短期的な問題と長期的な問題を切り分けて整理することが大切だ。
原発の安全性を確認した人はだれもいない。安全確認が最優先だ。電気が足りるかどうかという問題とはレベルが違う。
今年の夏の2か月間、東京電力管内では毎日15%節電して「暗く、暑く、がまん」を余儀なくされた。しかし本当はピーク時だけでよかったのである。猛暑だった2010年でも5900万kWh以上は年間5時間だけ、5500-6000万kWhが165時間(全体の2%)だった。ピーク時のみ価格を上げれば需要を減らせる。一方3-5時間という時間なら揚水発電で1000万kWh供給を増やすことができる。電気は実際には足りているので、原発を動かすかどうか厳しくチェックするべきである。
ストレステストという話がある。しかしストレステストは追加的な2階の増築部分の話だ。たしかに2階もみないといけないが、そもそも1階の根太が腐っていないかちゃんとみないと危ない。
●民主主義と市場の力で脱原発の期限を決める
原発をもう一度動かすには最低3つの条件がいる。
1つは新しい体制だ。たとえば後藤政志さんや田中三彦さんのような原子力のプロで、厳しくみる人にスタッフになってもらうこと。2つ目に、事故の原因をはっきりさせ、新しい安全基準をしっかりつくること、3つ目に後述する損害賠償保険の見直しである。
原発の設計寿命はもともと30年だった。それを根拠なしに40年に延ばし、さらに50年に延ばした矢先に地震が起きた。40年なら地震がなくてもどんどん原発が減る時期に当たっていた。原発を早く止めるためには、民主主義と市場の力、つまり社会の仕組みを使うしかない。ひとつは国民投票だが、ハードルが高いのでまず手の届く範囲、すなわちそれぞれの地域で住民投票を行う。
もうひとつは市場の力だ。原発はコストが5-6円/kWhと、安いという説がある。しかし設置コストは年々上がっている。たとえばフィンランドのオルキルオト3号機は「原発ルネッサンスの希望の星」といわれ2005年に3500億円の予定で建設が始まった。しかしいまや1兆5000億円といわれ、ドイツのジーメンスは09年に離脱し、フランスのアレバは経営危機に瀕している。コストアップの要因は安全基準が厳しくなったことと労働者の現場施工の質の低下だ。メルトダウン対策のコアキャッチャーや巨大な格納容器はカネがかかる。
また賠償保険の問題がある。福島原発の保険金は1200億円だが、被害金額は数十兆とも数百兆円とも推測される。ドイツで17基の原発の保険金680兆円として試算したところ、もっとも安くて16円/kWh、10年で回収するとすれば8000円/kWhのコストとなった。
原子力の安全リスクは現在の経済システムにのらないということだ。
●第4の革命・自然エネルギー
一方、石油、LNGなど化石燃料はピークオイルすると高騰する。アメリカは70年代にピークを迎え、ロシアもそろそろピークにさしかかる。そして中国が石油輸出国から輸入国になった。また地球温暖化のリスクもある。オーストラリアでは5年間干ばつが続く異常気象に見舞われた。そこで、人類史上、農業革命、産業革命、IT革命に次ぐ第4の革命といわれる自然エネルギーが注目される。
風力発電は2011年で累積1億9300kW、デンマークとカリフォルニアで始まり30年で原子力発電の半分まできた。太陽光発電は4300万kWだが、伸び方はさらに高く5年後に風力より早く原子力を追い越すと言われる。
理由は2つある。ひとつは市場が広がっているからだ。哲学とビジョンをもつ政治家が強い意志で自然エネルギーを推進し、政府が賢い政策を導入すれば昇り竜のように市場が広がる。ドイツ、カリフォルニア、デンマーク、スペインがそうだった。中国、インドなどが続き、日本は今年の8月26日、88番目に電力の固定価格買い取り制度を導入した。
10年前の02年に自然エネルギー市場は1兆円だったがいま22兆円、10年後には200兆円といわれる。しかし市場の大企業は、欧米、中国、インドで、日本は1社もない。日本のエネルギー政策の失敗が21世紀の産業づくりの局面にも現れている。
成長のもうひとつの理由はコストが下がったことだ。太陽光のコストは昨年1年で17%下がり、今年は前半6か月だけで11%安くなった。ドイツでは2001年ごろ買取価格は約100円だったが今年は29円、メガソーラーは22円で、今後も毎年10%ずつ下がる。
もちろん使う電気を減らすことも重要だ。まず「電気のこぎりでバターを切らない」心構えが必要である。ウランや石油を使って電気をつくるとき、電気になるのは100のうち40だけで60は温排水として捨てられている。せめて残った40は照明やパソコンなど電気でしかできないことに使い、暖房や給湯には、ホットカーペットや電気ストーブ、ヒーター型給湯といった電気機器を使わないことだ。たとえばスウェーデンのヨーテボリでは、壁を42cmの厚さにしたり三重サッシの窓にして暖房不要にしている。
もうひとつは、照明、冷蔵、洗濯といったエネルギーサービスをより少ないエネルギーで維持できる機器に置き換えることだ。たとえば照明器具をコンパクト照明に変えればエネルギー消費量は1/4になり、LEDならもっと下がる。
●いかに現実にイカリを下すか
問題は、こういうビジョンをいかに現実へしっかりイカリを下すかということである。
つくば市には回らない風車がある。環境省が2/3、市が1/3負担し5億円かけて作った風車は回らず住民監査の対象となった。農水省は2002年から10年間かけてバイオマス・ニッポンというプロジェクトを実施した。投入した金額は5000億円。その9割は「効果なし」、残りの1割は「意味がない」と政策評価された。なかには水が流れていない小水力発電実験というものまであった。どうしてこんなことになるのか。行政は補助金を出すことが政策だと勘違いし、東京のコンサルティング事務所が報告書だけ書いて逃げてしまうからだ。残るのはガラクタの山というわけだ。
こんなことにしないためには、行政も地域も信頼できる人を中心に据えてやることだ。その事例がデンマークのサムソ島にある。島で生まれたゾーレン・ハーマンセンが97年に島民出資、島民運営で始め、10年で自然エネルギー100%の島に変えた。
デンマークには狭い国土に6000基もの風車があるが、建設反対運動はほとんど起きていない。住民が風車を立ててよい場所とダメな場所を切り分け、地域の人が85%の風車を所有しているからだ。太陽光でもまぶしいという反対運動や訴訟が起きる可能性がある。
地域のなかでいかに便益のある形をつくるかが大事だ。小さなところから、仲間づくりをし、身の丈サイズのプロジェクトを始めていけば、より大きなことができる。10年もすればダイナミックな変化を日本中で起こしていくことができるだろう。
☆国民投票の基礎となる都民投票を実現する活動が始まっているそうだ。都民投票を行うには条例制定を知事に請求する必要がある。都民22万人の署名を集めないと請求すらできない。署名は12月開始予定だが、現在署名を集める人(受任者)を募集している。みんなで決めよう『原発』国民投票のこのサイトを参照いただきたい。
飯田さんは、京都大学原子核工学科を卒業後、神戸製鋼、電力中央研究所などを経て現在環境エネルギー政策研究所所長。事務所はすぐ近くの「地元」だそうだ。
経歴から技術工学的なお話になるかと思ったら、意外なことに経済的、社会工学的なお話が中心だった。
原発のない未来のつくり方
飯田哲也さん(環境エネルギー政策研究所長)
●原点に立ち返る
3.11当日に何が起きたのか、そして福島はどんな状況か、まず原点に立ち返って考える。
3月11日わたくしはドイツにいた。大地震発生の報道とともに会議そっちのけでインターネットに釘付けになった。日本時間16時30分から官邸のHPで30分から1時間おきに緊急対策本部の発表が流れ始めた。22時35分の発表には「2号機の炉心損傷開始予想22時20分頃、RPV(原子炉圧力容器)破損予想23時50分頃 1号機は評価中」という、原子力を学んだ人間なら驚愕すべき事実が書かれていた。とんでもないことが起きている。圧力容器が壊れればメルトダウン以上のメルトスルーが起こる。スリーマイル島事故を超えチェルノブイリ並みの事故が起こりつつあることがわかった。その後政府は炉心損傷(メルトダウン)の事実を2か月近くたった5月6日に正式に認めた。翌日起こった水素爆発についても同じで、15時35分の爆発直前まで原子力安全委員会の斑目春樹委員長は爆発は絶対に起こらないと考えていた。しかし実際には起きた。原発事故で当初問題になるのは放射性ヨウ素だ。SPEEDIの解析データはずっと官邸や原子力保安院に届いていたというのに、飯館村の方向に避難し、沢の水を飲んだりおにぎりを食べた子どももいた。その結果福島の子どもの尿からセシウムが検出されることになった。
「想定外」という意味は、「考えたことがない」すなわち思考停止の状態をいう。戦時中「捕虜」は想定外だったので玉砕によりおびただしい「無用の死」を生んだが、その時代と何も変わっていない。
●電気は足りていた
原発を止めると電気が足りなくなる。原発を動かさないと経済が止まるという脅しのような文句が流布された。議論が混迷している。持続可能な社会という大原則をベースにして、短期的な問題と長期的な問題を切り分けて整理することが大切だ。
原発の安全性を確認した人はだれもいない。安全確認が最優先だ。電気が足りるかどうかという問題とはレベルが違う。
今年の夏の2か月間、東京電力管内では毎日15%節電して「暗く、暑く、がまん」を余儀なくされた。しかし本当はピーク時だけでよかったのである。猛暑だった2010年でも5900万kWh以上は年間5時間だけ、5500-6000万kWhが165時間(全体の2%)だった。ピーク時のみ価格を上げれば需要を減らせる。一方3-5時間という時間なら揚水発電で1000万kWh供給を増やすことができる。電気は実際には足りているので、原発を動かすかどうか厳しくチェックするべきである。
ストレステストという話がある。しかしストレステストは追加的な2階の増築部分の話だ。たしかに2階もみないといけないが、そもそも1階の根太が腐っていないかちゃんとみないと危ない。
●民主主義と市場の力で脱原発の期限を決める
原発をもう一度動かすには最低3つの条件がいる。
1つは新しい体制だ。たとえば後藤政志さんや田中三彦さんのような原子力のプロで、厳しくみる人にスタッフになってもらうこと。2つ目に、事故の原因をはっきりさせ、新しい安全基準をしっかりつくること、3つ目に後述する損害賠償保険の見直しである。
原発の設計寿命はもともと30年だった。それを根拠なしに40年に延ばし、さらに50年に延ばした矢先に地震が起きた。40年なら地震がなくてもどんどん原発が減る時期に当たっていた。原発を早く止めるためには、民主主義と市場の力、つまり社会の仕組みを使うしかない。ひとつは国民投票だが、ハードルが高いのでまず手の届く範囲、すなわちそれぞれの地域で住民投票を行う。
もうひとつは市場の力だ。原発はコストが5-6円/kWhと、安いという説がある。しかし設置コストは年々上がっている。たとえばフィンランドのオルキルオト3号機は「原発ルネッサンスの希望の星」といわれ2005年に3500億円の予定で建設が始まった。しかしいまや1兆5000億円といわれ、ドイツのジーメンスは09年に離脱し、フランスのアレバは経営危機に瀕している。コストアップの要因は安全基準が厳しくなったことと労働者の現場施工の質の低下だ。メルトダウン対策のコアキャッチャーや巨大な格納容器はカネがかかる。
また賠償保険の問題がある。福島原発の保険金は1200億円だが、被害金額は数十兆とも数百兆円とも推測される。ドイツで17基の原発の保険金680兆円として試算したところ、もっとも安くて16円/kWh、10年で回収するとすれば8000円/kWhのコストとなった。
原子力の安全リスクは現在の経済システムにのらないということだ。
●第4の革命・自然エネルギー
一方、石油、LNGなど化石燃料はピークオイルすると高騰する。アメリカは70年代にピークを迎え、ロシアもそろそろピークにさしかかる。そして中国が石油輸出国から輸入国になった。また地球温暖化のリスクもある。オーストラリアでは5年間干ばつが続く異常気象に見舞われた。そこで、人類史上、農業革命、産業革命、IT革命に次ぐ第4の革命といわれる自然エネルギーが注目される。
風力発電は2011年で累積1億9300kW、デンマークとカリフォルニアで始まり30年で原子力発電の半分まできた。太陽光発電は4300万kWだが、伸び方はさらに高く5年後に風力より早く原子力を追い越すと言われる。
理由は2つある。ひとつは市場が広がっているからだ。哲学とビジョンをもつ政治家が強い意志で自然エネルギーを推進し、政府が賢い政策を導入すれば昇り竜のように市場が広がる。ドイツ、カリフォルニア、デンマーク、スペインがそうだった。中国、インドなどが続き、日本は今年の8月26日、88番目に電力の固定価格買い取り制度を導入した。
10年前の02年に自然エネルギー市場は1兆円だったがいま22兆円、10年後には200兆円といわれる。しかし市場の大企業は、欧米、中国、インドで、日本は1社もない。日本のエネルギー政策の失敗が21世紀の産業づくりの局面にも現れている。
成長のもうひとつの理由はコストが下がったことだ。太陽光のコストは昨年1年で17%下がり、今年は前半6か月だけで11%安くなった。ドイツでは2001年ごろ買取価格は約100円だったが今年は29円、メガソーラーは22円で、今後も毎年10%ずつ下がる。
もちろん使う電気を減らすことも重要だ。まず「電気のこぎりでバターを切らない」心構えが必要である。ウランや石油を使って電気をつくるとき、電気になるのは100のうち40だけで60は温排水として捨てられている。せめて残った40は照明やパソコンなど電気でしかできないことに使い、暖房や給湯には、ホットカーペットや電気ストーブ、ヒーター型給湯といった電気機器を使わないことだ。たとえばスウェーデンのヨーテボリでは、壁を42cmの厚さにしたり三重サッシの窓にして暖房不要にしている。
もうひとつは、照明、冷蔵、洗濯といったエネルギーサービスをより少ないエネルギーで維持できる機器に置き換えることだ。たとえば照明器具をコンパクト照明に変えればエネルギー消費量は1/4になり、LEDならもっと下がる。
●いかに現実にイカリを下すか
問題は、こういうビジョンをいかに現実へしっかりイカリを下すかということである。
つくば市には回らない風車がある。環境省が2/3、市が1/3負担し5億円かけて作った風車は回らず住民監査の対象となった。農水省は2002年から10年間かけてバイオマス・ニッポンというプロジェクトを実施した。投入した金額は5000億円。その9割は「効果なし」、残りの1割は「意味がない」と政策評価された。なかには水が流れていない小水力発電実験というものまであった。どうしてこんなことになるのか。行政は補助金を出すことが政策だと勘違いし、東京のコンサルティング事務所が報告書だけ書いて逃げてしまうからだ。残るのはガラクタの山というわけだ。
こんなことにしないためには、行政も地域も信頼できる人を中心に据えてやることだ。その事例がデンマークのサムソ島にある。島で生まれたゾーレン・ハーマンセンが97年に島民出資、島民運営で始め、10年で自然エネルギー100%の島に変えた。
デンマークには狭い国土に6000基もの風車があるが、建設反対運動はほとんど起きていない。住民が風車を立ててよい場所とダメな場所を切り分け、地域の人が85%の風車を所有しているからだ。太陽光でもまぶしいという反対運動や訴訟が起きる可能性がある。
地域のなかでいかに便益のある形をつくるかが大事だ。小さなところから、仲間づくりをし、身の丈サイズのプロジェクトを始めていけば、より大きなことができる。10年もすればダイナミックな変化を日本中で起こしていくことができるだろう。
☆国民投票の基礎となる都民投票を実現する活動が始まっているそうだ。都民投票を行うには条例制定を知事に請求する必要がある。都民22万人の署名を集めないと請求すらできない。署名は12月開始予定だが、現在署名を集める人(受任者)を募集している。みんなで決めよう『原発』国民投票のこのサイトを参照いただきたい。