11月26日(土)夜、世田谷区民会館で「たがやそう、世田谷――保坂のぶと区長、秋の報告会」が開催された(主催 たがやせ世田谷区民の会・保坂展人と元気印の会 参加154人)。
区長就任から7か月、保坂氏が区長としてどんな仕事をしているのか話を聞いてみようと玉電(東急世田谷線)に乗って松陰神社まででかけた。この日は区長就任からちょうど7か月、しかも保坂氏の56歳の誕生日だった。
まず1時間ほど保坂さんの報告があった。この日は区長としてではなく、あくまでも一政治家保坂の政治哲学を語る集会という位置づけだった。そのせいもあり理念的な話が多く、また内容は保坂さんのブログにも掲載されてるので、ごく簡単にポイントのみ紹介する。休憩後の「質問・コメントに答えて」は、現在の区政にその「理念」を適用するとどうなるかという具体的な話があり興味深かったので、その紹介にウェイトを置く。
●報告 保坂のぶと
報告は、5歳のときに仙台から転居し、桜上水の幼稚園に通い、フリーライターとして成城に11年もの長期間事務所を開設していたこと、牟田悌三さんを中心に、28回もの実行委員会を千歳船橋で行い、いじめ問題のシンポジウム「いじめよ止まれ」を用賀中学で開催したことなど、世田谷区と保坂さんとの深い縁から話が始まった。
4月27日の初登庁のとき「95%はこれまでの方針を踏襲するが、残りの5%は大胆に変える」と宣言した。どうしてそんなことを言ったのか。国会質問が大胆だった印象があるかもしれないが、わたしは基本的には慎重に慎重を重ねる性格だ。
区役所には5000人規模の職員がいる。区政の現場は、就任したその日から取り組まなければいけない。じわじわ力をつけていかざるをえない。
また大きなものは細部に宿る。5%の切り替えができれば、組織全体あるいは手法全体を十分切り替えられると考えてきた。
国会議員になったとき、陳情という言葉を聞き、激しい違和感を感じなじめなかった。「陳情」という言葉は上下関係とか垂直な関係をイメージさせる。水平な関係でお互いが助け合う相互扶助と協同の関係に、政治の軸を90度回したい。
12年前介護保険がスタートしたときに比べても区の仕事は増えている。今後もどんどん増えるだろう。しかし区ができることは有限だ。財源もない。起債して借金をするわけにもいかない。この点をあえて率直に打ち出したい。これはいま区がやっていることやこれからやろうとしていることを放棄するというわけではない。
ここで相互扶助と協同の原理を打ち出したい。たとえば最近自分の家屋を区に寄付したいというありがたい申し出が何件か続いている。家屋を区の施設にするというのでなく、地域の住民力、自治力に委ねたい。たとえば介護予防、健康づくり、一人暮らしの高齢者に週に来てもらい週に1,2回いっしょに食事をする場としても使える。高齢者向けのニーズに限らず、子育て、障碍者の施策にも使ってもらえるかもしれない。
自治体には変わらない部分と、変わらなければやっていけない部分とがある。このままでは継続することができない。できないのなら自治体は知恵を出そう。場所を提供し、情報回路をつなぎ、チャンスを提供する。NPO税制は変わったのだから、おカネを集めやすくなったはずだ。自治体が無限に膨張するのでなく、わたしは市民力、住民力、自治力を大いに飛躍させるチャンスだと考えている。
下北沢の再開発、京王線、外環道、二子玉川とまちづくりに関して4つの大きな課題を抱えている。人間が住む町なので、まず第一に人間優先であるべきだと考える。2番目に住民参加である。垂直的な統治と陳情の政治形態から水平的な参加の民主主義に変えていきたい。
95%は従来の継続だが、残りの5%は「水平的な相互扶助と協同」、「参加の民主主義のモデル」で、ガンガン変えていきたい。
自治体のなかで、歴史の審判に耐える挑戦をこれからも続けていきたい。
●質問・コメントに答えて
保坂さんの報告を聞き、休憩時間に参加者が質問やコメントを書き提出した。総数48通、それを司会の森原秀樹さんがまとめ、保坂さんから回答があった。くどいようだが、下記は世田谷区長としての発言ではなく、一政治家保坂さんの考えである。
1 原発関連
Q 6月の成城集会のときに世田谷電力をつくろうという提言もあった。その後どうなっているか。
A 区が事業主体になることにはない。環境整備し、地域の方が幅広く自然エネルギーの利用促進をする地域協議会設置の準備を進めている。設立されれば合意形成の入り口が開かれる。わたしは、世田谷電力はできる方向に動いていくと考えている。
Q 群馬県川場村にある区民健康村施設がスポット的に放射線が高い問題について、安全確保はどうしているか。
A 川場村で5-6月に他地域より高い値が計測された。村長と意見交換し、宿泊施設周辺の土の入れ替えをしてもらい、子どもたちの川場移動教室を継続した。その後数値は下がっている。雨どいの下で高いところがあったが、すぐ工事して低減させた。
Q 子どもの内部被ばくについて
A 給食の食材の産地表示について、保育園では7月から学校では9月から公開を始めた。食材の線量計測は、現在機材の手配をしている。年明け以降に計測を実施する予定だ。
2 保育・教育
Q 保育園の設置問題
A 保育園は本当に足りない。今年も700人規模で増員する計画だが、それでも間に合わない。保育の質を下げず子どもが安心して過ごせる環境の中での保育の枠の拡大は、必要と思っている。残念ながら保育の体制が遅れている部分はあるので、拡充に努めたい。
Q 祖父母世代と子ども世代が積極的に交流する場をつくり生活文化の伝承を図れないか。
A 今年のふるさと区民祭りの子どもコーナーで、おじいちゃん・おばあちゃんがお手玉、竹細工を教えるブースでは満員の盛況がみられた。学校に入って環境教育をしているグループもあるので、うまくつなげていきたい。
3 大型都市開発
Q 区が、都や国の計画を変える力はあるのか。
A 都や国に対する力は、住民の後ろ盾が必須条件となる。区民の多くの支持があれば特別区の制約をはずすことが可能になる。
Q 京王線高架はなぜ止まらないのか。八ッ場ダムと同じだ。
A 環境アセスメントの意見書に震度7,8に耐えるかという意見を書いて提出した。
Q 外環道の国交省の用地買収が進んでいる。この現状をどう考えるか。
A これまで進んだ事業に対しどこで情報公開や住民参加をどう保障するのかという問題だと思う。少なくとも、これまでなかった情報をきちんと出し、これからでも保障できる住民参加は最大限行うことを原則にする。人間中心、住民参加、災害に対する備えということを兼ね合わせながらやっていきたい。
Q 下北沢の再開発問題に関する考え方を再度示してほしい。
A 小田急線下北沢駅の地下25mでトンネル工事が進んでいる。ヘルメットをかぶって見学した。地上部に長さ2.2km、幅20-30mのスペースが新たに生まれる。今日の午後、ニューヨークの鉄道跡地が公園に生まれ変わりまちのポテンシャルが上がったという話を聞いたばかりだ。下北沢でも鉄道跡地を緑の回廊にしたい。災害対策としても合理的だ。しかしそのためには多くの区民の賛同がないとできない。下北沢全体のレイアウトをどうするかという問題は、もっと住民参加の場を重ねて結論を出していきたい。
Q 都道放射5号線の工事は杉並区内で行われるが、被害を一番受けるのは世田谷区だ。区で何かできることはあるのか。
A 区内には都道もある。財源には限りがあるので、福祉や命を最優先とし、プライオリティを付ける必要がある。これから2年(実質1年)かけて基本構想審議会で30年通用するビジョンを組み立て、そのなかで結論を出していきたい。
(大型都市開発の質問をした人は、同時に「5%の変更では少ない」という意見の人が多いというコメントに対し)
A 船の操舵室で5%舵をきることは大変なことだ。かつて世田谷には「変えるべきところは変える」伝統があった。近年それが形骸化しているので区民とキャッチボールできる時代に戻したい。
4 福祉社会
Q 高福祉高負担の北欧型社会をどう考えるか。
A 政治家個人として、貯金を考えなくてよい国は幸せな国だと思う。ただ役所がすべてを抱える高福祉はむずかしい。といっても、いまある制度をやめるという話ではない。それだけでは間に合わない実態が現にあるという認識をもっている。民と公の中間のゾーンが今後増える。福祉的なまなざしをもつソーシャルビジネスが発展することを願う。
Q 生活保護の適用縮小や打ち切りという方向が国にあるが、どう考えるか。
A 今日触れられなかった問題で力を入れたいことで自殺対策がある。全国で年に3万人、世田谷では若者の自殺も多い。死の瀬戸際でどんなホットラインをつくるか。生活保護の濫用があればもちろん改めるべきだが、生活保護以外にセーフティネットがないという現実がある。日本の労働保険は3か月だが、他国では1年なので、ケースワーカーが生活保護を勧めざるをえない。働く意思がある人には仕事を探すサポートがあればと思う。区内でも知恵を出して取り組むが、生活保護以外のセーフティネットは大きな課題である。
☆「国会の質問王」から行政(自治体)の責任者へと立場が変わり、まだアクセルの踏み込み方を調整中のようだった。おそらく少数与党の議会という事情も大きいのだろう。
もちろん慎重に慎重を重ねることは大事なポイントだ。しかし5%をいかに魅力的にみせるかということはやはり重要だ。アピールすることにも力を注いでいただきたい。
区長就任から7か月、保坂氏が区長としてどんな仕事をしているのか話を聞いてみようと玉電(東急世田谷線)に乗って松陰神社まででかけた。この日は区長就任からちょうど7か月、しかも保坂氏の56歳の誕生日だった。
まず1時間ほど保坂さんの報告があった。この日は区長としてではなく、あくまでも一政治家保坂の政治哲学を語る集会という位置づけだった。そのせいもあり理念的な話が多く、また内容は保坂さんのブログにも掲載されてるので、ごく簡単にポイントのみ紹介する。休憩後の「質問・コメントに答えて」は、現在の区政にその「理念」を適用するとどうなるかという具体的な話があり興味深かったので、その紹介にウェイトを置く。
●報告 保坂のぶと
報告は、5歳のときに仙台から転居し、桜上水の幼稚園に通い、フリーライターとして成城に11年もの長期間事務所を開設していたこと、牟田悌三さんを中心に、28回もの実行委員会を千歳船橋で行い、いじめ問題のシンポジウム「いじめよ止まれ」を用賀中学で開催したことなど、世田谷区と保坂さんとの深い縁から話が始まった。
4月27日の初登庁のとき「95%はこれまでの方針を踏襲するが、残りの5%は大胆に変える」と宣言した。どうしてそんなことを言ったのか。国会質問が大胆だった印象があるかもしれないが、わたしは基本的には慎重に慎重を重ねる性格だ。
区役所には5000人規模の職員がいる。区政の現場は、就任したその日から取り組まなければいけない。じわじわ力をつけていかざるをえない。
また大きなものは細部に宿る。5%の切り替えができれば、組織全体あるいは手法全体を十分切り替えられると考えてきた。
国会議員になったとき、陳情という言葉を聞き、激しい違和感を感じなじめなかった。「陳情」という言葉は上下関係とか垂直な関係をイメージさせる。水平な関係でお互いが助け合う相互扶助と協同の関係に、政治の軸を90度回したい。
12年前介護保険がスタートしたときに比べても区の仕事は増えている。今後もどんどん増えるだろう。しかし区ができることは有限だ。財源もない。起債して借金をするわけにもいかない。この点をあえて率直に打ち出したい。これはいま区がやっていることやこれからやろうとしていることを放棄するというわけではない。
ここで相互扶助と協同の原理を打ち出したい。たとえば最近自分の家屋を区に寄付したいというありがたい申し出が何件か続いている。家屋を区の施設にするというのでなく、地域の住民力、自治力に委ねたい。たとえば介護予防、健康づくり、一人暮らしの高齢者に週に来てもらい週に1,2回いっしょに食事をする場としても使える。高齢者向けのニーズに限らず、子育て、障碍者の施策にも使ってもらえるかもしれない。
自治体には変わらない部分と、変わらなければやっていけない部分とがある。このままでは継続することができない。できないのなら自治体は知恵を出そう。場所を提供し、情報回路をつなぎ、チャンスを提供する。NPO税制は変わったのだから、おカネを集めやすくなったはずだ。自治体が無限に膨張するのでなく、わたしは市民力、住民力、自治力を大いに飛躍させるチャンスだと考えている。
下北沢の再開発、京王線、外環道、二子玉川とまちづくりに関して4つの大きな課題を抱えている。人間が住む町なので、まず第一に人間優先であるべきだと考える。2番目に住民参加である。垂直的な統治と陳情の政治形態から水平的な参加の民主主義に変えていきたい。
95%は従来の継続だが、残りの5%は「水平的な相互扶助と協同」、「参加の民主主義のモデル」で、ガンガン変えていきたい。
自治体のなかで、歴史の審判に耐える挑戦をこれからも続けていきたい。
●質問・コメントに答えて
保坂さんの報告を聞き、休憩時間に参加者が質問やコメントを書き提出した。総数48通、それを司会の森原秀樹さんがまとめ、保坂さんから回答があった。くどいようだが、下記は世田谷区長としての発言ではなく、一政治家保坂さんの考えである。
1 原発関連
Q 6月の成城集会のときに世田谷電力をつくろうという提言もあった。その後どうなっているか。
A 区が事業主体になることにはない。環境整備し、地域の方が幅広く自然エネルギーの利用促進をする地域協議会設置の準備を進めている。設立されれば合意形成の入り口が開かれる。わたしは、世田谷電力はできる方向に動いていくと考えている。
Q 群馬県川場村にある区民健康村施設がスポット的に放射線が高い問題について、安全確保はどうしているか。
A 川場村で5-6月に他地域より高い値が計測された。村長と意見交換し、宿泊施設周辺の土の入れ替えをしてもらい、子どもたちの川場移動教室を継続した。その後数値は下がっている。雨どいの下で高いところがあったが、すぐ工事して低減させた。
Q 子どもの内部被ばくについて
A 給食の食材の産地表示について、保育園では7月から学校では9月から公開を始めた。食材の線量計測は、現在機材の手配をしている。年明け以降に計測を実施する予定だ。
2 保育・教育
Q 保育園の設置問題
A 保育園は本当に足りない。今年も700人規模で増員する計画だが、それでも間に合わない。保育の質を下げず子どもが安心して過ごせる環境の中での保育の枠の拡大は、必要と思っている。残念ながら保育の体制が遅れている部分はあるので、拡充に努めたい。
Q 祖父母世代と子ども世代が積極的に交流する場をつくり生活文化の伝承を図れないか。
A 今年のふるさと区民祭りの子どもコーナーで、おじいちゃん・おばあちゃんがお手玉、竹細工を教えるブースでは満員の盛況がみられた。学校に入って環境教育をしているグループもあるので、うまくつなげていきたい。
3 大型都市開発
Q 区が、都や国の計画を変える力はあるのか。
A 都や国に対する力は、住民の後ろ盾が必須条件となる。区民の多くの支持があれば特別区の制約をはずすことが可能になる。
Q 京王線高架はなぜ止まらないのか。八ッ場ダムと同じだ。
A 環境アセスメントの意見書に震度7,8に耐えるかという意見を書いて提出した。
Q 外環道の国交省の用地買収が進んでいる。この現状をどう考えるか。
A これまで進んだ事業に対しどこで情報公開や住民参加をどう保障するのかという問題だと思う。少なくとも、これまでなかった情報をきちんと出し、これからでも保障できる住民参加は最大限行うことを原則にする。人間中心、住民参加、災害に対する備えということを兼ね合わせながらやっていきたい。
Q 下北沢の再開発問題に関する考え方を再度示してほしい。
A 小田急線下北沢駅の地下25mでトンネル工事が進んでいる。ヘルメットをかぶって見学した。地上部に長さ2.2km、幅20-30mのスペースが新たに生まれる。今日の午後、ニューヨークの鉄道跡地が公園に生まれ変わりまちのポテンシャルが上がったという話を聞いたばかりだ。下北沢でも鉄道跡地を緑の回廊にしたい。災害対策としても合理的だ。しかしそのためには多くの区民の賛同がないとできない。下北沢全体のレイアウトをどうするかという問題は、もっと住民参加の場を重ねて結論を出していきたい。
Q 都道放射5号線の工事は杉並区内で行われるが、被害を一番受けるのは世田谷区だ。区で何かできることはあるのか。
A 区内には都道もある。財源には限りがあるので、福祉や命を最優先とし、プライオリティを付ける必要がある。これから2年(実質1年)かけて基本構想審議会で30年通用するビジョンを組み立て、そのなかで結論を出していきたい。
(大型都市開発の質問をした人は、同時に「5%の変更では少ない」という意見の人が多いというコメントに対し)
A 船の操舵室で5%舵をきることは大変なことだ。かつて世田谷には「変えるべきところは変える」伝統があった。近年それが形骸化しているので区民とキャッチボールできる時代に戻したい。
4 福祉社会
Q 高福祉高負担の北欧型社会をどう考えるか。
A 政治家個人として、貯金を考えなくてよい国は幸せな国だと思う。ただ役所がすべてを抱える高福祉はむずかしい。といっても、いまある制度をやめるという話ではない。それだけでは間に合わない実態が現にあるという認識をもっている。民と公の中間のゾーンが今後増える。福祉的なまなざしをもつソーシャルビジネスが発展することを願う。
Q 生活保護の適用縮小や打ち切りという方向が国にあるが、どう考えるか。
A 今日触れられなかった問題で力を入れたいことで自殺対策がある。全国で年に3万人、世田谷では若者の自殺も多い。死の瀬戸際でどんなホットラインをつくるか。生活保護の濫用があればもちろん改めるべきだが、生活保護以外にセーフティネットがないという現実がある。日本の労働保険は3か月だが、他国では1年なので、ケースワーカーが生活保護を勧めざるをえない。働く意思がある人には仕事を探すサポートがあればと思う。区内でも知恵を出して取り組むが、生活保護以外のセーフティネットは大きな課題である。
☆「国会の質問王」から行政(自治体)の責任者へと立場が変わり、まだアクセルの踏み込み方を調整中のようだった。おそらく少数与党の議会という事情も大きいのだろう。
もちろん慎重に慎重を重ねることは大事なポイントだ。しかし5%をいかに魅力的にみせるかということはやはり重要だ。アピールすることにも力を注いでいただきたい。