松本哉(はじめ)「貧乏人の逆襲! タダで生きる方法」(筑摩書房 2008.6 1200円)を読んだ。
冒頭いきなり「すまん、ちょっと言い過ぎた。『タダで生きる方法」といってもさすがに難しいか・・・。だが!それ以上のとんでもない作戦を練ってしまうので安心してくれ!(略)この本では『勝ち組』を目指して奴隷のようにくだらないことをして生きていかなくても、勝手に生きていく手段を身につけていく目論見をしていきたい。つまり!本書は我々貧乏人階級のサバイバル術実用書なのだ!どうだ、まいったか!騒ぎだ、騒ぎだ!祭りだ、祭りだ!!」という威勢のよい前書きで始まる。
著者は1974年東京生まれ、法政大学学生時代に「法政の貧乏くささを守る会」を結成、生協食堂前で「カレー闘争」、夜間部廃止反対コタツ闘争、などを決行、2001年卒業後、高円寺北中商店街でリサイクルショップ「素人の乱」を主宰するかたわら「俺のチャリを返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろ一揆」などを行った。この道すでに12年の筋金入りの「活動家(?)」である。
本文は、住居費、食費、交通費を安く切り上げるノウハウから始まる。住居費に関し、不動産屋は数を回ることがコツで、2順目になると「謎のファイル」が出てくることもある、とか、いざという場合の野宿作戦の項で、雨対策のビニールのゴミ袋や蚊取り線香など、著者の体験に基づくワザが数多く紹介されている。しかし単なる節約ノウハウ本ではない。そこで「メディアを勝手につくろう」という節もある。自治体の施設なら用紙持込で印刷代は格安、ビラの配布は停車中の自転車のカゴにひたすら投げ込むというワザが紹介されている。
しかし松本氏は個人レベルのやりくりだけでは満足しない。
「我々貧乏人が金をかけずに生活する術を身につけたところで、安月給・高い家賃などを駆使して貧乏人から金を巻き上げる社会のシステムは変わらない(略)そんな奴隷の処世術などは真っ平御免である」と、地域ぐるみの自給自足作戦へとステージが展開する。
リサイクルショップを要らなくなった人と欲しい人をつなげるセンターと位置づけ、「リサイクルショップは貧乏人から金を巻き上げるボッタクリ経済システムには一切関与しないのだ!こいつはすごい。(略)近所のおばちゃんが「あら、これ安いわねぇ」と中古のやかんを買って行くことが反体制行動なのだ!なんだこりゃ!」と解説する。そして地域でイベントや祭りをやったり、映画づくり・演劇づくりをするときリサイクルショップを味方につけておくと物が舞い込んでくるとメリットを挙げる。
また個人商店の集まりである商店街の人たちは、困ったときに自分でできてしまう人たちなので仲良くしていて損はないとアドバイスする。松本氏は商店街のイベントの小間使いや町内会の役員を引き受け地道な活動をしている。ただし、町内会は戦前の隣組の名残で、権力の末端であることも認識したうえで、一方「地域コミュニティの自治」の側面もあることを強調する。
こうしてしっかり地域に入り込んだうえで、最後は路上宴会、デモなど「祭り」のすすめとなる。
「攻撃は最大の防御!『おいこりゃあちょっと生きづらいぞ!』という時は、むやみに反乱を起こしておいたほうがいい」と「乱」を奨励する。とはいっても皇居にロケット弾を打ち込んだり企業爆破するのではなく「ひたすら街に打って出て遊ぶのだ!」というノリである。具体的には路上宴会やサウンドデモ、警察署との申請時のかけひきなどが紹介されている。
フィナーレを飾るのは選挙である。松本氏は2007年4月の統一地方選・杉並区議選に立候補した。目的は議席獲得ではなく、選挙期間中の高円寺駅前広場を「解放区」にし、「街頭を我々の手に奪い返す」ことだった。軽四輪トラックの荷台に透明ビニールの幌を付け、巨大アンプとスピーカーを搭載したサウンド選挙カーを仕立てた。選挙初日の夕方6時、高円寺駅前でシアトルの反WTOでも活躍したアメリカ人DJがプレイし、ラッパーECDがマイクを握った。群衆は100人200人と集まってきた。その後もパンク系のライブ、黒タイツの舞踏、雨宮処凛やペペ長谷川のトークイベントなどが1週間繰り広げられた。最終日夜のイベントに集まった群衆は数百人に膨れ上がった。投票結果は1061票で落選だった。しかし落選した候補者21人中12番目なので健闘している。
この本は、ひとことでいうと社会運動の実践書だが、じつは、納得できる生き方の提案、それを実現するための「実用書」である。
雨宮処凛との対談の章で、松本氏は「労働運動は、今の社会の中で賃労働して生きていくというのが大前提にあって」「でも、それじゃあ生きてて面白くないから、自分たちで勝手に生きていったほうがいいんじゃないか」と答えている。
「貧乏人が勝手なことをやるための技術はいくらでもあるわけだから、貧乏人の全てのものを使って、反乱を起こしていかないと話にならないと思うんですよね。のうのうと生活しているよりも、どんどん勝手なことをやり出さないとしょうがないですね」
「この本は反乱のバイブルみたいなとんでもないものになってほしいねー」と結んでいる。
巻末に「松本哉年表」「参考資料」まで収録されており書籍としても、充実している。たぶん編集者がきちんとした人なのだろう。
わたくしにとっては、選挙の部分がもっとも参考になった。
2007年の区議選のとき、わたくしは別の区で新人候補の支援運動に加わっていた。やったのは、ポスティング、ポスター貼り、ハガキの宛名書、電話入れ、練り歩きなど末端運動員がやる伝統的な行動ばかりだった。結果は落選、しかも供託金没収点にも達しなかった。
若い人の共感を得るには、少なくともこういう「祭り」やパフォーマンスを許容できる運動にしないと受け入れられにくいことがよくわかる。若い世代を引きつける仕掛けを考えることは重要だ。
パフォーマンスといえば、ショッピングモールの前で、黒マント、黒マスク・日の丸はちまき姿で怪人の役をやったとき、子どもが「あれが見たい」と母親ともども聞いてくれたことがあった。沖縄戦の署名活動で、三線があるとそれなりに注目を浴びた。
表現と人に影響を及ぼす運動は似ているところがある。しかしたんに目立つためのパフォーマンスでは人に主張したり相手に納得してもらうことはできない。もっとも人前でのたんなる奇行も、やっている本人にとっては非常に楽しいのだが。
一方、地域に融け込む地道な活動は重要だ。松本氏が町内会の組長まで引き受けているのは立派だ。原宿の商店街で店の若い人たちがゴミ清掃に協力しているという話を聞いたことがある。
何をやるにせよ地道な活動は重要だ。ただ、志を高く維持しておかないと、たんに向こう側に取り込まれるだけの結果にもなりかねない。その点松本氏は偉いと思う。
☆湯浅誠氏が「活動家一丁あがり!」という講座を実施している。チラシの作り方、集会の開き方、デモのやり方など具体的なノウハウを伝授する講座で、来年3月の「一丁あがり!」」の時期には都内近辺でミニ集会やイベントがたくさん開催される予定だそうだ。松本氏の著書はこの講座にも少し似ている。なお日本では「活動家」というと独善的で悪いイメージがつきまとうが、欧米では堂々と「アクティヴィスト」と自己紹介するそうである。
冒頭いきなり「すまん、ちょっと言い過ぎた。『タダで生きる方法」といってもさすがに難しいか・・・。だが!それ以上のとんでもない作戦を練ってしまうので安心してくれ!(略)この本では『勝ち組』を目指して奴隷のようにくだらないことをして生きていかなくても、勝手に生きていく手段を身につけていく目論見をしていきたい。つまり!本書は我々貧乏人階級のサバイバル術実用書なのだ!どうだ、まいったか!騒ぎだ、騒ぎだ!祭りだ、祭りだ!!」という威勢のよい前書きで始まる。
著者は1974年東京生まれ、法政大学学生時代に「法政の貧乏くささを守る会」を結成、生協食堂前で「カレー闘争」、夜間部廃止反対コタツ闘争、などを決行、2001年卒業後、高円寺北中商店街でリサイクルショップ「素人の乱」を主宰するかたわら「俺のチャリを返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろ一揆」などを行った。この道すでに12年の筋金入りの「活動家(?)」である。
本文は、住居費、食費、交通費を安く切り上げるノウハウから始まる。住居費に関し、不動産屋は数を回ることがコツで、2順目になると「謎のファイル」が出てくることもある、とか、いざという場合の野宿作戦の項で、雨対策のビニールのゴミ袋や蚊取り線香など、著者の体験に基づくワザが数多く紹介されている。しかし単なる節約ノウハウ本ではない。そこで「メディアを勝手につくろう」という節もある。自治体の施設なら用紙持込で印刷代は格安、ビラの配布は停車中の自転車のカゴにひたすら投げ込むというワザが紹介されている。
しかし松本氏は個人レベルのやりくりだけでは満足しない。
「我々貧乏人が金をかけずに生活する術を身につけたところで、安月給・高い家賃などを駆使して貧乏人から金を巻き上げる社会のシステムは変わらない(略)そんな奴隷の処世術などは真っ平御免である」と、地域ぐるみの自給自足作戦へとステージが展開する。
リサイクルショップを要らなくなった人と欲しい人をつなげるセンターと位置づけ、「リサイクルショップは貧乏人から金を巻き上げるボッタクリ経済システムには一切関与しないのだ!こいつはすごい。(略)近所のおばちゃんが「あら、これ安いわねぇ」と中古のやかんを買って行くことが反体制行動なのだ!なんだこりゃ!」と解説する。そして地域でイベントや祭りをやったり、映画づくり・演劇づくりをするときリサイクルショップを味方につけておくと物が舞い込んでくるとメリットを挙げる。
また個人商店の集まりである商店街の人たちは、困ったときに自分でできてしまう人たちなので仲良くしていて損はないとアドバイスする。松本氏は商店街のイベントの小間使いや町内会の役員を引き受け地道な活動をしている。ただし、町内会は戦前の隣組の名残で、権力の末端であることも認識したうえで、一方「地域コミュニティの自治」の側面もあることを強調する。
こうしてしっかり地域に入り込んだうえで、最後は路上宴会、デモなど「祭り」のすすめとなる。
「攻撃は最大の防御!『おいこりゃあちょっと生きづらいぞ!』という時は、むやみに反乱を起こしておいたほうがいい」と「乱」を奨励する。とはいっても皇居にロケット弾を打ち込んだり企業爆破するのではなく「ひたすら街に打って出て遊ぶのだ!」というノリである。具体的には路上宴会やサウンドデモ、警察署との申請時のかけひきなどが紹介されている。
フィナーレを飾るのは選挙である。松本氏は2007年4月の統一地方選・杉並区議選に立候補した。目的は議席獲得ではなく、選挙期間中の高円寺駅前広場を「解放区」にし、「街頭を我々の手に奪い返す」ことだった。軽四輪トラックの荷台に透明ビニールの幌を付け、巨大アンプとスピーカーを搭載したサウンド選挙カーを仕立てた。選挙初日の夕方6時、高円寺駅前でシアトルの反WTOでも活躍したアメリカ人DJがプレイし、ラッパーECDがマイクを握った。群衆は100人200人と集まってきた。その後もパンク系のライブ、黒タイツの舞踏、雨宮処凛やペペ長谷川のトークイベントなどが1週間繰り広げられた。最終日夜のイベントに集まった群衆は数百人に膨れ上がった。投票結果は1061票で落選だった。しかし落選した候補者21人中12番目なので健闘している。
この本は、ひとことでいうと社会運動の実践書だが、じつは、納得できる生き方の提案、それを実現するための「実用書」である。
雨宮処凛との対談の章で、松本氏は「労働運動は、今の社会の中で賃労働して生きていくというのが大前提にあって」「でも、それじゃあ生きてて面白くないから、自分たちで勝手に生きていったほうがいいんじゃないか」と答えている。
「貧乏人が勝手なことをやるための技術はいくらでもあるわけだから、貧乏人の全てのものを使って、反乱を起こしていかないと話にならないと思うんですよね。のうのうと生活しているよりも、どんどん勝手なことをやり出さないとしょうがないですね」
「この本は反乱のバイブルみたいなとんでもないものになってほしいねー」と結んでいる。
巻末に「松本哉年表」「参考資料」まで収録されており書籍としても、充実している。たぶん編集者がきちんとした人なのだろう。
わたくしにとっては、選挙の部分がもっとも参考になった。
2007年の区議選のとき、わたくしは別の区で新人候補の支援運動に加わっていた。やったのは、ポスティング、ポスター貼り、ハガキの宛名書、電話入れ、練り歩きなど末端運動員がやる伝統的な行動ばかりだった。結果は落選、しかも供託金没収点にも達しなかった。
若い人の共感を得るには、少なくともこういう「祭り」やパフォーマンスを許容できる運動にしないと受け入れられにくいことがよくわかる。若い世代を引きつける仕掛けを考えることは重要だ。
パフォーマンスといえば、ショッピングモールの前で、黒マント、黒マスク・日の丸はちまき姿で怪人の役をやったとき、子どもが「あれが見たい」と母親ともども聞いてくれたことがあった。沖縄戦の署名活動で、三線があるとそれなりに注目を浴びた。
表現と人に影響を及ぼす運動は似ているところがある。しかしたんに目立つためのパフォーマンスでは人に主張したり相手に納得してもらうことはできない。もっとも人前でのたんなる奇行も、やっている本人にとっては非常に楽しいのだが。
一方、地域に融け込む地道な活動は重要だ。松本氏が町内会の組長まで引き受けているのは立派だ。原宿の商店街で店の若い人たちがゴミ清掃に協力しているという話を聞いたことがある。
何をやるにせよ地道な活動は重要だ。ただ、志を高く維持しておかないと、たんに向こう側に取り込まれるだけの結果にもなりかねない。その点松本氏は偉いと思う。
☆湯浅誠氏が「活動家一丁あがり!」という講座を実施している。チラシの作り方、集会の開き方、デモのやり方など具体的なノウハウを伝授する講座で、来年3月の「一丁あがり!」」の時期には都内近辺でミニ集会やイベントがたくさん開催される予定だそうだ。松本氏の著書はこの講座にも少し似ている。なお日本では「活動家」というと独善的で悪いイメージがつきまとうが、欧米では堂々と「アクティヴィスト」と自己紹介するそうである。