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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

ウルボ――泣き虫ボクシング部

2017年12月15日 | 映画
12月2日(土)夜、東京朝鮮高級学校ボクシング部を描いたドキュメンタリー映画「ウルボ――泣き虫ボクシング部(監督 李一河(イ・イルハ) 2015 86分 この日の主催:枝川朝鮮学校支援都民基金を見に、江東区枝川の東京朝鮮第二初級学校(枝川朝鮮学校)に行った。その前に行ったのは大阪朝鮮高級学校ラグビー部を描いた「60万回のトライ(監督:朴思柔、朴敦史)を見たときなので3年ぶりになる。

着いたのは夕方6時前、校庭では真っ暗な中で少年たちがサッカーの練習をしていた。講堂に入ると後方で、キムチやビールを販売していた。
上映に先立ち金剛保険から学校にテントの寄贈式が行われた。全国の朝鮮学校に寄贈しているそうだ。

そして86分の映画の上映が始まった。この作品は韓国の李一河(イ・イルハ)監督のドキュメンタリー作品だ。韓国で2015年に初上映、日本では2016年に練馬、参議院議員会館、大阪、豊橋などで自主上映、今年4月から渋谷や横浜の映画館で上映されたそうだ。
撮影に1年半、編集に6か月ということなので、登場する高校生は3-4年前に卒業した年代だと考えられる。

映画は、インターハイの予選、日本全国の朝鮮高校の中央体育大会、3年生から2年生への引継式などを主要イベントとし、東京朝鮮高級学校ボクシング部の生徒と監督の1年が描かれる。
ウルボ(泣き虫)というタイトルは、引継式も終わり卒業間近の3年生がキム・サンス監督とともに風呂に入っているシーンがあり、キム監督への映画スタッフ(たぶんイ監督)の「この3年生はどんな子たちでしたか」という質問に「ウルボ(泣き虫)」と答えたことに由来する。 
たしかに、試合に負けては泣き、勝っても泣き、膝の故障で試合に出られないといって悔し泣きし、よく泣いていた。最後は監督の先生も泣いていた。

過酷な練習、試合の前のプレッシャーや試合後の後悔も出てくる。監督の「心で負けるな、顔を上げろ」「君たちは3年間つらい練習にも耐えてきた」というセリフにみえるように生徒の成長の物語にもなっている。キャプテンの「青春、いましかない」というセリフもあったが、一言でいえば「青春のスポーツ映画」だ。
しかし7人の選手と女子マネジャー、監督だけの映画ではない。選手の家族、1世や2世の祖父母、相手チーム・大阪朝鮮高級学校の選手、習志野高校の坂巻監督、OBの2人のプロボクサーなど多彩な人びとへのインタビュー動画が映し出される。なかでも高校生の表情と言葉が生き生きしていた。
ボクシング部の活動がメインではあるが、大学検定試験、運動会、修学旅行(祖国訪問団という名称)、卒業式など学園生活も盛り込まれている。板門店の近くで食べたナポリタンがおいしかったというエピソードは、わけがわからず面白かった。
在日の生活は、日本社会の根深い差別と切り離せない。かつて指紋押捺制度、就職差別など制度上の問題があった。だいたい高校のクラブがどんなに強くても、公式試合に出場できないという問題もあった。廃止・改善されたものもあるが、やはり差別感は根強く存在する。文科省前金曜行動で保護者が「名前が朝鮮人っぽいという理由で『おい、朝鮮』『チョン』といじめてよいのか」と憤り(無償化はずしで)「機会均等を奪うな」「奪うなー」と絶叫していたが、それには十分な理由がある。
背景説明のため、「朝鮮人は帰れ!」「叩き出せ!」の大合唱の大久保・ヘイトデモ、京都朝鮮学校への襲撃事件(2009年)など日本社会での在日朝鮮人差別、無償化を求める金曜行動の動画も差し挟まれる。
朝鮮学校OBでプロボクサーになった選手が、韓国や共和国在住の朝鮮人でもなく、日本に住んでいるが日本人ではない在日は、「どこにも属さない」「悪くいえば属せない」と語ったが、そういう社会で生きていくうえで、在日の人びとにとって朝鮮学校は貴重な拠点だ。朝鮮語で学び、校内での日常語は朝鮮語を使っている場所。そして日本の敗戦後、自分たちが自分たちの手でつくった学校という自負と誇りがある。たとえば運動会は一族郎党が集合する一大イベントである。
ウリ・ハッキョ、民族学校がこの映画の本当のテーマだといえる。卒業間近の「いつでも学校に遊びにきなさい」という先生の言葉にも特別な意味が込められている。、
ウリ・ハッキョ、民族学校が映画のテーマという点では、昨年みた茨城朝鮮初中高級学校を描いた「蒼のシンフォニー(朴英二〈パク・ヨンイ〉監督 2016)も同じだった。
ただこの作品はていねいに目配りをしているが、その反面、あまりに多くの要素が散りばめられているので、見ていて中心となるボクシング部3年生7人のディテールがわからなくなってしまった。一方、一人の人物を追ったものでもチームの活動を追ったものでもないので中心テーマが明快ではない。
なおわたくしはプロの試合も含めて、ほとんどボクシングに関心がなく残念ながらまったく知識がない。少し知識があれば、試合のシーンや練習風景をみて感動するショット、迫力あるショット、技術的な面の感想がいくつかあったかもしれない。それでもボクシングは個人競技だが、「60万回のトライ」のラグビーなどと同様に団体で戦うスポーツだということは理解できた。
そのほか、音楽がよかった。朝鮮学校の女性徒が歌う「」や舞踊がいいのはいうまでもないが、それ以外にも映画で使われていた音楽、たとえば「声よ集まれ、歌となれ」(文科省前金曜行動でよく歌われる歌)や「アリラン」、ロックの曲、バスのなかで部員が歌う「イムジン川」などもよかった。
 
終映後にトークがあると聞いたので、「100万回のトライ」上映のときと同様に、てっきり映画監督イ・イルハさんのトークだと勘違いした。ところが現れたのはボクシング部のキム・サンス監督だった。イルハさんは韓国在住のはずなので、仕方がない。
キム監督は子どものころに空手、学生時代にサッカーの経験はあるが、ボクシングは引継にあたり、前監督から教わっただけだそうだ。
「ボクシングを通して、ボクシング以外のことも学んで卒業してほしい」というのが信念のようだ。また、この映画をまだ見ていない人への希望を問われ「ボクシング部だけでなく、朝鮮学校に関心をもってもらえるとありがたい」と答えた。

最後に東京朝鮮中高級学校「高校無償化」裁判弁護団師岡康子弁護士から、9月13日の判決後の経過について説明があった。
12月18日の控訴理由書提出を前に週1―2回集まり、控訴審の準備を進めている。具体的には、文科省に新たな証拠を文書で求めたり、意見書提出の準備、裁判官の朝鮮学校への偏見を解くための手立てなどだ。
控訴審の第1回期日は3月20日(火)15時と決定しているので、また傍聴に集まっていただきたい。

☆日本国内の差別というと、沖縄差別、とりわけアベやスガ官房長官の差別は目に余る。12月12日夕方、参議院議員会館講堂で「山城裁判を知ろう!」という院内集会が開催された(主催:市民と議員の実行委員会 参加295人)。2014年7月22日高江に東京の警視庁機動隊が現れたときから急に暴力的になったそうだ。それまでは、沖縄県警は「公平中立」の方針に則り、デモ隊と現場指揮者とのあいだには日日の暗黙のルールがあった。それが「公平中立」を投げ捨て、沖縄防衛局の立場に寄りそうように変わった。その背景にはアベやスガの指令があり、たとえば海上保安庁の長官を呼びつけた結果、辺野古の保安庁が暴力を振るい海難者をつくろうとする行動を行うようになった。
山城博治さんの裁判は12月4日の論告求刑で懲役2年6月を受け、12月20日(水)に弁護側の最終弁論、そして3月14日に判決の予定になっている。
「こんな時代だからこそ、顔を上げ希望をもって闘いぬこう」と、スピーチのはじめに「沖縄今こそ立ち上がろう」「座りこめここへ」「辺野古へ行こう(「明日があるさ」の替え歌)、スピーチの最後に「喜瀬武原、空高くのろしよ燃え上がれ」で始まる「喜瀬武原
(キセンバル)」の3番を歌った。いつも1曲くらい歌が入るが、この日は4曲も披露された。気合が入っている証拠だと思った。
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1 コメント

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転載のお願い (金日宇)
2017-12-17 13:09:01
2018年1月に刊行する『朝鮮がっうのある風景』47号で紹介させてください。
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